金 正 日

文学・芸術作品に人びとの革命的世界観の
形成過程を克明に描出するために
−文学・芸術部門活動家との談話− 
1970年2月19日 

 金日成同志はこの17日、科学・教育および文学・芸術部門活動家協議会で『教育と文学・芸術は人びとの革命的世界観の確立に貢献すべきである』と題する歴史的な演説をおこないました。

 人びとの革命的世界観の形成に貢献するのは、革命的文学 芸術の・基本的使命であり、本質的要求であります。革命的文学・芸術が革命と建設の強力な武器、大衆教育の有力な手段となるのは、それがまさに人びとの革命的世界観の形成に寄与するからです。

 金日成同志は、文学・芸術がその基本的使命を正しく果たすよう、常に深い関心を寄せてきました。近年も金日成同志は、朝鮮労働党中央委員会第4期第20回拡大総会での結語『青少年に対する共産主義教育の諸問題』をはじめ、多くの教えで青少年を真の革命家に育成するための原則的諸問題を解明し、革命的文学・芸術の任務と役割を具体的に示しています。革命的文学・芸術が教育上大きな役割を果たすので、金日成同志はみずからが読み、革命意識の発展に負うところが大きかったゴーリキーの小説『母』や魯迅の作品、また『鴨緑江上』『鉄の流れ』などの外国の小説についてもたびたび言及しています。

 これまで文学・芸術部門では、党の指導のもとに金日成同志の教えを実践する闘争を力強く繰り広げ、創作で少なからぬ成果をおさめました。最近、映画芸術部門をとってみても、不朽の名作『血の海』を脚色した劇映画『血の海』をはじめ、人びとの革命的世界観の形成過程をリアルに描いた多くの革命的作品が創作されました。

 文学・芸術作品を革命教育、階級的教育、共産主義教育に役立たせるためにはまず、人間の革命意識の芽生えと成長の過程、革命的世界観の形成、発展の過程を克明に描かなければなりません。

 ところが、一部の作品にはまだ生活描写が乏しく、人間の思想・意識の発展過程が十分に描かれていません。これは、作家、芸術家に描写方法や手法を正しく生かす創作能力が欠如しているというよりは、人間の革命的世界観の形成に対する認識が欠けているためです。革命的世界観とは何であり、それがどのように形成されて発展し、強固なものになるのかを正しく認識しなければ、作品に正しく反映することができません。

 一般的に言って、世界観とは世界に対する見解と立場を意味します。人間が世界をどのような観点から観照して評価し、どのような立場で対応するかによって、その思考と実践活動のすべてが規定されます。したがって、人間はその世界観のいかんによって、革命的に思考し行動するようにもなり、そうできないこともあります。

 革命的世界観の確立した人は、自然と社会を科学的に認識することができ、事物と現象を労働者階級の立場で分析、判断し、革命の利益に即して行動することができます。革命的世界観の確立した人は、労働者階級の革命思想に反するあらゆる古い思想の影響にも動揺することなく断固とたたかうことができ、資本主義制度を打倒し社会主義・共産主義を建設するたたかいに身を投ずることができます。それゆえ、我々の文学・芸術は、人びとを革命的世界観で武装させ、立派な革命家、共産主義者に育成するのに大いに貢献しなければなりません。

 人民大衆の革命教育に奉仕すべき文学・芸術がその使命と任務をまっとうするためには、革命的世界観がどのように形成され発展するのかを示すことによって、誰であれ決心さえすれば革命家になれるという自信を持って自己の革命化を促進できるようにしなければなりません。

 創作家が作品に革命的世界観の形成過程をリアルに描くためには、革命的世界観を確立するということは何を意味し、それはどのような過程を経て形成され発展するのかをよく知らなければなりません。

 革命的世界観をどのように確立していくべきかということは、マルクス・レーニン主義古典にも示されておらず、これまでに解明した人もいません。この問題は金日成同志によって初めて解明されたのです。金日成同志は2月17日の演説で、朝鮮革命の歴史的経験と人間の思想・意識の発展過程の科学的分析にもとづいて、革命的世界観の内容と形成、発展の段階、その合法則性を明確に示しました。

 革命的世界観を確立するということは、古い社会を変革しようとする思想、言いかえれば搾取階級と搾取社会を打倒して社会主義・共産主義を建設するという革命思想と観点で武装し、社会主義・共産主義偉業の勝利のためにあくまでたたかう覚悟をかためるということを意味します。

 革命的世界観を確立するというのは容易なことではありません。革命的世界観は短時日のうちに1、2度の教育によって確立されるものではなく、意識発展の一定の段階を経て形成され、強固になるものです。

 金日成同志が明らかにしているように、革命的世界観形成の最初の段階は、社会現象の本質を認識する段階です。敵対階級社会では、不合理な搾取社会の本質を認識することから革命意識が芽生えてきます。資本主義社会の本質を正しく認識してこそ、地主、資本家階級と搾取社会を憎悪し、階級の敵を打倒して搾取と抑圧のない新しい社会を建設しようと決意するようになります。人びとはまず、搾取社会では地主が農民をどのように搾取し、資本家が労働者の膏血をどのように搾り取るのかを認識することから始まり、カネがすべてを支配する資本主義社会は人類のあらゆる不幸と苦痛の禍根であり、社会進歩を抑制する反動的な社会であるということを明確に自覚するようになります。

 劇映画『血の海』の主人公のオモニ(母)もはじめのうちは、日本帝国主義者が自分の国があるのになぜ他国へ来て朝鮮人を苦しめるのか、なぜ夫や村人が城市へ押しかけて敵とたたかうのか、一口に言って、まわりでのすべての出来事がどうして起こるのかわからない素朴な女性でした。彼女は、生活の厳しい試練を経る過程で、革命組織の影響を受けて不合理な社会現象の本質を認識するようになり、それに伴い革命的世界観が高い段階へと発展していくのです。

 革命的世界観形成の第2の段階では、資本主義社会の反動的本質の認識にもとづき、搾取階級と搾取社会を憎悪する思想を持つようになります。この思想の形成過程は、搾取社会の本質を認識する過程との密接なつながりの中で連続的に進められる階級的自覚の過程です。これは、革命的世界観形成の基礎が築かれる準備過程であると言えます。しかし、搾取階級と搾取制度を憎悪するからといって、革命的世界観が確立されたとは言えません。歴史を振り返ってみても、日本帝国主義植民地支配当時、亡国の民の運命を嘆いた多くの憂国の士は日本帝国主義を憎み呪っていたが、たたかうことはできなかったし、奪われた国を取り戻すたたかいになんら寄与することもできませんでした。

 革命家になるためには、搾取階級と搾取社会を憎むだけでなく、不合理な社会制度を覆し、搾取と抑圧のない新しい社会、社会主義・共産主義社会を建設するために身を投じてたたかうことを決意しなければなりません。これが革命的世界観形成の第3段階です。

 革命的世界観は、革命を認識して革命に参加することを決意するとともに、革命家、共産主義者としての思想的・精神的品格と資質をそなえてこそ、確立したと言えます。

 革命的世界観が確立したのちも、不断の思想修養と実践闘争を通じていかなる難関にもくじけない強い意志をそなえ、革命闘争の方法を体得するため努力し続けなければなりません。また祖国と人民、集団と同志を愛し、革命的組織規律を守ることができなければなりません。

 人間の思想・意識は、どのような影響を受けるかによって、正しく発展することもあれば、悪く変化することもあります。したがって、革命家は絶えず思想を鍛え、革命実践の中で革命意識を強化するために絶えざる努力を傾けなければなりません。

 世界に対する人間の見解と立場の確立過程は多様で複雑をきわめます。革命的世界観が思想・意識発展の一定の段階を経て形成されるからといって、その過程はすべての人が一様に1学年から2学年に進級するように単純なものではなく、より複雑で多様な形をとるものです。

 革命的世界観の形成過程は、出身階級や社会的境遇、生活体験や周囲の環境、学校教育などの諸条件によって異なり、労働者と農民の場合が異なり、また知識人の場合でも異なります。同じ階級や階層に属する人であっても、ある人は試練を経て遅く形成されることもあるし、またある人は早く形成されることもあります。また、じかに搾取、抑圧される過程で階級意識が芽生えて育ち、革命家になる場合もあり、地主、資本家が労働者、農民を搾取するのを目撃して次第に搾取階級と搾取社会の本質を知るようになる場合もあり、種々の政治的書籍や文芸作品を読む過程で資本主義社会の反動的本質を認識し、革命運動に投ずる場合もあります。このように、人間の革命的世界観の形成過程を見れば、その動機と過程、生活体験もそれぞれ異なります。

 文学・芸術作品に革命的世界観の形成過程をリアルに描くためには、豊かな生活体験と思想修養を通じて革命家に成長していくさまざまな人びとの生き生きとした人間像を深く掘り下げて描き出さなければなりません。

 一部の創作家には、作品に革命的世界観の形成過程を描くからといって、その形成の最初の段階から最後の段階まで逐次もれなく描かなければならないかのように考える傾向がありますが、それは誤りです。作品に革命的世界観の形成過程を描き出すということは、あくまでも人間の思想・意識の発展と人物の性格成長の過程を豊かな生活を通じて克明に描くということであって、革命意識の芽生えから始まって立派な革命家に成長する全過程を包括して、うわすべりに概括するということではありません。

 文学・芸術作品では革命的世界観の形成過程を段階別にもれなく描き出すこともできますが、世界観形成の一定の段階、一定の契機をリアルに描き出すこともできます。例えば、劇映画『血の海』や『遊撃隊の5兄弟』の場合のように、革命組織の影響のもとに、革命的世界観形成の最初の段階から漸次、革命家、共産主義者としての思想的・精神的品格をそなえた革命闘士に成長する全過程を描くこともできれば、いま制作中の劇映画『ある自衛団員の運命』のように、革命的世界観形成の1、2の段階のみを描き出すこともできます。革命闘争の本質と経験を描く革命伝統テーマの作品はもとより、簡単なストーリーを持ってつくられた現実テーマの作品であっても、人物の性格発展の過程を克明に描いた作品であれば、人びとの革命的世界観の形成に貢献できます。

 文学・芸術作品では、革命的世界観が一定の段階を経て確立されるからといって、人物の個性を無視して画一的に描いてはなりません。人間には誰にも個性があり、生活体験も多様であるだけに、それを再現した文学・芸術作品も一様であるはずがありません。だからといって、個性を生かそうとして、その思想・意識を示す多様な生活を恣意的に描いてはなりません。

 革命的世界観の形成過程をリアルに描くためには、人びとが複雑多様な社会現象を体験する過程で階級意識がどのように芽生え育つのかを性格と生活の論理に合わせて克明に、独創的に描出すべきです。革命的世界観の形成過程も、あくまでも典型化の原則、社会主義リアリズムの描写原則にもとづいて描くべきであり、個性化された人物を芸術的一般化の力によってリアルにあらわさなければなりません。そうしてこそ、革命化、労働者階級化されていく現代の生きた人間の典型を描き出すことができます。

 文学・芸術部門では、金日成同志が2月17日の演説で明示した革命的世界観形成の合法則性に関する思想・理論を深く研究して、創作実践に正しく具現しなければなりません。


<注>−観照(かんしょう) 対象を、主観を交えずに冷静にみつめること。

出典:『金正日選集』2巻 


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