韓国国会で「大韓航空機事件の真相究明のための聴聞会
−2005年9月23日−


 去る1987年11月、大韓航空(KAL)858便がアンダマン海上空で消息を断ち、事件は北朝鮮の工作員による航空機爆破テロ事件とされた。

 しかし事件当初から数々の疑惑が提起され、実行犯として逮捕された金賢姫による自白の信憑性にも疑いの声が強い。ここ数年、韓国では事件の犠牲者家族会、市民団体が中心となって事件の再調査を求める声が高まり、テレビ各局も疑惑を再検証する番組を次々に放映するなどマスコミの関心も高まっている。

 また事件を捜査して「北の工作員による航空機爆破テロ事件」と断定した国家情報院(以下、国情院。当時は国家安全企画部)が過去の事件を再調査する「国家情報院過去史真実委員会」を構成してKAL事件に対する再調査を進め、年内にもその結果を発表する予定だ。

 そのなかでさる9月21日、韓国国会内で「KAL858便事件の真相究明のための聴聞会」(KAL858便事件の真相究明のための市民対策委員会などが主催)が開かれた。

 聴聞会では航空機専門家、爆発物専門家、当時の調査関連者が科学技術的見地から事件の疑惑に関して発言した。
 

 空軍戦闘機パイロット、民間航空機パイロットの経験をもつ平和在郷軍人会事務局長の金ソンジン氏は「関連資料を整理すればするほど疑惑が大きくなる。全面的な再調査が必要だ。国情院の再調査に航空機専門家を参与させるべきだ」と強調し、次のように「証言」した。

 −ブラック・ボックスを発見するためには何か特別な装置が必要であるかのようにいっているが(ブッラク・ボックスが発見されていない疑問に対して、当時の捜査担当者は発見のためには特別な措置が必要であったためと説明している)、航空機に異状が生じた場合(墜落など)、ブラック・ボックスは自動的に位置確認信号を発信する。ヘリコプターを数機飛ばせば発見できるのに、(事件当時)方向違いの山の中を捜索していた。

 −映画と現実は違う。実際に爆発が起こっても飛行機が粉々になることなどありえない。ボーイング707(858便の機種)は一線を退いている航空機なので価格が安い。購入して捜査報告書にある爆発物を積み同一の飛行条件下で爆破実験をすることを提案する。私が操縦して飛んでもよい。


 爆発者専門家のシム・ドンス・東亜大学兼任教授(工学博士、火薬類管理技術士)は「KAL858便爆破テロに使用された爆薬に関する発表には、重大で明白な工学的、科学的疑惑があり、人為的に脚色された疑いがある。捜査が爆発者専門家の鑑定なく行なわれたこと自体が間違い」と語り、次のように「証言」した。

 −使用されたという液体爆薬の名称である「ピカティニ(PLX:Picatinny Liquid Explosive)はアメリカで使われている固有名詞で、北で使われるはずがない。

 −コンポジション(Composition)C-4爆薬という 名称も北では「シスタプペ エト ブロテ(ロシア式発音)」と呼ばれている。

 −標準製品(C-4)と非標準製品(PLX液体爆薬)の混用は爆発の確実性が低下する。これは工学的、技術的におかしい。

 −いわゆる国家機関による爆破テロに不安定な液体爆薬が使用された例はない。

 −C-4を入れたというパナソニック携帯ラジオの部品をみなはずしても国情院が発表している350グラムのC-4は入らない。

 −国情院が発表している爆薬量(C-4が300グラム、液体爆薬が500グラム)は手榴弾3個ほどの威力で、手榴弾3個で飛行機が粉々になるのか?

 −これら二種類の爆薬は性質が異なり同時に爆発しない。密閉された空間ではガスの圧力によって爆発が妨げられる。今後、実験で実証する。


 つづいて前建設交通部航空事故局長の崔ホンオク氏が「国際航空機事故調査標準基準」を根拠に次のように「証言」した。

 −国際基準では、事故調査が終結しても新しい情報があれば再調査することが規定されている。再調査に期限はない。

 −ブラック・ボックスの信号は1カ月間、発信されるのに、回収せずに10日間で捜索を打ち切ったのは疑問だ。

 −事故を起こした航空機の残骸は原因究明のための重要な「証人」だ。残骸を保存しなかったのには問題がある。

 −今後、再調査の機会があれば積極的に参加したい。


 この日の聴聞会では各氏の「証言」に基づき、活発な質疑応答、論議が交わされ、今後も事件の再調査と真相究明を強く求めていくことが確認された。

 一方、事件の実行犯とされた金賢姫は死刑判決後に特別赦免され、1991年には『いま女として』を出版した。ところがその本の内容が当時、発表された彼女の「自白」に基づいた捜査発表と80カ所も異なり改めて疑惑を増大させている。

 事件の再調査が進むなか、金賢姫の喚問を求める声が強いが昨年来、その姿を隠しており、ますます疑惑が強まっている。

『統一評論』2005.9



inserted by FC2 system