匿名記者座談会 「真由美自白」と「捜査報告」の疑惑をつく

パートII 立証された公開写真のウソと経歴のデタラメ


 ■立証されてみればあまりにもデタラメな「真由美」 3枚の写真の真赤なウソ

 A 次に「真由美」の身元について。彼女自身の陳述、「捜査報告」にはいろいろなことが書かれているが、いわば“身元証明”の決定的な形で出されているのが1972年11月にあった南北調節委委員長会議に韓国側の一人として参加した張基栄に花束を渡したとされるときの写真だ。これは本人がそのことを言って、最初は、韓国の捜査当局も、それはちょっとおかしいのではないかといったところ、「耳を見てください、そっくりでしょう」と、本人がそう言ったので信用したという説明になっている。しかし日本で流れた3枚の写真こそに、重大な疑惑というより明らかなトリック、完全なる事実歪曲がある。

 B 1枚は捜査当局が補助資料として公表した、張基栄に花束を贈呈している時の、ある人物の肩ごしに見えるぼやけた写真。もう1枚は贈呈直前のものとみられる、例の敬礼している時のもの。これは捜査発表があった1月15日にKBSによって流された。3枚目は時事通信によって配信されたものだ。

 ところがまず、入手ルートが不透明な形で時事などを通じて流された写真にストップがかかった。どうも配信直後に“使用法意”との連絡がとどいたらしい。で、その写真を使った雑誌、週刊各誌は写真誌も含めて今、その経路について言葉をにごすという事態になっている。もちろん、掲載ミスを謝罪する一文も出たことはない。

 C 時事通信社配信のキャプションをみると「1972年、板門店で赤十字の韓国側代表団を歓迎した時の金賢姫」となっているわけで、明らかにおかしい。

 当時の南北会談についてちょっと説明すると、1972年には、8月に赤十字会談、11月に南北調節委が開かれ、それぞれ韓国側の代表団が平壌を訪れている。そして問題は、「金賢姫」が花束を贈呈したのは、「調節委」でのことと発表きれていることだ。それが先のキャプションでは赤十字会談にすりかわっている。

 A 要するに大変なミスに気付いてその後、使用ストップをかけたということだろう。そして間違いというのは、単なるキャプションの間違いということではない。

 B 話にならない。写真そのものがデタラメなのだからね。KBSが流した敬礼の時の写真と時事配信の写真は、いずれも72年8月の赤十字会談の時のものであることが判明している。さらに、双方の写真とも板門店でのことで「捜査結果」による平壌ではない。

 C 経国側の捜査発表そのものがあいまいで花束贈呈の場所を特定していないが、「金賢姫」は、平壌のチュンシン中学校に通っていたとされている。平壌から開城までわざわざ花束贈呈のために動員されて行くわけがない。事実、赤十字会談の時に板門店で花束を贈呈したのが開城市の中学生であることが当時の韓国紙によっても確認される。

 B KBSが流した敬礼している写真は72年8月、赤十字会談を報じた韓国各紙に報じられており、間違いない。信じられないような話だがKBSが「調節委」の「金賢姫」と報じた写真が、赤十字会談の報道に出てくる韓国紙掲載の写真とピッタリ一致する。あまりのデタラメさにただただ驚かざるをえない。要するに2枚の写真は、全くのデタラメで、また2枚の写真では顔が全く違う。写真をよくみればわかるように、少女は白い民族衣装を着ており、夏物だ。列のうしろには少年もいるが、なんと開襟シャツを着ている。「調節委」は11月に開かれた。平壌は日本よりも数段寒いのに、冬に夏服で歓迎に出るわけがない。

 A 確かに盲点だ。問題の2枚の写真の顔と記者会見にあらわれた「金賢姫」の顔を比べることにだけ神経を集中させられて、みんながだまされてしまった。

 C 韓国捜査当局の発表と、捜査当局と密着しているといわれる国営テレビ・通信の報道は、我々の盲点を巧みに突いたトリックであったと言わざるを得ない。

 正直なところ、多くがそうだったと思うが、韓国捜査当局の発表には半信半疑だった。まず出来すぎの印象だったし、「捜査報告」の補助資料として発表された写真はぼやけており、顔も横向きで比べようがなかったからだ。ところが捜査発表と同時進行の形で、KBSから敬礼している正面からの写真が出たので、顔だけに神経が集中して服装などには関心が向かなかった。

 B 韓国の捜査発表を報じた我々日本のジャーナリズムは、テレビ、新聞を問わずほとんどKBSのニセ写真を「金賢姫」として報じた。まんまと乗せられたわけだ。また雑誌、週刊誌、写真誌の多くは時事配信のものをあわせて使っている。我々日本のマスコミ全体がニセ写真をつかまされたということで、写真のトリックがわかってみれば恐しいことだ。大変なミスを犯してしまった。

 C 同感だ。韓国政府とマスコミが一体となったトリックに我々が引っかかったという事実は否めない。韓国からのニュースには謀略めいたものが多いことは知っていたが、ここまでやるとは……。考えてみれば、一昨年に流された「金日成主席に関する謀略説」の時も、韓国側はいずれバレると知っていながら「異変説」をまことしやかに流したことがある。それなのに今回、またやられてしまった。

 A 捜査当局発表の横向きの写真は、ではどうなるのか。


 B これにもトリックがある。これもKBSだが、捜査発表直後に「金賢姫」が張基栄に花束を贈呈する瞬間の、当時の記録フィルムが流された。もちろんこのフィルムは、日本のテレビでもくり返し放映された。これをくり返してよく見ると、背景に建物が写っているのがわかるが、調べてみるとこれは板門店にある北側の「板門閣」という建て物だ。これは間違いない。とすれば、「金賢姫」の花束贈呈は平壌でのことであるはずなのに、なぜ板門店なのかという重大な謎が浮び上ってくる。

 C するとおかしい。「金賢姫」は、平壌出身で平壌の中学に通っていたという。すると彼女が、わざわざ板門店に出向いたことになるが、これはおかしい。先ほど、赤十字の時に板門店で花束贈呈にあたったのは現地・開城の女子中学生であることは指摘されたが、「調節委」の時も同様で、板門店での花束贈呈には開城の中学生が出向いていることが確認されている。

 当局が発表した横向きの写真も極めてくさい。まず第一に、よく見ると、そのフィルムと写真がつながっていない。流れからみると写真はフィルムの流れのなかにあるように思われるが、なぜフィルムと写真を切り離しているのか。KBSのフィルムでは「金賢姫」の後姿しか写っていないし、それが突然とぎれ、横向きの公表された写真がまるでつながっている流れのものであるかのように放映されているわけだ。

 B いずれにせよ、花束贈呈の写真が板門店でのものならば、とんでもない食わせものだ。

 A まるでデッチ上げそのものだ。もちろん、写真とフィルムが全然別のものであることも考えられる。しかし、その場合でもKBSのフィルムの流し方は悪質すぎる。

 C またその場合でも、写真偽造の疑いは消えない。現在の写真技術をもってすれば、肩ごしにみえる言わば“背後霊”のような写真はいくらでも偽造できる。

 また、捜査発表と同時に韓国の捜査員による補足説明が行われているが、その説明のなかで、「金賢姫」は中学に入った年に、「2番目の車からおりた人に花束を贈呈した」と語ったとされている。この捜査員の補足説明は「捜査報告」に準ずるものとみてよいと思うが、実はこれがまたおかしい。というのは、当時韓国側の「調節委」参加者は、板門店からヘリコプターで平壌に入っている。韓国側の説明通り11月2日に花束贈呈があったのならば、韓国の代表団は車ではなくヘリコプターから平壌の地を踏んでいるわけだ。車云々の話は全くもっておかしい。

 A いずれにせよ、花束贈呈が事実なら韓国側は妙なトリックを使わずに堂々と、もっとはっきりした写真を公表してみればいい。当時随行記者も相当数いたのに写真が1枚であるはずがなかろう。にもかかわらずなぜ、全く関係のない赤十字会談のときの写真を流してだまそうとするのか。すべてがデッチ上げだが、そのだましのテクニックがあまりにも杜撰だ。これこそ国家的謀略だ。


 ■ウソで固められた「真由美」の経歴

 B その他、年齢の問題など、うちの調べによっても、「真由美」の陳述どおりの学歴であれば、26歳ではなく28歳でないとおかしい。彼女だけが特別な超エリートで、3年のところを1年間で卒業したとか6カ月で出たとかいうなら別だが、そんな注釈はない。

 C 平壌に精通した北関係者によると、その経歴に関する陳述内容は非常に疑わしいと言っている。そのなかには明らかなウソがあると。例えば、「真由美」は、祖国解放40周年「記念功労メダル」というものをもらったといっているが、そのときに北ではそういうメダルは発行されていない。発行されたのは「記念勲章」と「記念メダル」なんだが、これは非常にレベルの高いクラスのメダルであるということだ。常識として、まだ工作員としての訓練期間中にしかない人間が、そのようなレベルの高い勲章をもらうことはまずあり得ない、と。

 それと、朝鮮労働党調査部に入った2年後に朝鮮労働党員になるんだが、これも最初から党員でないものを党中央機関の職員として採用するということは平壌ではあり得ないということだ。

 あと、疑わしい点を挙げればきりがないが、例えば、小学校から中学校に進学していくわけだが、小学校はハシン人民学校、中学校はチュンシン中学校となっているが、平壌でも学区制は非常に厳しいという。居住区域の子供たちは、その区域の小学校から中学校に行くと。だからこれもおかしい。

 A 「真由美」の父親であるという「金元錫」なる人物についてもボロが出ている。外交官で、アンゴラの貿易代表部水産代表として在籍したことがあると。しかし、北側の否定はともかくも、ジンバブエの日本大使館、ここはアンゴラ大使館も兼ねているわけだが、そこで調べたところ、アンゴラ政府が発表した名簿には名前はないと。またアンゴラに、北の貿易代表部水産代表なるセクション自体、存在しないということが明らかになっている。




inserted by FC2 system