『金正日先軍政治』−1 先軍政治論

6 先軍政治方式と21世紀


祖国統一につながる愛国の政治

 21世紀における朝鮮民族の最大の課題は祖国の統一である。

 この重大な民族的課題が新世紀に持ち越されたのは、朝鮮民族が統一を望んでいないからではない。

 朝鮮民族にとって統一は、生命であり、民族的繁栄の礎であり、全人民の切願である。

 祖国の統一は本質において、断たれた民族の血脈を一つにつなぎ、民族の和合と団結を実現し、全国的範囲で民族的自主権を確立する事業である。ここで、外部勢力の干渉や支配は統一の最大の障害であり、なによりも先に排除されるべき対象である。

 アメリカは、半世紀以上も祖国の南の地を占領している。かれらは、ここに最新装備の4万になんなんとする米兵を常駐させ、1000余の核兵器を展開し、鴨緑江、豆満江までをも支配下におこうと、北侵の機会を虎視眈々と狙っている。

 民族分断の元凶アメリカの南朝鮮占領が続くかぎり、統一志向の政治は当然軍重視の政治になるべきであり、現実的には自主統一をめざす北朝鮮の先軍政治にそれを求めるべきである。

 先軍政治は、朝鮮全土の植民地化をはかるアメリカの戦略的企図を破綻させ、祖国統一の平和的環境をもたらす根源的な力である。

 自主民族として生きようとする朝鮮民族の統一悲願を踏みにじって、北朝鮮まで呑み込もうとしているのがアメリカである。

 このような状況で、朝鮮民族が主人となる完全自主独立国こそ真の意味での統一であり、アメリカによる全朝鮮半島併呑は統一でなく、亡国である。

 アメリカの北侵戦略企図を粉砕することは、民族の完全な植民地化を防ぎ、自主統一を果たすための前提であり、最短コースである。

 19世紀の末、朝鮮侵略熱に浮かされていた日本と同じように、それから百年たったいま、アメリカはなんとしても全朝鮮を手の内に入れようと狂奔している。

 1999年を迎えてクリントンは、2000会計年度の国防費に120億ドルの追加予算案を国会に提出した。当時、大統領特別補佐官はこれについて、「軍事費の増額は、北朝鮮情勢を視野に入れたもの」だと説明し、日本のマス・メディアは「クリントン政権は、朝鮮半島有事に対応する軍事力の整備に着手した」と報じた。

 この年の初め、国防長官コーエンは日本と南朝鮮に飛んで、米日南朝鮮三角軍事同盟にもとづくアジア太平洋地域軍事防衛態勢の構築と「新アジア太平洋地域安保戦略」の落着をはかって、奔走した。

 これに先立って南朝鮮を訪問した日本防衛庁長官野呂田(芳成)は、板門店にまであらわれて、同年上半期内に日本自衛隊と南朝鮮軍間の非常連絡網を形成し、連絡事務所を設けることをはじめ、「本格的軍事協力の時代」を開く問題を謀議し、一連の合意を見た。それは、日本南朝鮮軍事同盟条約の締結を念頭に入れたものであった。

 世界はこの前例のない動きにたいし、アジア版NATO創設が最終段階を迎え、その輪郭が次第に浮き彫りにされつつあると評した。

 アメリカと日本が軍事同盟関係にあり、アメリカと南朝鮮も同じく軍事同盟関係にあるいま、日本と南朝鮮が結びつけば三角軍事同盟は完成し、東北アジアに軍事ブロックが形成されるのである。

 日本と南朝鮮が一連の軍事問題で合意し、本格的な軍事協力の時代を迎えたことは、日本と南朝鮮が軍事的に結びつき、三角軍事同盟の地ならしが完了したことを示している。

 こうして、いまや戦域ミサイル防衛体制の導入問題が本格的な上程・推進段階に入り、また、敵国(北朝鮮)にたいする攻撃と完全占領を狙う「5027作戦計画」が謀議されるなど、米日南朝鮮三角軍事同盟は具体的に動きはじめている。

 アメリカが三角軍事同盟の創設に奔走しているのは、アジア太平洋の世紀とされる21世紀に向けた準備工作であり、具体的には、朝鮮半島の完全掌握によって、ここをアジア太平洋地域支配の拠点とするためである。

 アメリカのそうした企図が阻止できなければ、全朝鮮民族は、21世紀に、分断民族の悲運を越える亡国の民の運命に突き落とされるであろう。

 アメリカの北朝鮮侵略企図を阻止するためには強大な軍事力に頼るはかない。それによって第2の朝鮮戦争を防ぎ、平和を守ることができるのである。こうしてみると、先軍政治によって育まれた北朝鮮の強大な軍事力こそ、アメリカの全朝鮮半島支配戦略を破綻させて民族の分断にピリオドをうち、自主的統一を成就する平和的環境醸成の前提だと言える。

 先軍政治に民族統一の意思がこもっていることは、1995年1月1日の金正日将軍の軍視察がよく示している。

 金日成主席の逝去後、最初におこなわれた現地指導・軍視察は、先軍政治によって当面の難局を打開し、チュチェ偉業を完遂するという政治構想を示したもので、将軍は、強大な人民軍が存在するかぎり祖国統一は必ず成就されるであろうし、チュチェ革命偉業の完成は確定的である、強大な人民軍を持っていることは民族の最大の誇りであると言明した。

 将軍は、祖国解放52周年を控えて発表した力作『偉大な領袖金日成同志の祖国統一遺訓をあくまで貫こう』(1997.8.4)で、「金日成同志が開き導いてきた祖国統一偉業を継承し、我々の代に必ず祖国を統一しようとするのは、朝鮮労働党の確固とした決心であり、朝鮮人民の革命的意志である」と強調している。

 先軍政治のこのような民族統一意志は、強大な軍事力を背景にしてこそ統一が可能であるとしているが、これは決して武力で国を統一するという意味ではない。

 南朝鮮では軍事問題と結びついた統一論議は北侵武力統一を念頭においてなされているが、先軍政治は軍事を統一と結びつけて論ずる場合、アメリカの北侵武力統一企図を破綻させ、自主的な平和統一を遂げることを念頭においている。つまり、人民軍の銃が強力であってこそ平和が保たれ、祖国統一の道が開かれると強調するのである。

 こうした先軍政治の自主・平和統一意志は、金正日将軍の1997年8月4日の著作や1998年4月18日の著作『全民族が大団結して祖国の自主的平和統一を成就しよう』などで表明されている。

 金日成主席によって示された祖国統一3大原則と全民族大団結十大綱領、高麗(コリョ)民主連邦共和国創立方案を祖国統一の三大憲章とし、民族自主の原則にもとづき、愛国愛族の旗、統一の旗のもとに団結して北南関係を改善し、外部勢力の支配と反統一勢力に反対してたたかい、全民族が相互往来し、接触、対話することによって連帯連合を強化することを骨子とする民族大団結五大方針の提示がその要諦である。

 21世紀に向けた民族統一の大綱であるこの愛国愛族の統一観を実践に移す使命を担っているのが、ほかならぬ先軍政治である。

 今後、北朝鮮とアメリカの関係がどのように動くかはさておき、明白に言えることは、北朝鮮とアメリカの関係の正常化も民族統一問題もすべて北朝鮮の強大な軍事力に裏づけられて解決されるであろうという点である。


新世紀を主導する正義の政治

 侵略と戦争のない、すべての国と民族が自主的かつ平等に生きる平和な世界の建設こそ、人類が21世紀に果たすべき最大の課題である。

 冷戦の終結後、アメリカは一極世界秩序に向けて「世界化」戦略をうちだした。

 世界化とは、世界の政治、経済、文化などすべての分野をアメリカ式に作りかえようとするものである。

 この世界化戦略の実現を力の優位にもとづく軍事行動によって果たそうという意図のもとに、1999年、アメリカ国家安全保障会議は「21世紀アメリカの新戦略」草案なるものを発表した。ここには、アメリカの「世界的な指導的地位を確認」するため、新世紀にも「スイング戦略」および地域紛争介入政策をひきつづき実施する、と明示されている。

 アメリカのスイング戦略の一方に第2の朝鮮戦争が想定されていることは、世界に広く知られていることである。

 アメリカ国家安全保障会議が50数年ぶりに、国家安全にかんする包括的な検討にもとづいて作成したいま一つの文書には、「アジア、とりわけ北東アジアが大戦勃発可能性が最大の地域」とし、「北朝鮮のひきつづく軍事的脅威」を「膺懲」するため、国内深くにある軍事基地をトマホークおよび空母をもって攻撃するという具体的な作戦計画まで示されている。にもかかわらず、アメリカの作戦計画は実現不可能と認められている。

 それは、北朝鮮にたいするアメリカの戦争計画が先軍政治の前には、そのどれもが無力だからである。

 冷戦時代の国際勢力関係は米ソの対決構図として特徴づけられていたが、冷戦後のそれは北朝鮮とアメリカの対決として特徴づけられよう。

 この対決には、朝鮮半島における戦争と平和の問題に限られることなく、世界的規模における戦争と平和、ひいては人類の運命という重大問題がかかっている。

 この対決で、キャスチングボートを握っているのは先軍政治に支えられた北朝鮮側であり、北朝鮮は、国際問題がアメリカによって操られることを防ぐ一方、自国の影響力を世界に広げている。そのことは、多くの国が国の自主権は銃によって守られるという認識のもとに、軍重視の方向に動いていることから確かめることができる。

 例えば、ロシアは、2000年2月4日、プーチン大統領(当時は大統領代理)の参加のもとに開かれたロシア連邦安全理事会で、「ロシアと同盟国の国家安全が直接脅かされる場合、ロシアが核兵器を使用することは可能」であるとする軍事原理を採択した。

 冷戦終結後の10年間、つまり1990年代は、帝国主義者が「社会主義の実験の失敗」「資本主義の永遠の時代の到来」と喧伝した年代であったが、それが全くのでたらめであったことが、いまや白日のもとにさらけだされている。他方、先軍政治は、社会主義理念をこの90年代に完成させてチュチェの社会主義を固守し、その優位性を誇示することによって科学としての社会主義が必勝不敗であることを実証したのであった。




inserted by FC2 system