『金正日先軍政治』−1 先軍政治論

3 先軍政治方式の思想的基礎


 社会の発展は政治によって進められ、政治の性格と成功のいかんは、政治哲学によって規定される。

 政治哲学は、政治の羅針盤である。

 軍事の場合においても、それが依拠する哲学によって軍建設のあり方や軍の性格と役割が規定される。

 金正日将軍の先軍政治は、チュチェ思想に根ざした政治である。それはチュチェ思想を指導的指針とし、独自の方式で革命を遂行する、実践闘争のなかで創造された政治方式であり、チュチェ思想の要求を全面的に具現した社会主義政治方式である。つまり、それは、軍は党であり、国家であり、人民であるという思想にもとづく政治方式である。

 金正日将軍は、帝国主義の包囲のなかで社会主義を建設している朝鮮の場合、強力な革命武力がなければ、人民も、党と国家もありえない、と指摘している。

 この指摘は、社会主義社会が、軍および労働者階級の党、政権、人民大衆の要求と利害関係、志向と闘争目的が完全に一致している渾然一体の社会であり、軍、党、政権、人民大衆のどの一つが欠けても存立しえない運命共同体的社会であるという思想にもとづいている。

 政権と人民大衆が敵対関係にある社会では、軍は党であり、国家であり、人民であるという政治構図は理論的にも実践的にも成り立たない。先軍政治は、軍、党、国家、人民大衆が一心団結し、運命共同体として結集している北朝鮮の社会主義に特有な政治方式である。

 軍は党であるということは、軍の創建と目的、使命と政治的性格が党のそれと一致しているという意味である。

 労働者階級の党は、人民大衆の自主性を実現するために軍を組織し、軍はその性格と使命から労働者階級の党の指導を仰ぐ。

 北朝鮮では、党と軍は不可分の関係にある。党は革命の参謀部であり、軍は党の戦略的目標・課題の実現を武力で支える柱である。党と軍の関係でどちらが優先するかといえば、もちろんそれは党であり、軍は党軍として位置づけられる。こうした関係のなかで党は軍の掌握をとおして、その偉力を高め、全社会の指導をゆるぎなく実現していくのである。

 1997年4月25日の朝鮮人民軍創建65周年慶祝閲兵式でも見られるように、朝鮮人民軍が朝鮮労働党の旗をかかげて歩武堂々と行進する姿に、党軍としての朝鮮人民軍の性格がよくあらわれている。

 次に、軍は国家であるということは、政権が銃によって生み出され、銃によって維持されるという思想にもとづいている。

 軍と国家政権は性格上同じ系列に属し、ともに労働者階級をはじめ、勤労人民大衆の自主性を実現するための政治的武器である。

 軍は人民大衆の自主権と利益を武力をもって守り、国家政権はその施策によって人民大衆の利益を実現する。軍と国家はまた、ともに人民大衆の利益を最優先視する革命的・労働者階級的な性格をもっている。労働者階級の国家は強力な軍に依拠しており重なる難関を克服し、軍の強化を通して政治的地盤を固めていかなければならない。だから軍が弱体化すると国家も弱体化し、国家政権そのものが危険にさらされる。

 世界には、軍隊を持たない国もあるがそれは特殊な例外であって、軍は常に国家とともに存在し、その第一の使命は国家体制を守り、自主権を擁護することにある。

 軍が革命的であれば、人民大衆の社会主義への信念はそれだけ強まり、社会の全領域で社会主義的原則が守られ、社会主義体制はゆるぎないものとなるであろう。

 軍は国家であるとする論理は実践上、国防を最大の国是とし、国防力の強化を革命における「天下の大本」とするとき、最高のレベルで具現される。

 米ソの冷戦が幕を降ろした1992年3月8日、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、米国防省の機密文書『防衛計画指針』をすっぱぬいた。冷戦におけるアメリカの軍事安保戦略の骨組みが明確に叙述されたこの文書の核心は、次の表現によって集約されている。

 「我々の第一次的な目標は、旧ソ連その他の地域で新たな軍事強国が再び登場できないようにすることとならんで、潜在的な競争勢力が地域または世界で頭をもたげようという考えを抱かせないようにすることにある」

 つまり、アメリカは世界唯一の超強大国の地位を永遠に維持するため、競争相手になりうる世界的規模の覇権国はもとより、地域的な覇権国の出現も許さないとしているのである。

 アメリカの『防衛計画指針』は、軍事強国北朝鮮を意識して立てられたという解釈も可能である。実際に、アメリカ軍首脳部は最近北朝鮮を「主敵」と規定している。

 北朝鮮は国防を最大の国是とする先軍政治によって、軍事強国としての地位を固めるとともに、強盛大国の建設を戦略的な課題として、確信に満ちて前進している。

 先軍政治はまた、軍は人民であるという政治哲学にもとづいている。

 北朝鮮の軍と人民は、利害関係の共通性および軍の構成と性格に見られる人民性によって渾然一体をなしている。

 人民軍の使命は、人民の自主性を擁護し、実現することにある。強力な軍隊があってこそ人民の自主権と利益が守られ、他方、人民の支持を得てこそ軍が強化され、人民の防衛者としての使命を果たせるのである。

 一言でいって、北朝鮮では、軍と民衆が要求と利害関係、志向と闘争目的が一致する統一体として存在しており、ほかならぬここに軍民一致の政治的要因があるのである。

 軍のためになることは人民のためになり、人民のためになることは軍のためになる。軍隊を持たない人民は、植民地的奴隷の運命を免れず、人民を離れた軍隊は、水を離れた魚のようなものになる。だからこそ、軍と人民は思想と行動をともにし、お互いのためには生命も惜しまないのである。





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