『音楽芸術論』−4 音楽の後進育成
 
1 後進の備えがなくては音楽芸術は発展しない


 音楽家は、主体的な音楽芸術建設の直接の担当者である。党の賢明な指導のもとに燦然と開花しているわが国の主体的な音楽芸術をたえず発展させるためには、才能のある音楽家を多数育成しなければならない。

 才能のある音楽家を多数育成することは、主体的な音楽芸術発展の将来にかかわる根本問題の一つである。

 社会主義的・共産主義的音楽芸術建設の偉業は、幾世代にもわたって遂行しなければならない長期的な事業であるため、世代の交代をともなうことになる。主体的な音楽芸術の全盛期を迎えたときから、音楽発展の新局面が開かれているこんにちにいたる期間にも、音楽家の隊伍では世代の交代がつづいてきた。発展する現実の要求に即してチュチェの音楽芸術をより高い段階に引き上げ、その機能と役割をさらに高めるためには、音楽家の隊伍を有能な新しい世代の音楽家でたえず補充し、質的にかためなければならない。チュチェの音楽芸術の将来の発展は、育ちゆく新しい世代の音楽家を多数育成し、音楽家の隊伍をかためる問題に大いにかかわっている。

 才能のある音楽家を多数育成することは、金日成同志の主体的な文芸思想を全世界に輝かすためにも必要である。主体的な文芸思想の輝かしい勝利をもたらすためには、音楽の実践と理論のすべての分野でブルジョア音楽芸術に反対する熾烈な階級闘争をくりひろげなければならない。いま、南朝鮮と資本主義諸国に蔓延している退廃的なブルジョア音楽と反動的な文芸潮流はみな、長期間にわたって扶植されてきた思想的毒素であり、それは、革命的で人民的な音楽と退廃的で反動的な音楽との熾烈な闘争によってのみなくなる。社会主義的民族音楽の発展を妨げる古くて退廃的なブルジョア音楽と文芸思潮を根絶するためには、音楽芸術分野で我々の主体的力量をさらに強固にしなければならない。主体的な文芸思想を深く体得し、高い芸術的技量を身につけた音楽家の後進をより多く育ててこそ、ブルジョア音楽の反動的本質と弊害を、思想的、理論的に暴露、粉砕する闘争を強力に展開し、チュチェ音楽芸術の輝かしい勝利をもたらすことができる。

 高い芸術的技量を身につけた音楽家の後進を多数育成することは、独演形式が重要な位置を占める音楽芸術の特性からも提起される。

 音楽では、独唱、独奏といった独演形式が重要な位置を占めている。独演形式の音楽と演奏技術は、ぬきんでた音楽的才能と高い芸術的技量をそなえたソリストによってさらに発展し、集団的なアンサンブルも技量の高い歌手や演奏者が多いほど、そのレベルはたえず高まり、発展し、豊富になる。

 独演形式の音楽活動は、世界的にも広くおこなわれている。有名な歌手や演奏者のリサイタルやそれぞれの技量を競う国際的なコンクールといったものも、国の音楽の発展レベルを誇示し、演奏技術と形象化レベルを高める重要な契機となる。我々のチュチェ音楽は、思想性・芸術性の高い音楽作品とアンサンブルに限らず、個々人の技量においても世界的なレベルに向上すべきであり、国際音楽コンクールでも覇権を握るべきである。我々は、朝鮮音楽はもとより外国の古典音楽や現代音楽のいかに複雑な技巧でも上手にこなせる、高い芸術的技量をそなえたソリストを多数育成しなければならない。

 現実は、思想的、芸術的にしっかり準備された音楽家の後進をより多く求めている。

 政治的、思想的にしっかり武装し、ぬきんでた才能と高い技量をそなえたチュチェ型のソリストを育てることは、音楽家の後進育成の基本目標である。

 育ちゆく新しい世代の音楽家は、なによりも政治的、思想的に準備された革命的な芸術家にならなければならない。

 音楽家の後進を政治的、思想的に準備させるうえで重要なことは、革命的世界観を確立し、金日成同志の主体的な文芸思想とわが党の独創的な文芸理論で武装させることである。革命的世界観が確立してこそ革命的で人民的な音楽芸術の創造者となり、主体的な文芸思想と理論を深く体得してこそ、チュチェ音楽芸術の発展の頼もしい担い手になることができる。育ちゆく新しい世代の音楽家が、金日成同志の主体的な文芸思想と、党の独創的な文芸理論の正当性を確固たる革命的信念とし、それを無条件あくまで擁護、貫徹してこそ、チュチェ音楽芸術のかぎりない発展が確固と保障される。

 育ちゆく新しい世代に朝鮮民族第一主義の精神をもたせることは、彼らを、政治的、思想的に準備させるための重要な要求の一つである。

 後進をチュチェ音楽芸術の明日を担う頼もしい民族音楽芸術家に育成するためには、かれらが朝鮮民族第一主義の精神を体し、それを音楽実践に立派に具現するようにしなければならない。

 音楽芸術部門で朝鮮民族第一主義の精神を具現するということは、朝鮮人にとっては朝鮮音楽がいちばんだという強い民族的自負をいだき、朝鮮人民の志向と要求にかない、朝鮮革命に奉仕する音楽、朝鮮人の民族的特性と風習、生活感情と情緒をもりこんだ朝鮮音楽を推賞し、発展させるということである。

 我々は育ちゆく新しい世代に、民族音楽に秘められている朝鮮人民の健全で気高い思想・感情と多様で豊かな情緒、民族的な旋律と拍子など民族音楽の表現手段の固有な特性を深く体得させ、かれらが、朝鮮人の感情と情緒、志向と要求に合わせて音楽芸術を朝鮮式に発展させ、豊富にしていくようにすべきである。

 朝鮮民族第一主義の精神を具現するためには、音楽教材や練習曲、教則本なども朝鮮のものを基本にしなければならない。もちろん、音楽の基礎技術学習や実技の基礎練習では、必要な外国の教材や教則本、練習曲などを参考にすることはできる。外国の基準を知り、それを凌駕して我々の主体的な音楽芸術の真の優越性を深く体得するために、外国の教材や教則本、練習曲などを参考にするのは悪いことではない。

 しかし、それぞれの国の音楽には、その国に固有な民族的特性があり、それによって音楽を形象化する演奏技術と練習体系もおのおの異なる。したがって、朝鮮音楽を立派に形象化するためには、朝鮮の教則本と練習曲にもとづいて演奏技量を磨いていかなければならない。外国の教材や練習曲を取り入れる場合でも、あくまでも、技術的な問題を朝鮮音楽の発展に有利に利用することを目的とすべきであって、それをうのみにしたり、それにのみ依拠してはならない。

 育ちゆく新しい世代に音楽についての広く深い知識と高い芸術的技量を身につけさせることは、かれらに専門の音楽家としての基本的な資質と芸術活動の能力を養わせるための必須の要求である。

 音楽に関する広く深い知識と高い芸術的技量は、音楽家がそなえるべき基本的徴表であり、かれらが課された任務を立派に遂行するための根本条件の一つである。音楽家の後進育成にあたって政治・思想教育とともに音楽の専門知識と技術学習を強化してこそ、思想性・芸術性の高い音楽的形象を立派に創造する才能ある音楽家を育てあげることができる。

 専攻実技練習は、音楽専門家の育成において、高い芸術的技量を習得させるための基本的課題である。実技練習を強化してこそ、ぬきんでた才能と技術をもち、独創的な音楽的形象を創造する有能な音楽家を育成することができる。有能な音楽家の育成にあたっては、実技練習を通じて、音楽の創作と演奏でのいかなる困難な技術的課題や形象上の要求も独自に巧みに処理できる芸術的技量を習得させることになる。

 実技練習では、技術発展の順序と体系を厳守し、種々の教材曲と練習曲を正確に深く習得しなければならない。そうしてこそ、芸術的技量が順調に発展し、多様な演奏技巧を身につけることができる。

 実技練習は、科学的原理にもとづき、各人の技術発展水準と生理的条件に応じておこなうべきである。実技練習を機械的におこなう弊害をなくし、一つを学ぶにしてもその演奏技術の科学的原理を知り、正確に習得するようにしてこそ、後進を同じ芸術的技巧をもってしても自分の特技を十分に生かす音楽的形象創造のベテランに育てることができる。

 音楽についての広く深い知識と高い芸術的技量を習得するためには、音楽技術基礎理論の学習を強化しなければならない。

 理論学習を強化し、それを実技練習と有機的に結合してこそ、音楽についての広く深い知識を習得し、実技練習を科学的・理論的土台のうえでより早く発展させることができる。

 元来、音楽の技術基礎理論は、長い音楽生活の過程で体験し、認識した音楽の構成要素と表現手段の音響物理的および心理情緒的特徴を一般化して体系化したものであり、実際の経験にもとづき、音楽実践に適用することを前提としてつくられた科学的・理論的基礎である。音楽理論課目の内容は、主体的音楽芸術の実践で得た成果と経験にもとづいて新しく朝鮮式に改作し完成させて、音楽の創作と演奏に実際に役立つ生きた知識となるようにすべきである。多様ですぐれた民族音楽の遺産と革命的音楽の伝統、そして、主体的音楽建設での貴重な成果と豊かな経験をもっていることは、我々の大きな誇りであり、音楽理論を我々のもので一貫させ、朝鮮式に発展、完成させることを可能にする確固たる資産である。和声楽、複声楽、音楽作品分析など、従来のヨーロッパの音楽理論の古い枠から完全に脱していなかったり、科学的に体系化されていない音楽理論課目は、朝鮮音楽の豊富な実践的成果にもとづき、朝鮮式の要求に即して改めるべきである。一部の創作家や声楽家、演奏者が、多種多様な音楽作品をつぎつぎと創作できず、音楽を朝鮮式に立派に形象化できないのは、かれら自身の思想的・美学的な音楽理論にもとづいて教育されていないことにも起因する。我々は、すべての音楽理論の学習教材を、あくまで、わが党の主体的な文芸思想と理論にもとづき、我々の実情に即してつくり、その科学的・理論的水準をさらに高めるべきである。

 音楽芸術発展の基本的要因に関する科学的な見解と音楽遺産にたいする主体的な観点を確立することは、音楽史の学習における重要な要求である。

 音楽は、民族生活の具体的な反映であり、時代の産物である。時代が発展し、人々の生活風習と思想・情緒が変わるにつれて、音楽の内容と形式も変わり、発展する。かつて、わが国の社会・歴史発展の各時期に創作された音楽作品には、その時代の人民の志向と念願が反映されており、時代的特性と制約性が内包されている。

 音楽芸術発展の合法則的過程を正しく認識し、進歩的な民族音楽の遺産と革命的な音楽伝統にもとづいて、我々の時代の要請と志向にかなった革命的な音楽芸術を創造する能力を高めるためには、わが国の音楽史をよく知らなければならない。

 音楽史における新たな改革と画期的な変化は、必ず一定の転機に生じ、以前の進歩的な遺産を継承し、それを新しい時代の要請に即して発展させる基礎のうえでもたらされる。

 総じて音楽発展の重要な転機は、民族的・階級的矛盾が激化し、人民大衆の革命闘争が高揚する時期、革命と建設において画期的な出来事が続出する時期、衝撃的な社会的・歴史的変革が起こる時期と関係している。わが国の近代および現代の音楽発展史をみても、日本帝国主義の植民地支配に反対する朝鮮人民の反日愛国思想が高まった時期に、啓蒙歌謡や児童歌謡、叙情歌謡、新民謡といった音楽ジャンルと形式が、発生、発展し、それは、愛国的な人民と青年学生のあいだで反日愛国の思想・感情を呼び起こすのに寄与した。一部の資料によると、わが国の啓蒙歌謡は、西洋音楽、とくに宗教音楽の影響のもとに生まれたとされているが、これは歴史的事実の歪曲であり、ヨーロッパ音楽を崇拝するブルジョア音楽史家の事大主義的表現である。先行の朝鮮音楽があったがゆえに啓蒙歌謡が生まれ、それ以後の新しい音楽が生まれたのである。

 金日成同志が抗日革命闘争期にみずから創作した不朽の名作と抗日革命音楽作品は、わが国の現代音楽の発展において、とくに重要な位置を占めている。抗日革命音楽は、労働者階級をはじめ、勤労人民大衆の民族解放、階級解放の革命思想、人間の自主性実現をめざす不屈の闘争精神、社会主義・共産主義の未来にたいする革命的楽観主義で貫かれた革命的音楽芸術の古典的モデルであり、我々の主体的音楽芸術の歴史的根源である。音楽史の学習では、抗日革命音楽の伝統がいかにして築かれ、その思想的・芸術的特徴は何であり、解放後それがどのように継承され発展してきたかを、科学的、理論的に深く認識することに中心をおくべきである。そうしてこそ、育ちゆく新しい世代の音楽家が、主体的音楽芸術の礎である抗日革命音楽の伝統と、それを継承、発展させる過程でわが党が築いた貴い業績を断固擁護し、さらに輝かせる革命的な音楽家になれるのである。

 豊富な音楽知識を身につけるためには、外国の音楽史も知らなければならない。

 外国の音楽史を知っていれば、世界の音楽発展史と現代音楽の発展趨勢がわかり、我々の主体的音楽の発展に役立てることができる。ヨーロッパ諸国の音楽史の資料や教材には、ヨーロッパ中心主義の思想が濃厚であり、音楽芸術発展の転機と、それがもたらされる社会的・歴史的環境や条件も明白にされていない。それらの音楽史は、名曲の概念や芸術性の評価基準もたいてい芸術至上主義とブルジョア美学観にもとづいている。外国の音楽史は、必ず主体的音楽史観にもとづいて正しく分析、評価すべきであり、ヨーロッパ諸国に流布しているあらゆる形式主義的なブルジョア音楽思潮の間違った見解は断固排撃しなければならない。

 音楽家の後進育成で重要なことは、音楽の基礎固めに力を注ぐことである。

 音楽の専門教育を受けた音楽家の進歩が速く、音楽の形象化水準が高いのは、かれらが専門教育を通じて基礎固めをしたからである。

 音楽の基礎をかためるうえで重要なのは、ピアノの練習を強化することである。ピアノは、さまざまな演奏技能をもつ総合的な楽器であり、音楽の創作と演奏実践の必須の手段である。ピアノを弾きこなしてこそ、音楽の基礎がかたまり、専攻の実力も高まるのである。声楽家や演奏者も、自分が形象化する作品の伴奏くらいはできるピアノの演奏技量を身につけるべきである。

 音楽の基礎をかためるには、民族音楽と朝鮮の拍子についてもよく知る必要がある。

 拍子は、音楽で民族的な特性と情緒をあらわす重要な表現手段の一つである。作曲や編曲で民族的情緒を正しく具現するためにも、指揮や演奏で民族的な味と興趣を添えるためにも、朝鮮の拍子をよく知る必要がある。

 朝鮮の拍子を正しく習得するためには、その特性を理論的に知るだけでなく、その趣(おもむき)と味が、身につくまで弾き方の練習を積まなければならない。

 声楽家が楽器をこなし、演奏者が歌をうまくうたえるようにすることにも力を注ぐべきである。声楽家に、ギターやアコーデオン、伽琴などの楽器の奏法を教え、演奏者に歌のうたい方を教えれば、専攻の技量水準を高めるのにも有利であり、音楽芸術活動を多様化するうえでも都合がよい。





inserted by FC2 system