『音楽芸術論』−1 チュチェ音楽
 
3 革命に必要なのは名曲である


 名曲は、人々を革命闘争と建設事業に力強く立ち上がらせ、社会の発展に大きな役割を果たした意義ある出来事とともに歴史に末永く残る。

 チュチェの革命偉業の草創期に創作された革命頌歌『朝鮮の星』は、領袖のまわりに多くの青年共産主義者と革命家を結集し、人民を反日民族解放闘争へと立ち上がらせ、解放後に創作された不滅の革命頌歌『金日成将軍の歌』は、人民を新しい祖国の建設と祖国解放戦争の勝利をめざす闘争、チュチェの革命偉業の完成をめざす闘争へと力強く鼓舞激励してきた。

 革命歌謡『遊撃隊行進曲』をはじめ、抗日革命闘争期に創作された名曲は、抗日革命闘争の歴史的軌跡を意義深く思い起こさせる時代の象徴となっている。『畑へ行こう』『勝利の5月』などの解放直後の名曲は、平和的建設期の民主改革と民主建設の躍動する息吹を熱く感じさせ、『決戦の道』『聞慶峠』『塹壕でうたう』のような戦時の名曲は、苛烈な祖国解放戦争の歴史的な出来事を末永く伝えている。

 名曲とは、文字どおり有名な曲、すぐれた音楽という意味である。

 我々は、どのようなものがすぐれた音楽であるかということを、「形式の論理性」や「芸術の純粋性」などにのみ求めようとしたり、流行にともなう一時的な人気に求めようとしてはならない。

 名曲の本質は、あくまでも、人間を基本とし、自主的人間の美感と要求、その創造的活動における役割に照らして規定しなければならない。

 名曲とは、聞けば聞くほどすばらしく印象深い音楽のことである。音楽作品は聞くほどにすばらしく印象深いものであってこそ、名曲としての価値をもつものである。

 音楽が聞くほどにすばらしいということは、人々の思想・感情に合うということである。

 音楽は、人間の思想・感情をかれらの要求と美感に合わせて表現する。音楽を創造するのは、人間であり、それを享受するのも人間である。人間は意識的で自主的な存在であるため、音楽も自主的に生きるための自分の意思を表現しようという意識的な要求から、自分自身が享受するために創造することになる。

 音楽は、人々の思想と感情に合ってこそ美的な快感と満足を与え、聞くほどにさらに聞きたくなるものである。

 音楽の創造と発展においても、主体は人民大衆である。したがって、名曲の基準も人民大衆の志向と要求、美感に合うかどうかに置くべきであり、誰もが好む音楽を名曲と規定すべきである。音楽が聞くほどにすばらしいというのは、人民大衆の志向と感情に合い、すべての人民が好むということを意味する。

 音楽が印象深いということは、人々の意識に永く残り、情緒的余韻が意識の発展と創造的活動に作用するということである。

 人間は意識的で自主的な存在であるだけでなく、自分の意識を高めて自然と社会と自分自身を改造していく創造的な存在である。人間は、自分の創造的な活動においてさまざまな社会的意識形態を積極的に利用し、そこから自然と社会を改造するための多くの知識を得るばかりか、自分の思想・意識を高めるための思想的な糧と精神的な力を得る。音楽は、人間の創造的活動を鼓舞し、思想と感情を豊かにする思想・情操教育において大きな力を発揮する。

 音楽が人間の創造的活動において鼓舞的で教育的な役割を果たすには、その意識から消え去らず永く残っていなければならない。名曲は、聞くほどに印象深いものであるため、人々の思想・感情を豊かにし、創造的活動に大いに寄与する強力な手段となる。

 名曲は、思想性と芸術性の高い音楽である。高い思想性に高尚な芸術性が裏打ちされた音楽であってこそ名曲になりうる。

 思想性は、名曲の第一の徴表である。

 思想性は、主体的な音楽芸術の本質的属性であり、音楽が革命に大いに資する根本要因である。思想性の欠けた音楽は何の役にも立たない。

 チュチェの音楽芸術で解決すべき基本テーマは、領袖に関するテーマである。

 領袖に関するテーマでは、革命的領袖観に関する問題を正しく解決しなければならない。革命的領袖観は、音楽作品の革命的内容において核をなす。

 歴史発展における領袖の地位と役割、そして、領袖、党、大衆の一心団結の根本要因、領袖と人民大衆の血縁的関係、領袖にたいする戦士の革命的信義にもとづく忠孝といった問題は、いずれも第一に解決すべき重要な思想的・主題的課題である。我々の音楽は、金日成同志の栄光にみちた革命活動史と革命業績の偉大さ、指導の賢明さと高邁な徳性を高らかに謳歌し、金日成同志への厚い欽慕の念とかぎりない忠誠心、あくまで、金日成同志に従おうとする鉄の信念と意志をもりこむべきである。そうしてこそ、音楽が人民を党と領袖のまわりにかたく結集し、金日成同志の革命偉業を完成するうえで大きな役割を果たす名曲として立派に創造される。

 革命的な音楽芸術の思想・主題の内容で重要なことは、党の政策を十分に反映することである。党の政策を反映した歌を多く創作することは、音楽の創作でわが党が堅持している一貫した方針である。

 党の政策は、領袖の革命思想の具現であり、領袖の革命偉業を完成するための具体的な方途である。

 党の政策を反映した音楽作品は、党員と勤労者に党の政策を深く認識させ、かれらをその実行に立ち上がらせるうえで大きな役割を果たす。

 音楽作品は、党の政策を深く反映し、それにしっかり依拠して、革命と建設で提起される切実で意義のある問題をそのつど立派に反映しなければならない。そうしてこそ、音楽作品が、党員と勤労者に党の政策の正当さと不敗の生命力、それが具現される偉大な現実と輝かしい展望を深く認識させ、かれらが党の政策を実行するために積極的に立ち上がるよう鼓舞激励することができる。

 音楽作品には、革命伝統教育、階級的教育、社会主義的愛国主義教育など、党員と勤労者を革命的に教育する種々の内容を反映すべきである。

 音楽作品では、自主的な人間の英雄的闘争と生活、崇高な精神世界を掘り下げて描かなければならない。

 自主的な人間は、人間一般とは区別される新しいタイプの人間である。自主的な人間は、領袖観にもとづいて歴史発展の合法則性を認識し、階級的に自覚した人間であり、自主的で創造的な生を輝かすためにたたかうチュチェ型の新しい人間である。

 チュチェの旗のもとに長期にわたって進められてきた朝鮮革命の険しい路程には、自主的な人間の典型となる生きた模範が無数に見られる。金日成同志の指導のもとに展開された抗日革命闘争と解放後の民主主義と社会主義をめざす2段階の革命闘争、祖国統一をめざす闘争は、歴史の自主的主体である人民大衆のチュチェ偉業を実現するための偉大な革命闘争である。我々の音楽は、これらの闘争で発揮された英雄的主人公の気高い精神世界と素朴で楽天的な生活をリアルにもりこむべきである。

 歌の思想的内容を明確にするためには、歌詞を上手に書かなければならない。歌詞は、生活を反映し思想・主題の内容を表現するうえで直接的かつ具体的であるので、歌の内容を革命的なものにするうえで決定的な意義をもつ。すぐれた歌詞から名曲が生まれるのである。歌を革命的内容の名曲にするためには、歌詞の思想性を高めなければならない。

 歌の音楽情緒も、歌詞の革命的な内容に合ったものでなければならない。

 音楽情緒を革命的な内容に合わせるからといって、叫んだりわめいたりするようなものにしてはならない。内容が革命的なものであっても、行進曲のように戦闘的な情緒が合うこともあれば、叙情的な淡い情緒が合うこともあり、明るく朗らかな情緒やソフトで優雅な情緒が合うこともあれば、悲しく悲壮な情緒が合うこともある。しかし、それらの音楽の情緒はみな、歌詞の革命的内容にふさわしく健全で高尚かつ豊かで深みがなければならない。退廃的で低俗かつ無味乾燥で軽薄な情緒は、革命的な内容とは無縁のものである。

 音楽の情緒は、深みと余韻があって、何かしら深く考えさせるものがなければならない。我々の時代の音楽の情緒は、時代の精神がはばたき、躍動感にみちあふれた生き生きとしたものでなければならない。

 革命的な音楽は、情熱のこもったものでなければならない。音楽での情熱は、現実にたいする作曲家の強烈な主張と熱烈なアピールのあらわれである。音楽に情熱がこもっていなければ、作品の思想をきわだたせることができない。

 名曲は、芸術性が高くなければならない。

 思想性をそなえているだけでは名曲にならない。芸術性は、芸術の基本的徴表である。

 音楽は、芸術性をそなえてこそ、社会的機能を果たすことができる。人々が、音楽を聞いて楽しがったり深い印象を受けるのは、それに思想性と芸術性がそなわっているからである。音楽に芸術性が欠けていれば、人々はそれを聞こうとはせず、うたおうともしないであろう。音楽は高い芸術性をそなえてこそ、人々がそれに引かれてよく聞き、うたい、それにもられている深い思想を感銘深く受けとめるようになる。音楽がいかに思想性の高いものであっても、芸術性に欠けていてはその崇高な使命をまっとうすることができない。音楽は、その高い思想性が崇高な芸術性によって裏打ちされてこそ、人民大衆を政治的、思想的に教育し、革命闘争と建設事業に立ち上がらせるうえで大きな作用を及ぼすことができる。

 音楽の芸術性を高めるためには、形象化を巧みにおこなわなければならない。

 形象化は、人間の思想と感情を表現する芸術に固有な形式であり、実際に見、聞き、感じるように感得させる特殊な芸術表現方式である。作品が本質的なものにたいする鋭い着眼と説得力とリアリティーをそなえていながらも、人々の感興をそそり、かれらを感動させる情緒的な牽引力をもつためには、形象化がうまくなされていなければならない。

 歌では、歌詞が思想性の高い叙情的なものでなければならない。歌詞は、生活に密着した詩的なものであるべきである。歌詞を政治用語の羅列した堅苦しいものにしたり、散文的なものにしては、人々を感動させることはできない。歌詞が生硬なものであると、それがいくら思想性の高いものであっても、人々は興味をそがれてうたいもしなければ聞こうともしない。

 作詞にあたっては、政治的・思想的内容を詩的感情にもりこみ、生活に密着させて解いていくべきである。歌詞は、なるべく生活に密着したボキャブラリーと形象的な表現を用いて人々に親近感をいだかせ、韻律をととのえて詩的な感興が湧くようにすべきである。もとより、歌詞に政治用語をまったく使わないわけにはいかないが、それを一つ二つ使うにしても適切な箇所に無理なく入れるべきである。歌詞は歌としてうたわれるものであるため、曲づけができるように歌唱性を考慮に入れるべきである。

 歌は、音楽的な形象も高いものでなければならない。

 音楽的形象においては、内容についての具体的な感じを情緒的に生き生きと描くべきである。歌の場合、曲がこの歌詞にもあの歌詞にも合うようであるなら、それは、すでに形象的具体性が欠如したものである。音楽は、歌詞の詩文学的形象や作曲家の形象上の意図を明確に表現する情緒的具体性がなければならない。

 音楽的形象は、きわだった個性によって創造されるべきものなので、特色があり、新味がなければならない。音楽が千編一律のものであれば、それは芸術的形象とはいえない。音楽の形象は個性が際立ち、新味のあるものであってこそ、人々を感動させる芸術的牽引力をもつ。

 音楽の芸術性は、思想性と密接に結合すべきであり、人民性、民族性、通俗性を前提としなければならない。

 芸術性は、それ自体のために必要なのではなく、まったく孤立して存在するものでもない。芸術性は、現実にたいする人間の思想・感情を表現する芸術に固有な特性であり、思想を伝達する芸術に固有な方式である。思想性をぬきにした芸術性は、何の価値もなく、内容が伝達されない芸術性は何の役にも立たない。音楽は、思想性だけを強調して芸術性を無視したり芸術的価値を落としたりしてはならず、また、思想性を無視して芸術性だけを強調する芸術至上主義を許してもならない。

 音楽の芸術性は、あくまでも、人民大衆の志向と要求を反映するのに服従すべきであり、自国人民の思想と感情に合い、かれらが理解できるものでなければならない。

 我々は音楽作品を一つつくるにしても、人民大衆が好み、かれらを闘争に立ち上がらせる鼓舞的な扇動者、真の教育者になる思想性・芸術性の高い我々の時代の名曲にしなければならない。

 革命に必要な名曲を創作するためには、チュチェの世界観を確立しなければならない。

 思想性・芸術性の高い革命的な名曲は、チュチェの世界観にもとづいてのみ創造される。チュチェの世界観を確立することなしには、チュチェ思想が具現されているわが国の現実の本質を正しく把握することはできない。

 偉大なチュチェ思想にもとづいて創始された主体的文芸思想は、社会主義・共産主義文学・芸術建設のもっとも正しい道を示す独創的な文芸学説である。

 主体的文芸思想で武装してこそ、科学的な理論と方法論にもとづき、音楽創作におけるいかなる難問題も立派に解決することができる。

 作曲家は、金日成同志のチュチェ思想、主体的文芸思想と党の文芸方針を深く体得し、血とし肉とすることによって、党の革命的な創作家としてしっかり準備すべきである。

 革命に必要な名曲をより多く創作するためには、現実に深く入り、身をもって生活を体験する必要がある。

 時代の名曲は、時代の息吹が脈打つ現実のなかから生まれるものである。わが党の路線と政策が具現され、党と領袖にかぎりなく忠実な勤労人民大衆の創造的情熱があふれ、奇跡と革新がたえず起こっているわが国の現実は、創作の無尽蔵の源泉であり、作曲家の創作的知恵と創造的気風を養う立派な学校である。

 作曲家は現実に深く入ってこそ、党政策の偉大な力と不抜の生命力を実感し、党と領袖のために、党の路線と政策を擁護し貫徹するためにたたかう勤労人民大衆の闘争精神と生活感情を深く体得することができる。作曲家は、現実のなかに深く入り、党の路線と政策、チュチェの革命的観点にもとづいて現実の本質を見きわめ、正しい美学的観点に立ってそれを深く体得するだけでなく、そこで自分の情熱を燃え上がらせることによって、思想性・芸術性の高い時代の名曲を多く創作すべきである。

 革命に必要な名曲を多く創作するためには、創作的資質をたえず高めなければならない。

 音楽の創作は、政治的・思想的熱意だけでなされるものではない。思想性・芸術性の高い名曲は、作曲家の政治的・思想的準備と現実体験に創作的資質が裏打ちされるときにのみ創作されるのである。すぐれた名曲は、高い思想性と崇高な芸術性をともに高めることを求める。名曲の崇高な芸術性は、正しい創作方法と高い創作技量によってもたらされる。

 作曲家は、音楽作品にたいする党の評価にもとづいてわが国の名曲とその創作経験を深く研究するとともに、古今東西の有名な音楽作品を歴史の発展過程で幅広く把握し、メロディーとハーモニー、複声、楽器編成、音楽形式といった音楽言語の原理と技法、その発達史も体系的に研究すべきである。特に、わが国の民謡と人民音楽を多く知り、深く体得することが大切である。作曲家は、ピアノをはじめ、楽器の演奏技量と声楽、器楽演奏に関する多様で豊富な知識もなければならない。文学、美術、舞踊などの姉妹芸術に関する豊富な知識も、作曲家に必要な資質の一つである。自然と社会に関する多方面にわたる知識も、作曲家の思索と探求の助けになる。

 創作と創造の過程は、革命化、労働者階級化の過程となるべきである。作曲家は、党の厚い信頼と期待、革命にたいする栄誉ある使命を深く自覚し、みずからをたえず鍛え、政治的、実務的にしっかり準備して、我々の時代の記念碑的名曲をより多く創作することによって、革命的作曲家としての本分をまっとうすべきである。





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