金正日「建築芸術論」−4 建築と指導

1 建築家は、創作家であり作戦家である


 地球上に「竪穴住居」が生まれたときからはじまった人類の建築史は、こんにちにいたるまで長い歳月を経てきた。この期間に建築家は、社会と人間のためにじつに多くのことをなし遂げ、時代と民族の誇りとなり栄誉となる万年の財宝をもたらし、人類の歴史とともにありつづける偉大な功績を残した。これは建築家に大きな誇りと自負をいだかせ、時代と歴史にたいして担っている使命感をいっそう深く自覚させている。

 建築家は、建築創造の重要性と意義を明確に認識し、人類にたいする使命と任務を深く自覚してこそ、建築創造においてより大きな前進をもたらすことができる。

 建築家は、創作家であり作戦家である。

 建築家の創造活動をぬきにしては、建築物の存在について考えることはできない。複雑な科学技術をともなう建築は、専門家でなければ絶対に創造できない。人民大衆が建築の創造者であるというのは、建築創造での基本は人民大衆の志向と要求であり、人民大衆の積極的な参加のもとに設計が現実化されるということであって、着想と構想、設計はだれでもできるということではない。建築設計は、建築部門の科学技術と建築の創作技量を身につけた建築家によってのみなされる。

 建築物は、着想の段階から構想、設計、施工の段階を経て現物として実現される。

 建築創造の各段階は、建築家の創造的活動によって裏打ちされる。独自の着想と構想、独自の設計と創造の過程が、建築家の建築創造活動である。独自性がなければ新しいものを創造することはできない。独自性のない建築家は、現実に深く入っても新しいものを発見できず、着想や構想、設計も自分の力ですることができない。独自の建築創造活動は、建築家の創作姿勢、活動方式であり、新しい形式と内容をそなえた建築を創造させる基礎である。

 建築は、新しいものでなければならない。これは、芸術としての建築の本性から提起される必須の要求である。建築は、ほかの芸術と同様に独創性を本性としているため、常に新しく特色がなければならない。

 建築創造活動の創造性と建築の独創性ゆえに、建築家は創作家となるのである。

 建築家が真の創作家となるためには、毎回斬新で特色のある建築を創造しなければならない。創造的能力のある建築家とは、非反復的な形象によって新しいものをつくりだすことのできる建築家をいう。

 建築家が、創作家としての自己の使命と任務を立派に果たすためには、なによりもまず創造的能力と創作的資質を高めなければならない。

 創造的能力と創作的資質は、建築家の創造性と独自性を保証する。建築家はその能力と知識水準に相当するものを描きだし、創造する。

 建築家の創造的能力と創作的資質は、革命的な思想・意識と政治的見識、技術工学の知識と芸術的技量など、多方面にわたる知識の有機的な結合によってもたらされる。

 建築家は高い創造的能力と創作的資質を身につけてこそ、実生活の本質と人民大衆の自主的で創造的な生活上の要求を深く把握し、正しく選択して建築物の内容にもりこみ、自然と社会生活から新しいものを探しだして、斬新で独創的な建築を創造することができる。建築家は、創作的資質が高いほど、事象をより広く深く観察し、より具体的に把握して敏感に感じとり、新しいものを探求して発見し、建築創造に積極的に利用することができる。建築家は、高い創作的資質をそなえてこそ、建築物の使命と基本的要求に即して形成体系と秩序をうち立て、多様な調和の手段と手法を巧みに用いて、精巧で複雑な建築創造活動を成功裏に進めることができる。

 建築家の創造的能力と創作的資質を培ううえでの基本は、党の政策を深く体得することである。党の政策は建築創造の指針であり、着想から構想、設計、施工など建築創造の全過程で貫くべき大前提である。

 建築創造は、建築に関する党の構想を実現していく創作活動である。党の政策にうとくては、党の雄大な構想を立派に実現することはできず、時代の要請と現実から提起される焦眉の問題を正しく見つけることも、建築創造活動を能動的に進めることもできない。

 我が党は、蒼光通りの建設を建築創造における革命的転換の起点にするという構想を示し、そこにスマートな高層アパートを建設するようにした。これは、蒼光通りをすばらしく建設し、平壌市の中心部に立体的な深みをもたせることによって、首都の壮大さと華麗さを引き立てることが重要な目的であった。ところが最近、一部の建築家のあいだに、新しく建設する街や都市にもそれと同じような建物を配置して、蒼光通りのように形成しようとする傾向があらわれている。それは、蒼光通りにスマートな高層アパートを建てるようにした党の意図を深く把握しておらず、それを都市形成の重要な原則と思い込んでいるためである。新しく形成する都市や街に蒼光通りと同じようなアパートを建てようとするのは、模倣である。新しく形成する街や都市は、その時代の要請と地域の特性に即して、既存の枠から抜けだし、新しく特色づけて建設しなければならない。

 ときおり建築家から党の意図に反する設計形成案が出されるのは、主としてかれらが実務に走り、党政策の学習をおろそかにしているからである。多忙であるほど党政策の学習に励み、党の構想と意図を把握するため懸命に努力しなければならない。建築家は党の政策をより正確に深く知ってこそ、自分の実務水準も真価を発揮することができるということを常に肝に銘じるべきである。

 創造的能力を養ううえで重要なのは、技術実務水準をたえず高めることである。高い技術実務水準は、建築創造活動を独自に、創造的に進めるための条件をもたらす。高い技術実務水準は、創造的思索と創造的構想の源である。技術実務水準が高ければ、既存の作品を批判的に見て正確に分析し、他人に頼ることなく自力で新しく特色のある建築を創造することができる。

 建築創造に用いられるすべての調和手段と手法を深く把握する必要がある。調和の手段と手法を深く把握することは、建築家の技術実務水準を高めるための基本的要求である。建築家の高い技術実務水準は実践活動にあらわれ、創作実践はすなわち調和の手段と手法を巧みに用いる過程である。建築でシンメトリーとアシンメトリーはどんな意義をもち、軸はどのように設定し、均衡はいかに保つべきかといった、建築創造の調和手段と手法にすべて精通していてこそ、どんな対象でも人民に好まれる記念碑的名作にすることができる。

 現代科学技術に精通すべきである。現代科学技術は、建築創造で新しく先進的な構造をつくりだし、建築の形式と内容に革新をもたらす。建築家がいくら斬新で特色のある形態を着想し設計したとしても、科学技術的な保証がなければ、それは実現性のない空中楼閣にすぎない。建築家が作成した設計が現場施工設計の段階でときおり変更されることがあるが、それは多くの場合、現代科学技術を無視し、実現の可能性を検討しなかったことに起因する。現代科学技術に精通することは建築発展の前提となる。建築家は、社会生活に必要な各分野の生活および生産活動の空間をはじめ、物質的・精神的富を産出する多様な建築物と村落や都市を現代的美感に合わせて形成する創造者であるので、広く深い技術工学の知識を身につけてこそ、建築物の実用性を保障する生活機能的合理性、保健衛生的合理性、構造的合理性、経済的効率などを有機的な統一のなかで総合的に解決することができる。

 建築家は、人間の生活と活動に必要なあらゆる知識を身につけなければならない。建築家は、飛躍的発展をとげている最新の技術工学と新しい建築材料に関する技術など建築物の現代化に必要な技術工学の知識を習得するために奮闘すべきである。建築家は高い目標を立て、強靭な意志をもって人一倍学習に励むべきである。建築家はまた、外国語の学習を強化して外国のすぐれた経験と成果を広く取り入れ、創作技巧と技量を高める訓練を計画的に、系統的におこなうべきである。学びまた学ぶことだけが、創作的資質を高めて立派な建築物を創作する道である。建築家は、高い創作的資質と頑強さ、大胆さ、忍耐力を兼備した建築家になるため、精力的に学び、自己を鍛えなければならない。

 建築家には、空間に関する概念がなければならない。空間に関する明確な概念は、建築家がそなえるべき重要な資質である。作家が言語の芸術家であるなら、建築家は空間の芸術家である。建築家は頭に空間を描くことができてこそ、人々の美的指向と美的感情、人間の生活をリアルに反映することができ、透視的な効果はどうか、新しい構想が対象の性格に合うか、周辺と調和するか、都市形成上の要求は充たされるか、といったことを具体的に検討し、自分の構想を練り上げて特色のある建築を創造することができる。

 建築家は、美術の才能にもたけていなければならない。建築家のすぐれた美術的才能とは、自分の構想を図面に写す能力のことである。いくら斬新ですばらしいものを構想したとしても、美術的才能に欠けていれば、それを図面に写すことができず、構想は一つの幻想に終わってしまう。建築家は、自分の頭で構想したことを自分で表現する能力を養い磨くことに時間と努力を惜しんではならない。

 創作的資質を高めるためには、習作に努めなければならない。習作は、すぐれた作品を創作するための前提となる。建築家は、習作をだれかの統制によっておこなう一種の負担と考えてはならず、創作生活の第一義的な要求とし、時と場所を選ばずに習作すべきである。

 建築家がその使命と任務を立派に果たすためには、建築創造に情熱を注がなければならない。もともと芸術そのものが精力を注ぐことを求める。精力を注がずに創造できる芸術作品というものはありえない。

 建築創作は、時間をかけるからといって成果が得られるのではない。建築創作における成果の秘訣は時間にあるのではなく、建築家の高い思想的見識と創作的情熱、資質にある。建築家の思想が啓発され、創作的情熱が燃え上がれば、いかに困難で複雑な設計であっても自信をもって大胆におし進めることができ、いかに膨大で複雑な設計であっても短時日のうちに高い水準で完成することができる。

 建築設計は、建築家の思想と情熱と資質の結実である。建築家の深い思索と燃えるような情熱、張りつめたねばり強い努力は、建築創作で想像を絶する速い速度を生み、創作設計の質を著しく高める。たとえ期間は短くても、建築家が高い政治的自覚と創作的情熱をもって大胆に取り組むならば立派な実を結ぶものであり、反対に建築家に政治的自覚が足りず、創作的情熱が欠けていれば、いくら資質が高く、時間をかけたとしても、創作設計を立派に仕上げることはできない。

 建築家は、実地調査から着想と構想、設計にいたるすべての段階で情熱を注がなければならない。

 建築家の責任感と役割を高めるべきである。

 設計は党の建築構想を実現するための作戦文書にひとしく、建築家は作戦文書の作成を担当した作戦家であるといえる。設計によって党の建築構想を実現するための具体的な内容が図面に写され、その図面によって建設が進められ、現実化される。

 建設の基本は、設計である。

 設計がなければ労力や資材、設備、資金を見積もることも、その予算を立てることもできない。設計は、精密で具体的かつ現実性のあるものでなければならない。精密さと具体性は、建築設計の本質的特性である。設計が精密でなければ施工の段階で混乱が生じ、施工をやり直すといったことになりかねない。設計で点や線を一つ事きそこなうと、多くの国家資材と資金が浪費されることになる。設計が具体的なものでなければ、国家計画を正確に立てることができず、関連企業所の生産に大きな支障をきたすことになる。

 建築家は、室内の仕上げ材の色や模様をはじめ、細かい点もおろそかにせずに深い関心を払い、ドアの取っ手の形はもとより、蝶つがいはどんな形のものがどれほど必要であり、それを取り付けるのにねじ釘は何本要るかといったことまで見積もらなければならない。

 社会主義的・共産主義的建築は人民のための建築であるため、建設では費用が問題なのではなく、人民大衆の志向と要求が設計に正しく反映されるかどうかが問題なのである。だからといって、資材や資金を浪費してもかまわないというわけではない。建築家は粟粒も割って食べるという。これは、建築家は染め粉商人のように細かく具体的でなければならないということである。

 建築家は設計の段階で、同じ基準、同じ資材でより立派に、より堅固に、より多く建設するという原則に徹するべきである。設計は建設の作戦文書であるため、その担当者である建築家が作戦家としての任務をまっとうするためには、現実を深く知り、国の経済状態を具体的に把握しなければならない。これは、現実性のある設計を作成するための前提である。

 現実が反映されておらず、国の経済状態が見積もられていない設計は、ただの絵か紙切れにすぎない。建築家は、日ごろから現実に深く入って、建築にたいする大衆の評価と要求を具体的に知り、各工場の品目別、規格別の生産量に精通していなければならない。

 建築家は、自分が作成した設計について時代と革命の前に責任を負い、主人としての立場に立つべきである。

 建築家が主人としての立場に立つことは、設計で一切の形式主義を克服し、その質を高め、創作家、作戦家としての任務をまっとうするための根本的要因となる。

 建築家のなかには、設計を完成して建設現場に送れば自分の任務を果たしたかのように考える人がいるかと思うと、図面の彩色などを巧みにして、それで立派な作品を創作したかのように考える人もいる。

 建築家は、美術家でもなければ彫刻家でもない。建物の立面図をそれなりに仕上げるか、先に模型をつくったりして、決裁を受けると、逆にそれに平面を合わせ、施工に関心を払わないのは、いずれも無責任で主人らしくない態度であり、極端な形式主義、要領主義である。

 彩色をじょうずに施し、模型を立派につくるのが重要なのではなく、時代の要請と人民大衆の志向にかない、そのうえ形式も内容もすぐれた設計をすることが重要なのである。形式と内容がよく、時代の要請と人民の志向にかなった設計をした設計士であってこそ、主人としての立場に立った設計士といえる。建築家は、常に党的・国家的立場を堅持し、1つの点、1本の線にも主人としての立場があらわれるようにしなければならない。

 建築家には、想像力もなければならない。構想は豊かな創造的想像力から生まれ、熟すものである。建築家に想像力があってこそ、高い目標をかかげて大きなものをねらうことができる。想像力は、時代の要請と人民の志向に合うものでなければならない。想像力が時代の精神に合わず、人民の生活と関係のないものであれば、用をなさないばかりか、かえって有害なものとなる。

 建築家が創作家、作戦家としての任務を立派に果たすためには、自分を革命化、労働者階級化しなければならない。建築創作の成果は、建築家の思想・意識いかんにかかつている。建築家が古い思想に染まれば、人民大衆のための革命的な建築物を創造することはできない。建築家は、革命と建設に必要な物質的・文化的財貨を創造する生活活動空間をもたらし、それを通じて人々を革命と建設に積極的に参加させるのに寄与する。

 建築家は職業的特性のため古い思想の影響を多く受ける反面、自分を革命的に鍛える機会が少なく、建築創作の過程で功名主義に陥るおそれがある。建築家の革命化、労働者階級化をおろそかにすると、かれらの頭に異質的な思想が浸透しかねない。

 社会主義的・共産主義的建築は、建築芸術分野に残っている搾取社会の反動的な建築流派とのたたかいを通じてのみ、立派に創造していくことができる。搾取社会から譲り受けた各種の建築様式の不健全な形成手法の残りかすは、建築家を革命化、労働者階級化してこそ一掃される。

 建築家を革命化、労働者階級化するためには、かれらにたいする思想教育を強化しなければならない。建築家を革命化、労働者階級化する思想教育において基本となるのはチュチェ思想教育である。建築家のあいだでチュチェ思想教育を強化してこそ、かれらがチュチェ型の共産主義的革命家が身につけるべき思想的・精神的および道徳的品性と資質をそなえることができる。

 建築家を革命化、労働者階級化するためには、かれらの革命的組織生活を強化しなければならない。社会主義社会における建築創作は、高度の精神的緊張と創作的情熱、革命性、組織性、規律性、集団主義精神を求める。党組織は、建築家が正しい組織観念をもって組織生活に自覚的に誠実に参加し、革命課題の遂行と密接に結びつけて組織生活をおこなうように導くべきである。

 革命的な実践は、革命化、労働者階級化の重要な方途の一つである。革命的実践は人々の思想・意識を改造する強力な手段であり、強靭な革命的意志を培う学校である。人々は、自然と社会を改造する困難で複雑な実践闘争のなかでたえず鍛えられ、革命家に育つのである。建築家は革命的な建築創作の実践を通じて、党と領袖への忠実性とチュチェの革命偉業にたいする献身性、人民大衆にたいする奉仕精神を高め、強靭な革命的意志と頑強な闘志、忍耐力を培うようになる。建築家は、建築創作の過程を通じて自分をたえず革命化、労働者階級化し、チュチェ型の建築家としてしっかり準備しなければならない。

出典:金正日選集 11巻


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