金正日「建築芸術論」−3 建築と形成

4 多様性は、建築の造形芸術的質を高める


 建築創作において多様性をもたらすことは、建築形成の基本原則の一つである。建築は、特色のある多様なものであってこそ人の目を楽しませ、芸術としての建築に固有な情緒的感化力をさらに高めることができる。

 建築形成において多様性をもたらすことは、建築の造形芸術的質を高め、古い枠から抜けだして新しく特色のある建築を創造するための基本的要求の一つである。

 建築の多様性は、生活の多様性、自然の多様性にもとづいている。人間の生活は、多様かつ変化に富み、自然も千姿万態であるため、その反映としての建築も当然、多様にならざるをえない。人間の生活上の要求は多様であり、建築家の創作上の個性もそれぞれ異なるため、建築は歴史的に多様な発展をとげてきた。

 建築形成における多様性の具現は、本来の意味において非反復的で独創的なものである。建築家が多様な建築を創造するということは、既存の形式を繰り返さず、独自に特色と新味のある種々さまざまな形式を創造するということである。建築形成における多様性は、非反復的かつ独創的であることを前提とする。建築形成において非反復性と独創性は、多様性をもたらす基本条件であり、多様性の質を評価する尺度となる。

 建築家はすべての建築物を非反復的なものにしてこそ、多様な人間の生活の要求を充足させ、特色のある建築を創造することができる。

 多様性をもたらすのは、建築形成において造形芸術的質を高めるための重要な条件である。建築が多様であってこそ、日増しに高まる人民の生活上の要求と美的感情に合い、美しい山河ににつかわしい壮麗な建築物を創造することができる。個々の建築物が多様であってこそ建築群が美しく見え、建築群が多様であってこそ街が美しく映り、街が多様であってこそ都市が美しく華やかになるのである。

 多様性が建築創造において重要な意義をもつからといって、それを絶対化してはならない。

 建築形成で多様性を生みだす過程は、相異なる建築の構成要素を結合して変化に富んだ多様な造形美を創造する過程である。

 建築形成に多様性をもたらすうえでの基本は、建築の構成要素そのものに多様な変化をもたせ、構成単位を正しく選定し、合理的に結合することである。

 概して都市建築の多様性は、構成単位の対照的な効果によってもたらされる。したがって、都市の建築形成に多様性をもたらすためには、使命が異なる独特な形態の構成単位を適切に組み合わせなければならず、使命が同じ構成単位であっても、その大きさと形態を変えて結合しなければならない。これは、構成単位が対照的な効果をもたらす下地となり、建築の多様性を生みだす条件となる。

 なによりも建築様式が多様でなければならない。使命と性格のさまざまな新しい建築様式は、新しい時代の要請、時代の精神を反映して生まれる。国際親善展覧館、人民大学習堂、万景台学生少年宮殿、ヘルス・センター蒼光院、平壌産院などの新しい建築様式は、チュチェ時代の要請と時代の精神、朝鮮人民の高尚な生活感情と政治的・道徳的品性、朝鮮式社会主義制度の優越性を集中的に反映して創造されたものである。斬新で多様な朝鮮式の建築様式は、その革命的な使命によって人民の思想・情操教育に大いに寄与し、かれらに深い美的感銘を与えている。

 個々の建築空間と建築形態の多様性をもたらさなければならない。建築空間と建築形態の多様性は、全般的な輪郭の形状と構成要素および細部の仕上げの多様な解決、装飾、壁画、彫刻の多様な適用によってもたらされ、建築空間と建築形態の全般的な輪郭の形状は、平面と断面の輪郭の形状によってつくられる。

 現代的美感は、建築形態の全般的な輪郭の形状をさらに屈曲のある多様なものにすることを求める。輪郭の形状が同じ建築物であっても、その構成要素と細部の仕上げをさまざまに処理して多様性をもたらすことはできるが、そんな手法では近くから見ては独特で魅力的な感じがしても、遠くから見ると単純で類型的な感じがするものである。

 建築様式や個々の建築物だけでなく、建築群や街、村落や都市の形成においても多様性をもたらさなければならない。

 個々の建築物の多様性は建築群の多様性をもたらす前提となり、建築群の多様性は街の多様性をもたらす前提となり、また街の多様性は都市と村落の多様性をもたらす前提となる。したがって、建築群を多様なものにするには、それぞれの建築物の形状が独特なものでなければならず、街を多様なものにするには、それぞれの建築群の形成が特色のあるものでなければならず、また都市を多様なものにするには、それぞれの街の形成が異なったものでなければならない。形状の似通った建物や建築群、街では多様な建築群や街、都市の建築形成を創造することができず、建築創造における類型化を克服することもできない。

 光復街の建築形成では、基本構成単位である高層アパートの形態を円筒形、風車形、多角形、S字形、階段形などさまざまなものにし、それに平壌サーカス劇場、青年ホテル、香満楼食堂、万景台学生少年宮殿、光復百貨店など、使命も異なり形態も独特な建物をうまく組み合わせることによって、多様性を見事にもたらしている。

 街の形成に多様性をもたらすためには、街を立体的なものにしなければならない。大通りにそって建築物を一直線に配置する周辺配置法は古い方法である。

 現代の要請と朝鮮人民の生活感情、現代的美感に合わせて街を形成するためには、通りの表側にはそれに見合った建物を配置し、空間面積を合理的に利用して建築密度をもたせながらも、緑地空間をつくり、どこから見ても感じよく建築物を配置して、街の形成の立体性が保たれるようにしなければならない。建築物を四方に多様に配置すれば街を立体的に形成することができ、またそうしてこそ生活機能的連係をいっそう便利なものにし、建築物が重なり合って壮大さを感じさせ、開放性と深みがもたらされて現代的な感じがするようになる。

 街を多様かつ立体的に形成するためには、建築物の様式を正しく選定し、それぞれの街に特色があって形状の異なる建築物を配置しなければならない。

 街の形成においては、建築物の大きさと屈曲状態、形成上の特徴を総合的に考慮し、統一的な調和がとれるように、さまざまな調和の手段と手法を適切に用いる必要がある。

 建築物の配置で重要なのは、建築的アクセントを生かすことである。建築的アクセントを生かせば、建築形成上重要な役割を果たす構成単位がすぐ目につき、全般的な建築形成における統一性と多様性をもたらすことができる。

 建築的アクセントを生かすからといって、それをあまりきわだたせて全般的な統一性を破壊してはならず、建築的アクセントをあまり多く選定して視界を散漫にしてもならない。建築的アクセントは、全般的な形成上の要求に即して、必要かつ緊要なところに明白に生かすべきである。

 建築形成での多様性の具現で重要なことは、建築物の周辺要素を特色のある多様なものにすることである。建築物の周辺要素は、対象の使命と外部空間の機能と性格に合わせて選定され、造形的要求に即して多様に解決されなければならない。周辺要素は、建築物や建築群の多様性をもたらす方向で形成すべきである。

 村落と都市の形成も特色のある多様なものにしなければならない。そのためには、建築物の様式と形態を多様にするとともに、建築群と街の形成も多様にしなければならない。

 革命の首都、革命史跡都市、港湾都市、海岸都市、山間都市、観光都市、関門都市、炭鉱村、林業村、農村などはそれぞれ異なる特性をもっているため、それらの村落と都市の特性が明白に生かされるように形成すべきである。村落と都市の特性を生かすためには、その性格に合わせて記念碑的建造物を正しく選定して配置し、村落と都市の輪郭の形状を屈曲のある多様なものにするとともに、建築物を地形条件に合わせて合理的に配置しなければならない。民族的な形式の建築物と現代的な形式の建築物を適切に組み合わせて、都市を全般的に民族的な情調がただようように形成すべきである。

 同じ規格の部材でブロック建築を多様に形成することは、現在、切実な問題として提起されている。同じ規格の部材でブロック建築を多様に形成するためには、規格化された単位空間を基本的構成単位とし、それを合理的に結合する方法で建築物の形状を屈曲のあるものにしなければならない。

 自然環境と風致の要素を十分に生かすことは、建築の多様性を生みだすうえで、特に重要な意義をもつ。我々をとりまく周囲の空間で、最も美しく多様なのは自然の風致である。自然界にはありとあらゆる樹や花があり、岩もあれば川や山もある。千姿万態の自然の美しさににつかわしい建物をつくりだす建築家であってこそ、有能で才能のある建築家といえる。

 建築家は、多種多様な手法と才能によって自然を人間の生活にさらに接近させ、人間が美しい自然を十分に享受できるように建築空間を形成しなければならない。

 美しいさまざまな山水を建築に取り入れるためには、空間を閉ざさずに開放しなければならない。空間を閉ざして都市の建築空間と自然環境を隔てては、より立派な建築の多様性を生みだすことができないことはいうまでもなく、自然を鑑賞することも、楽しむこともできなくなってしまう。

 建築形成では自然を積極的に取り入れるとともに、自然とよく調和させる必要がある。

 人間は自然を好み、自然の中で楽しむことを一つの生活上の要求としている。一日の仕事を終えた後や休日、祝日などに人々が好んで公園へ出かけるのは、ほかならぬ自然を楽しむためである。自然の美があるところには、常に人間の生活があり、人間の生活があるところには、常に美しい自然があるものである。自然の美を知らない生活は、常に潤いのない生活となる。人々は自然を積極的に取り入れた建築空間、自然とよく調和した建築空間をいっそう好み、また、そのように形成することを求める。建築空間に自然を取り入れ、自然と建築空間をよく調和させることは、人々により情緒的で活動的な生活環境をもたらすうえで極めて重要な意義をもつ。

 建築空間を開放して建築空間に自然を積極的に取り入れる方法だけでは、建築と自然環境との調和の問題を完全に解決することはできない。建築と自然環境の調和を完全に解決するためには、建築空間に美しい自然を縮小して再現する方法を積極的に取り入れなければならない。そのような建築空間をつくれば、人々は常に清い空気と水に恵まれた自然の中で働き生活しているような感じがし、気持ちがいっそう楽しく愉快になる。

 限られた都市の建築空間や建築物の内部空間に美しい自然を縮小して再現することは、建築空間と自然をよく調和させて建築の調和性を高めるうえで大きな意義をもつ。

 美しい自然を縮小して再現するうえで、万寿台噴水公園は一つのモデルとなる。そこには池もあれば種々さまざまな噴水もあり、奇岩怪石もあれば滝もある。この公園は首都の勤労者の笑い声、歌声が絶えず、いつも多くの人出でにぎわい、あたかも祝日を思わせる。万寿台噴水公園は、我が国の美しい山水の縮図であるだけでなく、朝鮮人民の幸せな生活の縮図ともいえる。

 建築形成に多様性をもたらす目的は、魅力のある美しい建築形態を創造し、人々の美的・情緒的要求を満足させることにある。

 建築形態は時代の要請と人民の生活上の要求、現代的美感にかなっているだけでなく、美的法則と形成体系、秩序にも合致したものでなければならない。建築形態がいくら多様であっても、それが美的法則と形成体系、秩序に合わないものであれば、魅力的な美しさを生かすことができないばかりか、かえって低俗で空虚な感じを与えることになる。建築芸術における美は、生活の本質的な美と視覚的な美を有機的に統一させた、人間の生活と密着した美でなければならない。

 建築形成に多様性をもたらすことは、労働者階級をはじめ、人民大衆の美的要求を充足させることによって、かれらに楽しみと喜びを与えることに主な目的があるため、建築の多様性はあくまでも労働者階級的なものでなければならない。建築の多様性が個人の趣味本位と人気本位のものになっては、労働者階級をはじめ、人民大衆の利益と現代的な美的・情緒的要求を充足させることができないばかりか、有産階級の利益とかれらの退廃的な美的要求を代弁する結果をまねくことになる。建築形成における多様性は、あくまでも党的で人民的なものでなければならない。

 建築形成における多様性は、他の芸術と区別される一連の特性をもっている。文学・芸術作品は主に単独で創作され鑑賞されるが、建築物は単独で建設されるのではなく、ほかの建築物との相関性をもって建設され、統一的に、総合的に、同時に人々に鑑賞される。したがって、文学・芸術ではほかの作品との造形的な統一性を保つ問題が提起されないが、建築芸術では隣接するほかの建築物との造形的な統一性を保つことが極めて重要な問題として提起される。

 建築形成に多様性をもたらすからといって、論理性と形成体系に合わない、質的に異なる種々の構成要素を乱用してはならない。そうなると、建築形成で無秩序と粗雑さが生じ、建築物そのものの造形芸術性も失われることになる。

 建築形成における多様性は、あくまでも自国人民の現代的美感に合ったものでなければならない。

 現代的美感は時代とともに変わり、建築様式は現代的美感に合わせて多様化される。人民大衆の現代的美感は、最も高尚で健全かつ先進的な美感である。人民大衆は、労働者階級の領袖の偉大さ、飛躍的に発展するチュチェ時代の政治、経済、文化をはじめ、あらゆる分野の発展ぶり、自分の生活上および美学的・情緒的要求をリアルに反映した多様な建築を求める。

 建築形成に多様性を的確にもたらすためには、建築家が自然と実生活から斬新で独特なものを発見する能力を身につけなければならない。自然と実生活が多様であるからといって、だれもが斬新で独特なものを発見できるものではなく、それを建築形態に変えるということもまた容易なごとではない。建築家は、多様な自然と実生活から自国人民の好む斬新で独特なものを探しだし、それを多様な建築形態に変える能力をたえず培養すべきである。

 建築形成に多様性をもたらすからといって、形態的造形美の多様性に偏ってはならない。これは形式主義の温床である。建築形成の多様性は、あくまでも機能と構造との有機的な統一のなかでもたらされるべきである。

 建築形成に多様性を的確にもたらすためにはまた、斬新で多様な設計技法を探求しなければならない。どのような設計技法を用いるかによって、建築形成上の多様性の質が左右される。建築家は、図式的な設計技法、人のものを模倣する設計技法を断固排撃し、常に斬新で独創的な設計技法を探求すべきである。建築物に使われるすべての素材を設計技法に服従させ、巧みに活用できるようになるべきである。そうしてこそ、独創的な自分の設計技法の効果を発揮させ、建築形成の多様性を正しく保障することができる。

 建築の調和性を生みだすうえで重要なのは、多様性と統一性を正しく結合することである。

 建築の多様性と統一性は、切り離すことのできない密接な相関関係にある。多様でありながらも統一的に立派に形成されたものであってこそ真の統一性となり、統一的によく調和していながらも多様なものであってこそ真の多様性となる。

 建築形成に多様性をもたらすのは極めて複雑な作業であり、建築家が創作的能力と才能を強く発揮することを求める。建築家は創作的能力と才能を高度に発揮して、建築形成における多様性の原則を立派に具現しなければならない。

出典:金正日選集 11巻


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