金正日「建築芸術論」−3 建築と形成

3 独創性は、建築本来の要求である


 芸術としての建築は、内容と形式の高い思想性・芸術性ゆえに人々の美的・情緒的感興を呼び起こし、それによって認識的・教育的機能を果たす。建築の芸術性においては建築形象と造形性が基本となる。

 建築形象の基本的要求は、建築にたいする人々の物質生活上の要求と思想的・美学的要求を建築的に、造形芸術的に立派に表現することである。このような建築形象の基本的要求を新しく特色づけて解決してこそ、斬新な建築形象を創造したといえる。

 建築は、創作である。創作は、新しいものを創造していく過程である。新味がなく特色のない建築は創作ではない。

 独創性は、創作の本性である。

 建築創作は、創造される建築空間がより新しい色彩を表現し、特色のある味わいをただよわせるように、すべての構成要素を解決し、形成する過程といえる。

 新しい形成手段と手法を積極的に探求して活用し、種々の主・客観的要因を幅広くとらえて解決し、人々に新鮮でユニークな印象を与えるように創造された建築物であってこそ、創造物としての使命をまっとうすることができる。これは、建築創造において紋切り型と類型化を徹底的に克服し、新しく特色のある建築を創造することを求める。

 建築創造において、模倣は紋切り型と類型を生む。紋切り型と類型は死を意味する。建築創造において、紋切り型と類型化に陥ると、人民大衆の生活上の要求を深く理解することができず、既成建築の枠から抜け出すことができなくなる。模倣主義は、建築創造で既成の枠に合わせて創作の原則を設定し、建築の解決において新しい方法と技法の探求を妨げ、それを大胆に適用できなくする。模倣主義は、建築創造の本質的特性とその使命を正しく認識していないか、または認識しているとしても他人が創造した建築物を分析的に見ることができず、自分の創作上の定見を確立していないために生ずるのである。建築創造における模倣主義は、他人の建築に幻想をいだかせ、自分の創作上の定見をもてなくし、新しいものを見いだせなくする有害な思想潮流である。模倣主義に陥ると、既成の建築物や他人が創造した建築物に具現されている創作意図をそのまま引き写し、形成上の特徴をなんの考慮もなく真似るようになる。

 建築創造においては、独創性と非反復性の原則を堅持し、すべての建築を新しく特色づけて創造することが、特に重要な問題として提起される。

 人間とその生活は、極めて多様かつ豊富であり、固有な特性をもっているので、その反映としての建築も多様でなければならず、新しく特色がなければならない。これは、建築家に建築創作で創作上の個性を生かし、独創性を発揮することを求める。人類の建築は、建築家が現実に存在するあらゆる事物と現象から固有な本性を見いだし、それに即して新しいものを創造する過程で発展してきた。建築史が示しているように、建築家が創作で独創性を発揮して、新しく特色のある建築物を創造すれば、建築の発展に大いに寄与することができる。

 建築を新しく特色づけて創造するためには、なによりも主眼点を定めて目新しい着想をしなければならない。これは建築創造の第1工程であり、創作の成果を左右する根本条件である。建築創造において主眼点を定めることは形象的主題をとらえる問題であり、建築創造の全過程を建築家の意図どおり展開しうる条件をととのえる。形象的主題は、建築様式の構成と形状を規定し、スタイルを特徴づけ、建築の創作技法を新しいものにするなど、創作の全工程を統一的にまとめ、建築形成の一貫性を保障できるようにする。

 建築の本性は独創性であるため、形象的主題も独創的なものでなければならない。建築の形象的主題は、人民大衆の志向と要求、建築の性格と使命、都市の全般的な建築形成上の要求と自然地理的条件によって設定され、規定される。建築の形象的主題を左右する要因はすべて異なり、独特なものである。建築を新しく特色づけて創造しなければ、建築は自己の使命を正しく果たすことができず、全般的な建築形成に支障をきたすばかりか、創作での意図も実現できなくなる。このような意味で、形象的主題設定の問題は抽象的なものではなく、具体性をおびた創造的で独創的なものである。

 客観的現実を深く探求して把握することは、建築創造において形象的主題を正しくとらえるための根本的保証である。客観的現実とは、人民大衆の生活であり、自然地理的条件である。客観的現実は、極めて多様かつ豊富であり、一つとして同じものはない。建築家は多様で豊富な客観的現実を深く把握してこそ、自分の創作意図をユニークなものにすることができる。

 創作意図は、建築の創作方向と建築物の様式を規定づける基礎である。同一の対象に似通った試案が出されるのは、ほかならぬ建築家の創作意図が個性に欠け、形象的主題がユニークに設定できないからである。

 形象的主題を独創的なものにするうえで重要なことは、それぞれの建築物にもりこむべき思想的内容を正しく定め、建築創造の基本目的を正確に認識したうえで、それが果たすべき役割を深く把握することである。そうしなければ、創作の本筋を正しく定めることができず、形象的主題の問題も掘り下げて解決することができない。

 形象的主題の独創性を生かすためには、構成要素と構成単位、形成手段と手法など、すべてをその要求の解決に服従させなければならない。形象的主題の内容を表現する形成手段と手法は多種多様であり、それを条件づける客観的現実も複雑である。多様で複雑な現実と創作的手段のなかから形象的主題の要求にかなったものを選定し、それを創作意図の実現に服従させるべきである。これは建築創造の成果を保証する根本問題の一つである。

 創作意図を表現する建築構成の問題を特色づけて解決することは、形象的主題の独創性を生かすためのいま一つの重要な要求である。

 建築的形象の独特な色彩は、構成の主眼点を特色のある明確なものにし、それに合わせて構成してこそ、鮮やかに表現される。構成の主眼点に形象的効果が十分に考慮され、各構成要素が緻密に組み合わされた構成がすなわち、すぐれた構成である。

 平壌産院は、我が国の女性のために建てられた建物である。建築家はこの建物の設計にあたって、党の構想と女性の生活を深く把握したうえで母性愛を形象的主題として設定し、子供を抱き育てる母親の慈愛深い姿を形象化することを創作意図とした。建物の形態を形象的主題に即して設定し、自分の創作意図にかなった新しい形成手法を創造して適用し、自分が設定した形象的主題と創作意図を実現することにすべての建築構成要素を集中させ、服従させた。こうすることによって、建築家は産院を特色づけて建設するという党の構想を立派に実現し、それを新しく特色のある名作として完成することができた。平壌産院は、声をあげて駆け寄ってくる子供を両腕を広げて抱きかかえる母親の慈愛にみちた姿や、歩きはじめた双子を胸に抱いた母親の幸せな姿を思わせるので、一目で女性のための建物であることがわかる。

 建築家の創作意図がわからず、あいまいな空間がある建築構成は、緻密な構成とはいえない。

 建築形成において非反復的で独創的な原則を具現するということは、あくまでも1つの対象を単位とし、それをほかの対象と似通ったものでなく、非反復的なものにするということであって、建築物をなす構成要素まで非反復的なものにするということではない。建築物の性格と特性に合わせて単純な律動的変化を与えるべき場合には、同じ類型、同じ大きさ、同じ形態の構成要素を同じ方法で配置することができる。建築群と街、村落と都市の形成においても、これが重要な問題となる。

 建築群と街、都市の形成では、それぞれの建築物が1つの構成要素または構成単位となるので、同じ類型、同じ大きさ、同じ形態の建築物を一定の範囲で反復配置して律動的な変化を与えるならば、新しく特色のある建築群と街、都市を形成することができる。

 都市形成は、単に建物の位置や階数を定めることではなく、建築創造の一分野である。

 都市の形成では、建築形成理論にもとづいて建築物を統一的な流れに結合させ、1つの芸術的形象を創造する。都市建築家は1つの中心、都市の中心に合わせて建築物を一貫して配置し、都市の建築形成を完成する。都市の形成で個々の建築物の特性を生かすからといって、都市の全般的な形成上の調和をそこなってはならず、都市全般の形成上の調和をはかるからといって、個々の建築物の形成上の特性を無視してもならない。

 建築家の独創性は、都市形成で個々の建築物の特色を生かしながらも、全般的な建築形成の調和をつくりだすところにあらわれる。それぞれの建築物の形成上の特徴を明確に生かしながらも、都市全般の建築形成の調和がつくりだされるように都市を形成する建築家であってこそ、才能があり、真の建築を創造しうる建築家であるといえる。

 都市建築家は都市形成計画を作成するさい、どうすれば社会主義制度の労働者階級的で人民的な性格を正しく表現し、その本質的な優越性を正確にもりこむことができるか、どうすれば人民大衆の志向と要求にかなった都市を建設することができるかといった問題だけでなく、どうすれば造形芸術的に立派に形成することができるかといった問題まで提起して解決すべきである。

 新しく特色のある建築を創造するためには、建築家の創作技量をたえず高め、創作上の個性を生かさなければならない。高い創作技量は創作上の個性を生かす条件をつくりだし、特色のある創作上の個性は創作を独創的なものにする基礎となる。

 建築創造の直接の担当者は建築家であるため、建築創造の成否は建築家にかかつている。

 新しいものを探求して発見し、形象化して実現していく過程、すなわち新しいものの創造過程である建築創造の過程は、なによりも建築家の高い創作技量を求める。創作技量が高ければ、新しく意義あるものを探求して発見し、それを立派に形象化することによって、人民大衆の好む特色のある建築を創造することができる。創作技量が劣ると、むやみに他人のものを真似るようになり、結局、教条主義、模倣主義の誤りを犯すことになる。

 建築家の創作上の個性を生かす問題は、創作技量を高める問題に劣らず重要である。建築における創作上の個性は、建築家の思想的立場と態度、建築的見解と文化水準、感情と情緒が結合して建築物に反映されたものである。創作上の個性を明白で独創的なものにするためには、建築家が革命的世界観を確立し、創作技量を高めなければならない。

 建築には、建築家の創作上の個性が反映される。対象は同じでも形象の異なるさまざまな作品が生まれるのは、主として建築家の創作上の個性が異なるからである。もちろん、対象が1つであれば、その形成原則と形成上の要求は同じだといえるが、それを形象化する手段と表現手法は同じではない。どのような手段と手法で形成原則と形成上の要求を実現し表現するかは、建築家の創作上の個性に大きくかかつている。個性を十分に生かしてこそ、十人の建築家が建築創造に参加すれば形成の異なる十の作品が生まれ、百人が参加すれば百の作品が生まれるのである。そうなってこそ、間違いなく新しく特色のある建築を創造することができる。建築家の創作上の個性は、技術課題の本質的要求を把握することにはじまり、人々の生活上の要求と志向のなかから本質的で新しいものを選択して建築物の内容にもりこむ過程、建築の新しい内容に応じて創作的想像図を広げ、既存の形態をもとにして新しい建築形態を創造する全過程に貫かれている。

 創作上の個性は、建築家の品格を特徴づける重要な徴表である。建築家の創作上の個性は、人民大衆の自主的で創造的な生活上の要求と美しく高尚な美的指向と一致するとともに、人民大衆に受け入れられ愛されるように建築に反映された個性でなければならない。建築家の創作上の個性は、建築における建築家の個人的な趣味や自己流の図式的な枠とは縁もゆかりもない。建築家は創作上の個性を生かすからといって、個人的な趣味や自己流の図式的な枠に固執してはならない。建築創造における枠は、建築芸術の創造的な性格を正しく理解していないために生じる一つの偏向であり、建築創造にたいする誤った態度に起因するものである。建築創造において枠は建築を奇形化する要因である。

 建築創造において建築家の創作上の個性を生かすことは、そのこと自体に目的があるのではなく、より多様で斬新な建築を創造して、時代の要請と人民の思想的・美学的要求を充足させるためである。建築家の個性はあくまでも、党政策の要求と人民大衆の美しく高尚な美的指向と一致しなければならない。建築対象の使命と特性に応じて適用できる多様な創作技法を身につけ、それぞれの対象を特色づけて独創的に創造できる能力をそなえてこそ、有能な建築家になれるのであり、創作技法を十分に身につけた建築家であってこそ、それぞれの対象の特性と使命にかなった、新しく特色のある建築を創造することができる。

 建築家の創作上の個性は、建築物に具体的にあらわれる。したがって、建築家の個性は建築物全般に貫かれていなければならない。1つや2つの要素に独特な趣向を凝らしてそれをあらわそうとするのは、創作上の個性の表現ではなく、人気本位の創作態度である。これは全般的な建築の調和を乱すものであって、建築創作の原則に反する。建築家の独創性が建築物全般に貫かれている、全く新しく特色のある建築物を創造してこそ、それを創造した建築家の個性は意味あるものとなり、真のものとなる。

 建築家の創作上の個性は、新しく特色のある建築を創造するための前提である。

 都市形成を担当した建築家の創作上の個性を生かすことも重要であるが、より重要なのは集団創作の原則を守ることである。都市形成計画は1、2名の建築家ではなしえず、設計事業所や大規模な設計チームの共同の知恵によってのみ立派に立てることができる。都市形成計画を受け持った個々の建築家に多様な建築様式を有機的に結合させる才能と技巧があるとしても、それだけでは調和のとれた都市形成計画を作成することはできない。都市形成計画の作成において集団主義の原則を守ることは、その成果を保証する基本的要因である。

 対象の特性に応じて建築言語を的確に用いることは、新しく特色のある建築を創造するうえで極めて重要な意義をもつ。建築言語は、建築家の創作意図を表現する手段である。

 人々が建築物や街を見て、壮大さ、軽快さ、華麗さなどの美的感興がわき、建築家の創作意図を物語や歌のように感受するのは、建築言語の助けがあるからである。

 人間は自分の思想と意思を言語によってあらわし、他人に伝達するのと同様に、建築においても、それにもられている思想的内容と建築家の創作意図を建築言語によって表現し伝達する。建築言語は、建築の内容を形式にあらわすための構成要素と表現手段からなる。調和の手段は、人々の思想と意思を表現し伝達する言語のような役割を果たすので、造形言語と呼ばれる。

 建築における調和の手段は、客観的に存在する造形的な法則性である。

 調和の手段は建築家によって建築形態の構成に用いられ、時代と社会のありさまを反映する。すなわち、建築家は時代と社会の要求、人間の物質的・精神的要求に応じて建築形態を創造するために、それをリアルに表現しうる構成要素と調和の手段を選択し、建築創造に用いる。調和の手段は、建築家が選択して建築様式に用いてこそ調和の手法となる。

 建築形態の構成によく用いられる基本的な調和の手段はシンメトリーとアシンメトリー、比例、律動、対照と微妙な違い、尺度であり、補助的な調和の手段は質感、色彩、装飾、明暗、照明といったものである。

 シンメトリーとアシンメトリーは、建築造形において極めて重要な位置を占める調和手段の一つである。我々の周辺に存在するすべての事物は形態上、例外なくシンメトリーまたはアシンメトリーをなし、特に動植物の全般的または部分的な形態も例外なくシンメトリーをなしている。

 シンメトリーは、端正で清潔な感じを与える造形的法則性である。シンメトリーは機能的、構成的および力学的な要求に適応する造形的属性である。

 シンメトリックな手法は、均衡を前提とする。

 アシンメトリーは、柔らかく優雅な感じと運動感をあらわす造形的法則性である。アシンメトリーはシンメトリーに比べて自由であり、一定の変化性をもつ。アシンメトリックな手法は、建築物の生活機能組織と全般的な建築計画の要求に応じて用いられる。この手法を用いるうえで大切なのは、均衡性を正しく保つことである。建築物の形態をアシンメトリックに構成するからといって、視覚的軸を基準にして両側に置かれる要素の大きさや立体の重さが均衡を失って一方に傾くとすれば、それは建築形成の調和の手法としてはなんの意義もない。均衡のとれていない建築物は安定感がなくなり、不安な感じを与える。建築形成において均衡性は、すべての造形の下地となる重要な造形性の一つである。

 シンメトリーとアシンメトリーの手法を用いるにあたっては、建築物の使命と性格を考慮に入れる必要がある。建築創造において、アシンメトリックな解決が有利であるにもかかわらず、無条件にシンメトリーに固執して内部空間組織に非合理性を生みだしてはならず、反対に、アシンメトリックな手法が趨勢だからといって、シンメトリックに解決するのが有利な場合にも、資材や敷地を浪費しながら一概にアシンメトリックな手法を用いてもならない。

 建築形成において、比例は形態美を左右する重要な調和の手段である。建築形成における比例は、幾何学的比例の美的法則性を建築形態の構成に適用したものであり、それは建築形態の長さ、幅、高さ、形態の全体と部分、部分と部分間の大きさの関係といったものである。

 建築形成において比例は固定不変のものではなく、変遷する時代の要請に即して変化し発展する。建築家は、発展する時代的美感に合った美しい比例構成を探求すべきである。

 建築における律動は、建築の要素とその間隔の反復や交替によって一定のリズムをつくりだして運動感を表現する一つの法則性である。建設が工業化され、プレハブ式の建設が大々的に進められている現状に照らして、律動の構成に力を入れることは極めて重要な意義をもつ。

 対照と微妙な違いも、建築造形の重要な調和手段の一つである。

 建築形成において対照は、反対の性質をもつ要素を対比させ、それぞれの固有な特性を強調することによって、一定の造形的効果をあらわす法則性である。大小2つの要素を対比させると、大きなものは実物より大きく見え、小さなものはいっそう小さく見える。対照的構成は、建築形態の重要な要素を強調するときによく用いられる調和の手段である。対照は、対比される要素が統一的な調和を保つ場合にのみ可能である。対比される2つの要素に差がありすぎて統一的な調和が保たれない場合は、対照がかえって造形的効果を低めることになる。

 建築形成において微妙な違いは、2つの建築要素間の造形上のわずかな違いによって、異なった造形的感触を与える法則性である。建築造形で対照と微妙な違いを的確に用いて、建築形態の造形的効果を高めるべきである。

 建築形成の調和の手段である尺度は、主に建築形態の全体と部分間の形成体系の特性を表現するのに用いられる。一般的に、尺度というのは与えられた寸法間の比を意味するが、建築尺度は絶対的な原寸とは関係なしに、肉眼で見て感じる建築形態の全体と部分間、各建築形態間、建築形態と周辺の事物の相対的な大きさのあいだに形成される比の造形的表現性を規定する法則性である。建築尺度を用いる目的は、建築形態の質的側面を造形的に表現することにある。太い尺度は重い感じ、壮大さ、荘厳さを表現するのに用いられ、細かい尺度は軽い感じ、ほのぼのとした感じを表現するのに用いられる。

 建築形成では、対象の使命と生活機能的および構造的要求に即して尺度をリアルに解決し、建築物の仕上げの質感と色調の効果まで正しく考慮して構成しなければならない。

 尺度の構成において、尺度基準尺は極めて重要な役割を果たす。尺度基準尺は生活を通じて人々の頭に定着した大きさであり、建築物の相対的な大きさを推しはからせる。建築家が立面図や透視図を作製するさい、建築物のそばに人や車を描くのは、その建築物の相対的な大きさと尺度を直観的に見せるためである。

 建築形成の補助的な調和の手段である質感、色彩、装飾、明暗、照明なども建築形態の構成で極めて重要な役割を果たす。建築形成における補助的な調和の手段は、人に服を着せ化粧をさせるのと同じような機能を果たす。

 最後の仕上げをどうするかによって、建築形態の美感と気品が変わる。人々は建築物の最後の仕上げによって、時代の特徴と民族的情緒、建築家の美的・情緒的資質をうかがい知ることになる。補助的な調和の手段である質感、色彩、装飾、明暗、照明なども、建築物の使命と性格、統一的な形成体系と秩序に合わせて用いるべきである。

 色にたいする連想、色の象徴、色の好みは、人々の世界観、美的理念、階級的立場、生活環境、民族の生活習慣と情緒、準備程度、性別、年齢によって異なる。色をどのように連想し象徴し、どんな色を好むかによって、その人の階級性と民族的特性、美学的・情緒的水準と趣味が表現される。色の物理的・化学的性質と人間の生理的・心理的条件を総合的に考慮して、色の選択と配合、調和を正しく解決してこそ、造形的効果をリアルなものにすることができる。

 建築形態の色彩計画で造形的効果を十分に発揮させるには、配色を巧みにおこなわなければならない。形態と質感が同じであっても、配色が変われば全般的な造形的効果が変わるものである。配色は必ず色の調和を基本とすべきである。配色を多様なものにしても、色がよく調和しなければ、人々の美的感興をそそることができない。色を選んで配合する色彩計画をじょうずに作成するためには、基本的な調和の手段と手法を正しく用いて統一的な調和をはかり、多様で特色のあるものにしなければならない。

 建築家は、創作的情熱を傾けて趣向を凝らさなければならない。

 建築形成で反復と模倣を排し、新しいものを創造するために技法上変化を与えるのが趣向である。

 創作技量と創作上の個性はあくまでも建築家の潜在力であり、その威力は実践で創作技法を変えながら、新しいものをつくりだす趣向によってあらわれる。このような意味で、趣向はユニークで特色のある建築を創造するための建築家のたゆまぬ努力と実践闘争であるといえる。

 趣向は高い創作技量を求め、創作上の個性を生かせるようにする。科学技術的資質と創作技量の高い建築家は必ず趣向を凝らし、その過程で斬新で意義のある創作技法と表現手法を発見し、それを建築創造に積極的に生かしていく。そうして、前には見られなかった新しく特色のある建築を創造することになる。

 趣向は、建築創作の過程であらわれる建築家の革命的な創作気風である。趣向は、建築家に高い創作的情熱を遺憾なく発揮させる。建築家の胸に創作的情熱がほとばしってこそ、小さく取るに足りない対象であってもおろそかにせず、なんとしてもそれを斬新で特色のあるものとして創造するために努力し、苦心し、技法を変えながら趣向を凝らすようになる。そのような建築家は、常に党の構想と意図、人民の要求にかなった立派な建築物を創作するものである。

 創作不振に陥り、斬新で特色のある建築が創造されない主な原因は、建築家に創作的情熱が欠けており、趣向を凝らさないことにある。創作的情熱に欠け、趣向を凝らさない建築家は、いつも1つの技法に頼り、他人のものを真似るようになる。いくら仕上げを丹念にし、細部の要素を巧みに解決するとしても、他人のものを模倣したり1つの技法に頼っていたのでは、新しいものを創造することができず、類型化と紋切り型を克服することもできない。

 建築家は、創作家であり、新しいものの創造者である。他人のものを模倣する建築家、1つや2つの技法に頼って毎度似通った建築物をつくりだす建築家は、肩書きだけであって、創作家、創造者としての建築家ではない。

 創作的情熱と趣向は、建築家の創作気風、創作態度であり、かれらを創作へと励ます力の源であり、紋切り型と類型化を排し、斬新で特色のある建築を創造するための重要な要因である。

 建築家は勉学に励み、大いに習作し、根気よく資料を収集して政策的眼識と創作的眼識を高め、建築創作で提起される諸問題を自力で解決していく創作態度と姿勢を持すべきである。

出典:金正日選集 11巻


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