「舞踊芸術論」−4 舞踊表記
 
2 舞踊表記法は科学性と大衆性が保障されなければならない


 科学性と大衆性を保障することは、舞踊表記法をつくるうえでの基本的要求である。舞踊表記法は、科学性と大衆性が保障されてこそ、多様な舞踊作品をすべて表記し、その創作と形象化、普及、保存に広く利用することができる。これまで、世界各国で舞踊表記法がつくられたにもかかわらず広く利用されていないのは、科学性と大衆性が十分に保障されていないからである。

 史料によると、舞踊表記法は、数百年にわたる研究の歴史をもっているという。その間、世界各国の多くの人が、自分なりに舞踊表記法をつくりだした。

 わが国でもずっと以前から舞踊表記法の研究が進められてきた。

 我々の祖先は、図解的な方法をはじめ、いろいろな方法で舞踊を表記するために努力してきた。我々の祖先がつくりだした舞踊表記法には、かれらの英知と才能が秘められている。

 わが国で、日本帝国主義の植民地支配時代には、その民族文化抹殺政策のため舞踊芸術は発展せず、舞踊表記法の研究などは考えることもできなかった。しかし、日本帝国主義の植民地支配から国が解放されてからは、文学・芸術を発展させるわが党の方針にそって舞踊芸術が新たに発展しはじめ、舞踊表記法の研究も進められるようになった。

 これまで、わが国をはじめ、世界各国で舞踊表記法の研究が進められ、表記法も考案されたが、それは科学性と大衆性を欠いていたため、舞踊発展のために広く一般化されなかった。

 舞踊表記法を舞踊の創作と普及、舞踊芸術の発展のために広く利用するには、科学性と大衆性が保障されるようにつくらなければならない。舞踊表記法に科学性と大衆性さえ保障されれば、それを利用するようにと言わなくても、舞踊家は進んで広く利用するようになる。

 踊りの動作を科学的に、わかりやすく表記すべきである。

 舞踊表記での基本は、踊りの動作を表記することである。舞踊の形象化では、音楽と舞台美術も重要な表現手段として利用されるので、踊りだけでなく音楽のような表現手段もすべて表記する必要がある。だが、音楽や舞台美術の表記では、これといった難点がない。舞踊での音楽は楽譜で表記することになっているので、それを踊りの動作と一致させて表記すればよいのであり、舞台美術は舞踊手が踊り演じるときに使う小道具だけ表記すればよい。そのため舞踊の表記では、舞踊の基本的表現手段である芸術的リズムをなす踊りの動作を科学的に、しかも、わかりやすく表記することが大切である。

 踊りの動作を科学的に、わかりやすく表記するには、踊りの動作の構成要素を科学的に解明し、それを符号で表記しなければならない。これは、舞踊表記法作成の最初の過程であり基礎である。

 踊りの動作の構成要素を科学的に解明し、それを符号で正確に表記するなら、多様かつ複雑な踊りの動作をすべて記録することができる。

 踊りの動作を科学的に、わかりやすく表記するには、踊りの動作の構成要素を科学的に解明したものを符号で表記するとともに、個々の要素が結合する道理を原理的に明かし、それにもとづいて符号を結合して表記しなければならない。踊りの動作の構成要素が結合する道理を科学的に明かし、その結合方法に即して正確に表記するのは、舞踊表記法を科学的に、わかりやすく作成するうえできわめて重要である。踊りの動作は、多様である。それは、すべての踊りがそれぞれの個性をもっているからである。舞踊表記法が多様な踊りの動作を正確かつ簡単に表記するには、踊りの動作の構成要素が結合する原理を知り、それに従って表記しなければならない。

 踊りの動作を構成要素の結合原理に従って表記しなければ、ひとまとまりに表記するしかない。踊りの動作をひとまとまりに表記するというのは、踊りの動作を一つの符号で表記することを意味する。一つの踊りの動作を一つの符号で表記するなら、いくつかの既成の動作はたやすく表記できるが、その他の多くの動作は表記できない。それでは、新しい踊りの動作が生まれるたびに新しい符号をつくらなければならないことになる。このような方法では、舞踊を科学的に、わかりやすく表記することはできない。

 これまで、多くの国でつくられた舞踊表記法が広く活用されていないのは、踊りの動作を構成要素の結合原理に従って表記せず、その舞踊の基本的な動作を主にひとまとまりに表記したことと関連している。そのため、踊りの動作は、構成要素の結合原理を明かし、構成要素の結合原理に従って表記しなければならない。

 踊りの構図も科学的に、わかりやすく表記すべきである。舞踊表記法は、踊りの動作とともに構図を科学的に、わかりやすく表記してこそ実用性が保たれる。踊りの構図を科学的に、わかりやすく表記するには、構図の基本要素を解明し、構成要素の結合原理を科学的に明らかにしなければならない。踊りの構図は、具体的には一定の隊形と線としてあらわれる。踊りの構図は、踊りの隊形と線の形態と位置を示し、それを結合する方法で表記すべきである。

 舞踊表記法の科学性と大衆性を保障するためには、舞踊譜表を合理的につくらなければならない。舞踊譜表は、舞踊表記符号を記入するためのものである。いくら立派な舞踊表記符号をつくったとしても、舞踊譜表に難があれば科学性と大衆性を保障することはできない。舞踊譜表は、科学的原理にかなっていながらも、わかりやすく利用に便利なものでなければならない。そうしてこそ、舞踊芸術部門の活動家が、それを芸術の創造に広く利用することができる。





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