「舞踊芸術論」−4 舞踊表記
 
1 舞踊を表記するのは舞踊芸術発展の必須の要求である


 舞踊芸術を発展させるためには、舞踊を表記しなければならない。

 舞踊を表記するというのは、舞踊の表現手段を約束された符号で、一定の方法によって記録するということである。舞踊を表記してこそ、舞踊の創作と形象化、保存を科学的におこなうことができる。

 舞踊を表記すれば、創作を科学的に進めることができる。舞踊の創作は、舞踊を発展させるうえで最初の過程となる。

 舞踊作品は、振り付け師によって創作される。振り付け師は、創造的な探求と思索の過程で種子を開花させる振り付け構成案を立て、舞踊音楽にもとづいて踊りのリズムと構図をつくりだす。振り付け師のこうした創作作業は、表記手段を用いて踊りの動作と構図を具体的に記録しながら進めてこそ、いっそう科学的なものになる。舞踊を表記すれば、振り付け師は探求と思索によって練り上げた踊りの構想を、そのつど記録し、繰り返し手を加えて新しい構想を付け加え、作品をよりすぐれたものにすることができる。

 舞踊を表記すれば、舞踊手が舞踊形象化の作業をいっそうスムーズに進めることができる。振り付け師が創作した舞踊作品は、舞踊手によって演じられる。振り付け師が創作した舞踊作品は、舞踊手によって芸術的リズムで演じられてこそ、人びとの文化・情操教育に寄与することができる。振り付け師によって創作された舞踊作品がいかに立派に演じられるかは、舞踊手にかかっている。振り付け師が舞踊作品をいくら立派に創作したとしても、舞踊手の演技がまずければ功を奏しない。舞踊手が、舞踊作品を芸術的リズムによって演ずることも一つの創造的な活動である。

 舞踊手が舞踊作品を立派に形象化するには、人物の思想・感情と生活を踊りによって描きだす律動を深く把握する必要がある。

 舞踊手が人物の思想・感情と生活を把握するのは、舞踊台本と振り付け構成案を研究したうえで、舞踊を記録した舞踊譜を見てするのがもっとも合理的で科学的である。舞踊手が舞踊の記録された舞踊譜を見れば、台本に示された人物の思想・感情と生活を具体的な舞踊言語を通じて深く把握し、みずからの創造的知恵を発揮して、役づくりをいっそう巧みにおこなうとともに、作品の形象化をより立派にすることができる。

 舞踊を表記すれば、大衆のあいだに普及する活動もスムーズに進めることができる。舞踊を勤労者に広く普及するのは、人民の文化・情操生活と舞踊の発展において重要な意義をもつ。舞踊を広く普及してこそ、勤労者が鑑賞したりおどったりして、それを、より十分に享有することができる。舞踊を勤労者のあいだに広く普及するには、舞踊を表記して、誰もがそれを見て理解できるようにする必要がある。そうすれば、舞踊を勤労者に適時に普及し、かれらの文化・情操生活により効果的に役立たせることができる。

 舞踊を表記すれば、保存するのにも好都合である。

 時代の要請と人民の志向を反映して創作された舞踊作品は、人民の気高い思想・感情と創造的才能が秘められた思想的・精神的財貨の一つで、代を継いで次代に譲り渡すべき文化遺産であり、さらにすぐれた舞踊作品を創作するための財産となる。我々は、祖先が創造したすぐれた舞踊作品を発掘し、時代の美感に合わせて再現し保存するだけでなく、新しく創作されたすぐれた舞踊作品も保存して次代に譲り渡すべきである。

 舞踊作品の保存は、いろいろな方法でなされる。こんにち、科学と技術の発展と撮影技術の向上にともなって、舞踊作品は写真や記録映画におさめられて保存されている。しかし、そういう方法だけでは、舞踊作品の保存に万全を期することができない。舞踊作品の保存は、表記手段に依拠するのがいちばんである。表記手段に依拠すれば、音楽を楽譜にして簡便に保存するように、舞踊もその量にかかわりなく簡便に保存することができる。

 現在、音楽や演劇をはじめ、他の芸術分野では、創作された作品が科学的な表記手段にもとづいて正確に記録されている。音楽では、音符とさまざまな記号で音楽作品が記録され、演劇をはじめ他の芸術作品は、文字で記録されている。他の様式の芸術は、作品を正確に記録することができるので、創作や形象化、普及、保存などが、かなり以前から科学的におこなわれてきた。しかし、舞踊は、作品を科学的に表記することができなかった。そのため、舞踊の創作と形象化、普及、保存は、科学的な方法ではなく、手工業的な方法でおこなわれてきた。

 これまで舞踊の創作は、振り付け師がつくりだした一つひとつの踊りの動作を記憶しておき、舞踊手に伝授して定着させる方法でおこなわれた。舞踊作品が、このように創作されたので、舞踊の創作は他の芸術のように科学的な基礎のうえで推進されなかった。

 舞踊芸術部門での舞踊の普及は、記録に頼るのではなく、舞踊家が模範動作をして伝授する方法でおこなわれてきた。舞踊を伝授する方法で普及したため、適時に正確に普及することができなかった。

 舞踊は表記することができないので、保存も満足にできなかった。

 舞踊は人びとの生活と密接に結びついているので、勤労者のあいだで舞踊にたいする要求が日ましに高まっている。時代の要請と人民大衆の志向に即して舞踊を発展させるためには、その創作と形象化、普及、保存をより科学的に強力におこなわなければならない。そのためには、舞踊を科学的に表記しなければならない。

 舞踊を科学的に表記するためには、合理的な表記法をつくらなければならない。





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