「舞踊芸術論」−2 舞踊創作
 
6 舞踊の舞台美術は実感があって美しくなければならない


 舞踊において舞台美術は、重要な表現手段である。舞台美術を上手に仕上げることは、舞踊作品の思想性・芸術性を高めるうえで大きな意義をもつ。舞踊の舞台美術は、造形的な手段によって作品に反映された時代相と人物の性格をいろいろな角度から見せることによって、作品の思想的・芸術的内容をいちだんと浮き立たせる。

 舞踊の舞台美術としては、衣装と小道具、扮装、背景、セットなどの表現手段がある。

 衣装は、舞踊作品の重要な表現手段である。

 舞踊の衣装は、作品の思想性・芸術性の向上に大きな作用を及ぼす。衣装は、人物の性格と舞台のニュアンスを生かして、作品の思想的・芸術的品格を高める。いくら内容がすぐれて、踊りのリズムに特色がある舞踊作品であっても、それにふさわしい衣装を用いなければ作品が生かされず、生彩がなくなる。

 舞踊の衣装は、作品の性格に合ったものにすべきである。

 舞踊作品の性格はさまざまな表現手段によってあらわされるが、衣装によっても明白にあらわされる。

 舞踊衣装を作品の性格に合ったものにするうえで重要なのは、人物の性格を十分に生かせるようにすることである。舞踊では、人物の性格によって作品の性格があらわれる。舞踊作品における衣装は、人物の職業と性別、性格的風貌をはじめ、人物の性格をはっきりとあらわせるものにしなければならない。

 舞踊の衣装は、はなやかなものにすべきである。

 これは、舞踊芸術の特性からくる重要な要求である。人間の思想・感情と生活を芸術的リズムによって描きだす舞踊は、形象化をはなやかにすることを求める。舞踊の衣装は、多様な形態と色の調和によって舞台形象をはなやかなものにしてこそ、舞踊作品の芸術的な形象レベルを高めることができる。

 舞踊衣装をはなやかなものにするうえで大切なのは、衣装の色合いを的確に用いることである。

 舞踊衣装の色合いは、舞踊作品の情緒と舞台形象の効果を高める。

 衣装の色合いをどのようなものにするかによって、踊りのリズムの表現効果が違ってくる。舞踊作品は内容がすぐれ、踊りのリズムに特色があるとしても、衣装の色合いをそれに合わせて選ばないと生彩を欠くことになる。

 舞踊の衣装には、原色を多く用いるのが望ましい。原色は、作品の性格に合わせて多様に用いるべきである。

 舞踊の衣装は、色の調和をはかる必要がある。舞踊衣装は、色がよく調和してこそ舞台をいっそうはなやかにし、作品の思想的・芸術的品位を高めることができる。

 舞踊衣装の色は、個々の衣装の色もよく調和させるべきである。

 女性舞踊手の衣装は、チョゴリとチマの色がよく釣り合うようにしなければならない。チマとチョゴリは同じ色にしてもよく、違った色にしてもよい。しかし、色はどうあれ、人物の性格と作品の内容にふさわしいものでなければならない。

 舞踊衣装の色はまた、照明との調和もとれるものでなければならない。衣装の色は、舞台照明の色と調和してこそ衣装の表現効果を高め、舞台をより美しくすることができる。

 舞踊衣装の色は、小道具の色ともよく釣り合うものでなければならない。舞踊の小道具は、衣装とともに表現機能を果たす。衣装と小道具は、舞踊手が身につける表現手段であり、形象上の統一をなさなければならない。衣装と小道具の形象上の統一は色をよく調和させてこそ実現される。舞踊手が身につける小道具と衣装は、色の調和がよくとれてこそ、表現機能をよりよく果たし、作品をよりはなやかに形象化することができる。

 舞踊の衣装は、形態を多様にすべきである。

 舞踊衣装の形態を多様にするのは、作品の個性的特性を生かす重要な方途の一つである。衣装の形態を多様にすれば、反映する生活と時代の環境が異なる舞踊作品の個性的特徴を十分に生かすことができる。舞踊作品の個性的特徴は踊りのリズムにもあらわれるべきであるが、衣装の形態にも明確にあらわれるべきである。

 舞踊衣装の形態を多様にすることは、男性舞踊手の衣装をととのえるうえでいっそう重要な要求となる。それは、男性舞踊手の衣装は、形態上、古典美と現代美がさほど区別されないからである。

 いま、男性舞踊手は、固有の朝鮮服でもなく洋服でもない衣装をつけて踊りをおどることが少なくない。これは、我々の時代の人民の生活を反映した舞踊作品を形象化する場合にいっそう甚だしくあらわれている。舞踊芸術では衣装の形態を改善して、作品に描きだされるさまざまな人物と生活の特徴を十分に生かさなければならない。

 舞踊の衣装は、質感をよく選択してつくるべきである。衣装の質感は、作品の芸術的形象に直接影響を及ぼす。舞踊作品の芸術的形象レベルは、衣装の質感をどう選択するかによって少なからず左右される。

 舞踊の衣装は、踊りの律動を十分に生かせるような生地でつくるべきである。朝鮮の民族舞踊は、非常に柔和で繊細である。朝鮮の民族舞踊は、腕の動作が基本であるから、舞踊形象で腕の動作の律動美を鮮明に見せるべきである。そのためには、女性舞踊手のチョゴリをやわらかく鮮明な薄地にするのが望ましい。そうすれば、踊りがいっそう高尚かつ軽やかに見える。

 舞踊の衣装は、舞踊手がおどるのに便利につくるべきである。舞踊衣装は、舞踊手が多様な踊りの動作でいささかの不便も感じないようにしなければならない。衣装がおどるのに不便であると、舞踊手が踊りを立派にこなすことができない。女性舞踊手のチマは、あまり長くしないようにすべきである。チマが長すぎると、おどるときにチマの裾がよく足にからみついてしまう。そうなると満足な踊りをおどることができない。回転や跳躍の動作がある踊りの衣装は、それに便利で見栄えがするようにつくるべきである。

 舞踊の衣装は、民族衣装の特性を十分に生かしてつくるべきである。朝鮮服には長年にわたって形成された、朝鮮人民に固有な民族的特性がそのまま反映されている。舞踊の衣装に朝鮮服の特性を生かせば、舞踊作品の民族的特性を十二分に生かすことができる。

 舞踊の衣装に民族的特性を生かすうえで、歴史主義的原則と現代性の原則を守らなければならない。過去の生活を反映した舞踊の衣装に現代の衣服の形態をそのままあてはめたり、現代の生活を描いた舞踊の衣装に過去の衣服の形態をそのまま反映してはならない。民族的特性も社会制度と人民生活の発展にともなってたえず変化するものである。舞踊の衣装は、朝鮮の民族衣装の特徴を生かしながらも、我々の時代の人民の美感に合わせてつくるべきである。舞踊の衣装は、民族的特性と時代的美感を生かし、その作品がどの時代の人民の生活を反映したものであるかがよくわかるようにつくらなければならない。

 舞踊の小道具を正しく選択すべきである。舞踊作品において、小道具は人物の性格と生活を生かす重要な表現手段である。小道具を正しく選択することは、人物の性格と生活を立派に形象化するうえで重要な意義をもつ。

 舞踊の小道具は、律動を表現手段とする舞踊芸術において形象性をいちだんと高める。『扇の舞』や『剣の舞』『鈴の舞』『箕の踊り』『太鼓の舞』などは、小道具を用いて朝鮮人民の生活と感情を優雅な律動によってリアルに描きだしている。『箕の踊り』は、朝鮮人民が昔から使ってきた箕を、抗日革命闘争の時期に遊撃隊に送る軍糧米を準備する村の乙女たちの生活を描く小道具として巧みに利用することによって、生き生きとしたリアルな形象を創造した。

 舞踊の小道具は、踊りのリズムを個性化し、踊りの形象レベルを高めるうえで重要な役割を果たす。また、踊りのリズムの特徴を規定するのに役立つ。『長鼓の舞』での長鼓は、長鼓の踊りのリズムをつくるのに役立てられ、『太鼓の舞』での太鼓は、太鼓の踊りのリズムをつくるのに役立てられた。

 舞踊の小道具は、人物の生活の内容に合わせてつくるべきである。

 小道具は、人物の生活を描きだす重要な手段なので、生活の内容に合致したものでなければならない。形態と色合いの美しい小道具をつくったとしても、それが作品に反映された生活の内容と合わなければ、作品の形象化に役立てられない。舞踊の小道具は、実生活で見られる生活道具のように実感のあるものにしなければならない。

 舞踊の小道具は、美しく文化性に富んだものにする必要がある。

 舞踊は美しい律動を見せる芸術であるから、小道具も形態が美しく文化的なものでなければならない。

 舞踊の小道具は、軽くて手ごろな大きさのものにすべきである。

 小道具は舞踊手の体に合わせて軽くて適当な大きさにしてこそ、おどるのに便利で、律動を生かすのにも都合がよい。日常生活で使われる生活道具を舞踊の小道具として利用する場合は、舞踊手がおどるのに便利なように実物よりも軽く小さめにつくるべきである。長鼓を舞踊の小道具として利用する場合は、朝鮮女性の体格に合わせて軽く小さめにつくるべきである。楽器として利用する長鼓をそのまま舞踊の小道具として使うとなると、重くてかさばるので舞踊手が思いどおりにおどることができない。

 舞踊の小道具は、作品の内容と性格に応じて多様なものにすべきである。そうしてこそ、作品ごとに特色のある芸術的形象を創造するのに役立つことができる。作品の内容と性格に合わせてつくられた小道具は、踊りのリズムと作品の特色を生かすのに役立つ。

 『手太鼓の舞』『大豊作』は、いずれも豊年の喜びをうたう農民の生活を描きだしているが、異なった小道具を利用することによって作品の性格と踊りのリズムの特色を生かしている。舞台美術家は、舞踊作品の内容と性格、踊りのリズムの特徴を深く把握したうえで、それに適した小道具をつくるべきである。

 舞踊の小道具の美術的形象レベルを高めなければならない。舞踊の小道具をつくる舞台美術は、舞踊手が描きだす人物の性格と踊りのリズムの特徴を造形的に生かす精巧な芸術である。舞台美術では、舞踊の小道具を作品の内容と性格、踊りのリズムの特色に合わせて造形的に精巧につくってこそ、舞踊の形象レベルもそれだけ高めることができる。舞台美術家は、小道具の形態と色合いを正しく選択し、それと他の表現手段との色の調和をはかって美しい造形的形象を創造すべきである。

 舞踊手の扮装を上手にすべきである。

 舞踊手の扮装は、舞踊作品で人物を描きだす表現手段の一つである。舞踊手の扮装は、作品に描きだす人物の性格を生かし、リズミカルな形象を美しくする。美しい律動を見せる舞踊芸術では、踊りのリズムを美しいものにするとともに、扮装を上手にして舞踊手の外見を美しくしてこそ、舞踊形象の芸術的効果を上げることができる。舞踊手の踊りが上手であっても、扮装がまずくて人物の形象化が裏打ちされなければ、舞踊形象の芸術的効果を十分にあらわすことができない。

 舞踊手の扮装は、描こうとする人物の性格に合わせておこなうべきである。舞踊手は、描こうとする人物の性格を具体的に把握し、年齢、職業、外貌などの特性に合わせて扮装すべきである。

 扮装での基本は、メーキャップである。俳優の顔は、描こうとする人物の内面世界を生き生きとあらわす。

 舞踊手は、顔をきれいにメーキャップすべきである。舞踊手の扮装での基本は、顔をきれいにすることである。舞踊は、舞踊手の顔をきれいにメーキャップしてこそ、踊りも美しく見え、作品全般の芸術的形象が生きてくる。それゆえ、舞踊手の顔をきれいにメーキャップする必要がある。

 舞踊手の顔は、できるだけ表情が明るく鮮明になるように、明るい色でメーキャップすべきである。メーキャップを明るくすべきだといって、度が過ぎたものにしてはならない。メーキャップが明るすぎると、顔の線と形がよくあらわれない。

 舞踊手のメーキャップは、明るく、しかも肌色がでるようにすべきである。肌色がでるようにするからといって、あまり黄色がかったものにしてはならない。メーキャップをあまり黄色がかったものにすると、顔がくすみ、形象が生かされない。舞踊手の表情は、明るく肌色をおびるようにして、顔の線と形が自然に、鮮明に生かされるようにすべきである。

 舞踊手のメーキャップは、全員同一なものにしなければならない。

 これは、アンサンブルを保つべき舞踊形象の重要な要求である。舞踊作品におけるアンサンブルは、舞踊手のメーキャップにおいても保たれなければならない。特に、複数の舞踊手がある人物の思想・感情をもって出演する群舞では、メーキャップを同じにしてこそ、アンサンブルがととのい、作品の芸術的レベルを高めることができる。

 舞踊芸術において舞台の背景は、作品に反映された時代と生活環境を見せる美術手段の一つである。表現手段が限られている舞踊芸術では、背景を上手に描きだしてこそ作品の思想的・主題的内容を明白に示し、舞踊形象を美しく浮き立たせることができる。

 舞台の背景は、作品に反映された人物の生活環境をリアルに鮮明に描きださなければならない。それでこそ、生活環境が、人物の性格と踊りのリズムの特色を生かすことができる。舞踊作品に描かれる生活環境は、人物の性格と踊りのリズムを生かすのに役立てられなければならない。背景は、美しく実感がわくようにすべきである。舞台の背景は、背景の幕に絵を描く方法もあり、スライドで映し出す方法もあり、セットを設置する方法もある。

 舞台の背景を描くのには、スライドを多く利用するのが望ましい。

 スライドを利用すれば、背景をたやすく変化させながら多様な生活環境と状況を描きだすことができる。

 舞踊芸術においてセットは、舞踊の背景としても利用され、舞踊手の演技手段としても利用される。舞踊芸術におけるセットは、作品に描かれる生活環境と自然の風景を見せ、舞踊手にリアルな演技ができる条件をととのえる。セットは、描こうとする人物の生活を浮き彫りにし、舞踊手の演技を助けて作品の形象レベルを高める。

 舞踊芸術においてセットは、舞踊手が踊りの場を十分に利用できるように仕立てるべきである。舞踊の舞台描写では、舞踊手の舞踊形象が基本であるため、舞台の利用において舞踊手に踊りの場を優先的に保障することを原則とすべきである。

 舞踊芸術におけるセットは、舞踊手の演技づくりに合わせて設置すべきである。そうしてこそ、セットが舞踊形象と調和をなして、作品の芸術的形象をきわだたせることができる。

 舞踊芸術において舞台照明は、舞踊手の踊りの動作と衣装、小道具、セットと背景を明暗と色彩のコントラストで調和させ、すぐれた芸術的形象の創造に役立てられる。

 舞台照明は、舞踊手の舞踊形象を生かすことに焦点がおかれるべきである。舞台照明は、踊りのリズムをはじめ、舞踊手が描きだすリズミカルな動作を変化させ発展させるのに服従し、光と色の調和によって舞踊形象をきわだたせなければならない。舞台照明はまた、舞台上のすべての表現手段を照らし出して、その形象をきわだたせなければならない。

 舞台美術家が舞踊作品の舞台美術形象を立派なものにするためには、作品を深く研究し、形象上の要求を具体的に把握しなければならない。同時に、振り付け師と十分に協議して振り付け師の形象上の意図を知る必要がある。舞台美術家は、作品の形象上の要求と振り付け師の形象上の意図を把握し、それに合わせて舞台美術を創造することによって、舞台美術が作品の思想的・芸術的レベルの向上に大いに役立つようにしなければならない。

 舞踊作品は、芸術的リズムと舞踊音楽、舞台美術などの手段によって形象化されるため、振り付け師と音楽家、美術家の集団的知恵によって創作される。舞踊作品は各部門の創作家によって創作されるが、主な役割をするのは振り付け師である。振り付け師は、舞踊作品を設計し、舞踊作品の基本的表現手段である芸術的リズムをつくりだし、舞踊音楽と舞台美術の創作方向を示す。振り付け師がどのように設計し、どんな芸術的リズムをつくりだし、舞踊音楽と舞台美術の創作方向をどう示すかによって、舞踊作品の思想的・芸術的レベルが左右される。それゆえ、舞踊作品創作の主人は、振り付け師であると言える。

 振り付け師は、舞踊作品創作の主人であるという正しい態度と立場を持し、思想的、芸術的にすぐれた舞踊作品を創作するため積極的に努力しなければならない。

 振り付け師が、思想的、芸術的にすぐれた舞踊作品を創作するためには、わが党の文芸政策とともに、舞踊芸術にかんする主体的な理論で武装しなければならない。振り付け師が、舞踊芸術にかんする主体的な理論で武装してこそ、科学的な基礎のうえで、すぐれた舞踊作品を成功裏に創作することができる。振り付け師が、舞踊芸術にかんする主体的な理論で武装せず、踊りの動作をつくりだす小手先の細工を弄するだけでは、1、2編の舞踊作品は創作できても、多様な生活を反映したさまざまな形式の舞踊作品を立派に創作することはできない。振り付け師は、わが党の主体的な文芸政策と舞踊理論で武装し、朝鮮人民の革命的な生活を反映した多様な形式の舞踊作品を立派に創作しなければならない。





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