「舞踊芸術論」−2 舞踊創作
 
5 踊りの構図は意味が明らかで造形美がなければならない


 舞踊における踊りの構図は、基本的表現手段である芸術的リズムをあらわす重要な要素の一つである。

 踊りの構図は、舞踊手が立つ位置と移動するコースから成り立っている。舞踊手は、一定の位置で、または位置を変えながらおどる。

 舞踊手が一定の位置で隊形をなすか位置を変えながらおどれば、造形的な形態と線がつくられる。

 舞踊手が、おどる位置と移動するコースは多様である。そのため、そのときにつくられる造形的な形態と線も多様である。舞踊手が踊りをおどるときにつくられる多様な造形的な形態と線によって、作品に反映された人物の思想・感情と生活が造形的に描きだされる。

 舞踊における踊りの構図は重要な表現機能を果たすので、舞踊作品が思想的、芸術的にすぐれたものになるかどうかは、踊りの構図をどのようなものにするかに大きくかかっている。

 踊りの構図は、作品の生活内容をはっきりと見せられるようにとるべきである。

 踊りの構図は、踊りの動作と同様に、作品の思想的・主題的内容を形象的に表現する。踊りの構図が、作品の思想的・主題的内容を形象的に表現するには、見せようとする生活の内容をリアルに描きださなければならない。踊りの構図は、作品で見せようとする生活を舞台的な形態と線を通じて、いろいろな角度から造形化して鮮明に描きだす。

 舞踊『祖国のツツジ』で抗日遊撃隊員が、懐かしい祖国の土を踏み、ツツジが咲き乱れる祖国の山河をうたう場面で、祖国の土を握りしめる主人公を中心に半円形をつくり、ツツジの花を胸いっぱい抱いておどる構図は、祖国の土を踏んだ抗日遊撃隊の女子隊員たちの崇高な思想・感情と生活を生き生きと見せてくれる。踊りの構図は、『祖国のツツジ』のように、作品の生活的内容を鮮明に表現できるものにすべきである。

 踊りの構図は、作品に反映された自然現象も生き生きと見せられるようなものでなければならない。舞踊作品では、自然現象を踊りの動作だけでなく、踊りの構図によっても描きだす。踊りの構図は、描写対象の具体的な姿をそのまま生き生きと描きださなければならない。舞踊では、生活と結びついた自然現象の美を踊りの構図によって造形的な形象として描くことにより、作品の芸術性を高める。

 踊りの構図を生活の発展に従って展開するのは、生活の内容を鮮明に描きだす重要な方途の一つである。生活の発展に従って踊りの構図を展開してこそ、描きだす生活そのものも発展させることができる。

 踊りの構図は、生活発展の論理に従って展開しなければならない。そうしてこそ、描こうとする生活を造形的な形象として自然に展開しながら、観客に生き生きと見せることができる。

 踊りの構図を生活の発展に従って展開するには、発展する生活に合った新しい構図を用いなければならない。新しい生活を見せる場面に新しい構図を用いてこそ、踊りのリズムにも新鮮味が感じられ、生活が発展していく様子を視覚的にはっきりと見せることができる。

 踊りの構図は、生活の発展に従って新しいものを用いるべきであるが、場合によっては従来のものを繰り返し使うこともできる。しかし、従来の踊りの構図を機械的に反復して用いてはならない。従来の踊りの構図を反復して用いる場合は、位置の方向や角度を変えて、構図が視覚的に新しいものに感じられるようにしなければならない。

 踊りの構図には、造形美がなければならない。構図の造形美は、作品の思想的・主題的内容を美しく浮き彫りにし、芸術的形象を高める。構図に造形美がなければ思想的・主題的内容を鮮明にすることができず、造形的に美しく描きだすことはできない。

 踊りの構図を造形美のあるものにするには、舞台とのバランスが保たれるようにしなければならない。踊りの構図は舞台とのバランスが保たれてこそ、視覚的に安定し、美しい芸術的形象を創造することができる。踊りの構図と舞台とのバランスが保たれなければ、舞台形象の全般的な調和をはかることはできない。舞踊芸術で直観性の強い踊りの構図は、舞台との視覚的なバランスが保たれなければならない。

 踊りの構図と舞台とのバランスを保つうえで重要なのは、舞踊手をペアにして配置することである。舞台に舞踊手をペアにして配置すれば、舞台の散漫さをなくし、安定感を与えていっそう調和のとれた芸術的形象を創造することができる。形象の視覚的統一と調和を求める舞踊芸術では、踊りの構図がつねに秩序整然とし、安定していなければならない。

 舞台に舞踊手をペアにして配置すれば、アンサンブルを構成するうえでも効果的である。舞踊でアンサンブルを構成するのは、作品の形象化水準を高める重要な方途の一つである。舞踊におけるアンサンブルは踊りの動作によっても構成すべきであるが、踊りの構図によっても構成しなければならない。舞踊のアンサンブルは、踊りの構図のバランスがとれてこそ保たれる。踊りの構図のバランスは、舞踊手がペアでおどることによって保たれる。おどるときのペアがアンバランスだと、踊りの構図が散漫になり、ぴったりしたアンサンブルを構成することができない。

 舞踊形象においては、踊りの構図が機械の歯車のようにしっかり噛み合ってこそ、アンサンブルのレベルが高まる。踊りの構図の組み方いかんによってアンサンブルのレベルが決まるため、舞踊手を舞台に配置して群像を描くときには、つねに舞踊手のペアがそろい、構図と舞台のバランスがとれるようにしなければならない。

 踊りの構図と舞台のバランスを保つうえで大切なのは、踊りの構図の中心を正しくとらえることである。踊りの構図の中心を正しくとらえなければ舞台のバランスを保つことはできず、全般的な舞台形象に視覚的な安定感を与えることもできない。舞台形象における視覚的な不安定感をなくし、バランスを保つためには、踊りの構図の中心を正しくとらえなければならない。踊りの構図の中心は、つねに舞台の中心と一致させなければならない。そうすれば、舞台のバランスが保たれ、リズミカルな形象が整然と展開されて、観客に安定感を与える。

 踊りの構図は、踊りの動作と密接に結びつけなければならない。そうしてこそ、作品の思想的・主題的内容を造形的によりいっそう鮮明にあらわすことができる。踊りの構図は踊りの動作と調和して結びついたときに、舞踊形象の造形的な形態と意味のある線として完成される。踊りの動作と構図は、形象上の統一をなしながら、各人物の思想・感情と生活を描きだす。踊りの動作と構図はつねに統一をなして展開されるので、観客は両者を別々に観るのでなく、統一的な形象として観る。

 踊りの構図は、踊りの動作を適切に連結し、展開できるように組むべきである。踊りの動作は、踊りの構図によって主題的・思想的内容に合わせてつなぎ合わされ、発展する。構図を変えずにひとところで動作を展開するなら、形象の幅が狭まり、多様な形象を創造することができない。同じ動作を反復する場合でも、構図をつぎつぎに変えれば、そのニュアンスと表現効果が違ったものになる。踊りの構図は、踊りの動作を適切に連結できるように組んでこそ、踊りがいっそう幅広く展開され、形象が多様になる。

 踊りの構図は、踊りの動作の組み合わせと区切りをつけ、踊りのモメントと場面を自然に変えられるように組むべきである。

 踊りの構図は、音楽と一致させなければならない。そうすれば作品の内容を鮮明に描きだし、造形美をきわだたせることができる。

 舞踊のリズムは音楽にもとづいてつくられるので、踊りの構図を音楽と一致させ、音楽の情緒的性格と長さに合わせて組まなければならない。

 踊りの構図は、舞台美術とも一致させる必要がある。踊りの構図は、セットや背景などの舞台美術と一致させてこそ、作品に描きだされる生活環境をいっそう明白にし、造形的により美しい場面をくりひろげることができる。踊りの構図を舞台美術と一致させるには、セットや背景によって舞台にくりひろげられる生活環境と一致させなければならない。特に、踊りの構図の中心と背景の中心を一致させるべきである。たとえば、背景として舞台の中心に太陽が昇る場面を描きだす場合、踊りの構図の中心は太陽が昇る背景の中心と一致させるべきである。背景の中心と踊りの構図の中心を一致させるのは、踊りの構図形象の一般的な原則である。

 基本構図を正しく設定しなければならない。基本構図は、踊りの場面に従って設定すべきである。基本構図は、踊りの動作とリズミカルな形象の展開に直接の寄与をなす。したがって、基本構図は、美しい形態と線によって明白に組まなければならない。

 連結構図と補助構図を適切に用いることにもそれ相応の力を入れるべきである。踊りの構図は、基本構図に連結構図と補助構図を結合してこそ表現機能を十分に果たすことができる。基本構図は、連結構図と結合して成り立ち、補助構図の助けによって形象をより鮮明にする。

 連結構図は、基本構図をしっかり結び、つなげるように仕立てるべきである。舞踊作品は、それぞれ主題的・思想的内容が異なり、踊りの場面の構成が違うので、基本構図をつなぐ連結構図はその作品の特色があらわれるようにつくらなければならない。

 補助構図をうまくつくるべきである。補助構図は、基本構図のつけたしになるだけではない。補助構図はそのもの独自の形と線をもち、基本構図と同じ形象で展開されながら、基本構図を形象的に浮き立たせる。

 補助構図は、すべての舞踊作品にあるわけではない。基本構図と連結構図だけで形象化される舞踊作品も少なくない。補助構図は、基本構図を浮き立たせるためのものである。補助構図は、独自の形と線をもち、基本構図の形象をきわだたせて形象のリアリティーと生々しさを保たなければならない。





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