「舞踊芸術論」−2 舞踊創作
 
2 振り付け構成案を正しく立てるべきである


 振り付け構成案は、舞踊台本に描かれた生活の内容を舞踊形象として実現するための舞踊作品創作計画である。振り付け構成案には、舞踊台本に示された生活の内容を音楽と舞台美術に裏打ちされた踊りでいかにあらわすかといった具体的な表現方途が示され、規定される。

 振り付け構成案が正しく立てられてこそ、速度戦を展開して思想的、芸術的にすぐれた舞踊作品をつくることができる。振り付け構成案が正しく立てられていないために表現方途が明白でない場合は、時間をかけても、まともな舞踊作品をつくることはできない。

 舞踊創作家が一つの舞踊作品を創作するのに長い時間をかけながらも満足に仕上げることができないのは、文学的に完成された台本がないうえに、具体的な振り付け構成案さえなしに、ゆきあたりばったりにつくることに主な原因がある。完成した設計図がなくてはまともな家が建てられないのと同様に、明確な振り付け構成案がなくてはしっかりした舞踊作品をつくることはできない。

 振り付け師は、創作家としての正しい立場と姿勢をとり、台本に示された生活の内容を思想的、芸術的に立派に描きだせるように、振り付け構成案を正しく立てなければならない。

 踊りの構成案を具体的に立てるべきである。

 踊りの構成案は振り付け構成案の基本をなす。それは、舞踊が踊りによって生活を反映するからである。舞踊では、語ろうとする内容を踊りで見せる。舞踊では、踊りで描くことのできないストーリーは、いかに有意義で興味深いものであっても用をなさない。
舞踊のストーリーは、踊りによって描かれ、踊りが出てくるようにつくられなければならない。ストーリーを踊りによって見せるところに舞踊作品の芸術的特性があり、踊りの構成が振り付け構成の基本となる根拠がある。

 踊りの構成案では、人物の踊りを適切に構成すべきである。

 踊りの構成案で描きだすべき人物の性格とかれらの相互関係は、舞踊台本によって示される。舞踊台本では、描きだす生活の内容によって登場人物を1人にすることもできるし、複数にすることもできる。複数の人物を登場させる場合、かれらの性格は生活の内容によって一様に描くこともでき、それぞれ違ったものとして描くこともできる。踊りの構成案では、台本に示された人物の性格とかれらの相互関係を深く把握し、それを立派に描きだせるように、人物の踊りを適切に構成しなければならない。

 舞踊作品に主人公が設定されている場合は、主人公の踊りを生かせるように踊りの構成を適切に組むべきである。主人公が設定されている舞踊作品で、主人公の踊りを生かしてこそ他の人物の踊りも生き、作品全般の思想性・芸術性も保障することができる。

 主人公が設定されている舞踊作品では、主人公の踊りを生かすという原則で人物の踊りの構成を組まなければならない。

 踊りの単位構成を合理的にすべきである。

 舞踊作品において、人物の踊りは具体的には踊りの単位の合理的な構成によって成り立っている。

 人物の踊りをいかに上手に構成したとしても、踊りの単位を合理的に構成しなければ踊りが生かされず、観客の芸術的感興をそそることはできない。舞踊作品では、人物の踊りの構成とともに踊りの単位構成が合理的なものであってこそ、見せようとする生活を幅広く掘りさげて描きだし、観客に立派なリズム的形象をくりひろげて見せることができる。

 踊りの単位では、踊りの部分を巧みに構成すべきである。

 舞踊小品において踊りの部分は踊りの構成のもっとも大きな単位であり、作品に生活を展開する起承転結の一般的原則にしたがって、始まりと中間、終わりに分けられる。踊りの部分構成では、人物の踊りをどのように始め、発展させ、結ぶかを明示すべきである。すなわち、語ろうとする内容を踊りでどのように区分けして展開するかといった具体的な案を立てる必要がある。

 踊りの部分構成では、手法も多様に用いるべきである。

 踊りの部分構成で多様な手法を用いるのは、作品の特色を生かす重要な方途の一つである。作品の特色は、描きだす生活の内容によってもつくりだされるが、踊りの構成手法によってもつくりだされる。

 踊りを形づくる各部分のテンポを対照的なものにするのは、広く使われている踊りの構成手法の一つである。踊りの構成における対照手法は、踊りのテンポを初めはゆるやかに、つぎに速くして、また、ゆるめたり、これとは反対に初めは速く、つぎは、ゆるやかにして、また、速めるといった手法である。踊りの構成における対照手法は、踊りの部分のテンポを対照的なものにして各部分の性格を明白にし、踊りの展開に起伏と変化を与えることによって、観客に興味を覚えさせる。しかし、踊りの対照構成法だけでは、主題・思想が異なり、見せようとする生活の異なる多様な舞踊作品を特色のあるものにすることができない。相異なる作品は、踊りの構成法も違ったものでなければならない。そうあってこそ、それぞれの作品に特色をもたせることができる。

 踊りの部分構成は、踊りのテンポを対照的なものにしなくても巧みに組むことができる。踊りの部分は、踊りのテンポを変えずに同じテンポで構成しても、語ろうとする内容を立派に描きだすことができる。舞踊『ノドルの川辺』『月見』『扇の舞』は、踊りの部分にテンポの対照がない。しかし、これらの舞踊は、踊りの構成が密で踊りのリズムがよいので、観客に好ましい印象を与える。これらの舞踊の創作経験は、踊りの部分構成においては対照手法以外にも多様な手法を用いることができることを示している。人間の自主性が高まり、芸術的な思考能力が発展するにつれて、踊りの構成法も新たに探求され発展していくものである。振り付け師は踊りの部分構成において、長い歴史的過程でつくりだされた合理的な手法を正しく利用するとともに、発展する時代と人民の要求、わが国の舞踊芸術の特性にかなった新しい手法を探求して創造し、完成していくべきである。

 踊りの場面構成を入念にすべきである。

 踊りの場面は、踊りが展開される一定のモメントで形づくられる細部的な踊りの断面である。舞踊小品における踊りの場面は、普通、基本構図とそれにともなう踊りが変化したり交替することにより、舞台形象の生活的・情緒的雰囲気が変わるときに現出する。舞踊作品におけるすべての踊りは、踊りの場面として展開される。そのため、踊りの構成案を立てるにあたっては、踊りの単位を合理的に構成すると同時に、踊りの場面を巧みに構成することにも力を入れる必要がある。

 踊りの場面構成では、その場面の設定と配列を的確におこない、踊りのはじまりとクライマックス、締めくくりの場面をうまく組むことに力を注ぐべきである。

 踊りのはじめの場面をうまく組む必要がある。踊りの最初の場面をどのようなものにするかは、観客に舞踊作品の初印象をどのように与えるかという重要な問題である。人びとは舞踊作品を観るとき、最初の場面でよい印象を受けると興味が湧き、作品の世界に深く引き込まれるものである。舞踊作品のはじめは、舞踊手が踊りながら舞台に登場することにしてもよいし、あらかじめ舞台に出て群像をつくるようにしたり、踊りと群像を組み合わせてもよい。最初の場面が作品の性格に合って特色のあるものであってこそ、最初から観客の心を引きつけることができる。

 踊りのクライマックスをうまく組むべきである。踊りのクライマックスは、ストーリーをもつ作品やドラマ性の強い作品に限らず、すべての作品に必要である。クライマックスがあってこそ、語ろうとする内容や展開してきた踊りのリズムを締めくくることができる。クライマックスでは、展開されるストーリーと踊りのリズムが締めくくられることになるので、必ず強調する問題がなければならず、それをテクニックによって見せなければならない。

 踊りの最後の場面をどうするかは、観客に作品についてよい印象を深く植えつけるうえで意義がある。舞踊作品は最後の場面をうまく組んでこそ、初めとクライマックスの場面で受けたよい印象が消え去らず、長い余韻を残し、作品にたいする感興をいっそうそそることができる。振り付け師は決して終わりの場面をないがしろにせず、観客が作品についての深い印象と思想的・情緒的余韻を残すように、多様な形式でうまく組むべきである。

 踊りの構成案は、人物の踊りと踊りの単位、踊りの場面を有機的に結びつけて立てるべきである。

 舞踊作品において、人物の踊りと踊りの単位、踊りの場面は、別個に構成されるのでなく、有機的に結びついて構成される。舞踊作品は、人物の踊りと踊りの単位の合理的な配列によって構成され、踊りの場面によって展開される。したがって、踊りの構成案を立てるにあたっては、人物の踊りと踊りの単位、踊りの場面を個別に考察するのでなく、有機的な連関のなかで考察し組み立てていくべきである。

 踊りの構成案は、生活の論理に合わせて立てなければならない。そうしてこそ、踊りによって人間の思想・感情と生活をリアルに描きだし、観客を作品の世界に引きこむことができる。振り付け師は踊りの部分と段落、場面の一つひとつを主観的な欲求ではなく、生活の発展に即して組み立てるべきである。

 踊りの構成案は、生活の情緒的流れにも合わせて立てるべきである。生活の論理だけでなく、情緒的流れに合わせて構成してこそ、内容が明白で芸術的に立派な舞踊にすることができる。

 振り付け構成案における重要な内容の一つは、音楽構成案である。

 音楽構成案には、舞踊音楽の創作方向が示される。音楽構成案を正しく立ててこそ、作曲家が振り付け師の創作意図にかなった舞踊音楽を創作し、舞踊作品の思想性・芸術性をより十分に保つことができる。

 音楽構成案には、作品の性格に合った音楽のスタイルを明示すべきである。舞踊作品の性格は、描きだす生活の内容によって革命的で雄々しいものもあれば、悲壮なものもあり、情緒的なものもある。舞踊音楽のスタイルは、舞踊作品の性格に合わせてはつらつなものにもし、情緒的なものにもすべきである。党と領袖の偉大さを描いた舞踊作品の音楽は荘厳なものにし、社会主義建設の躍動する現実を描いた舞踊作品の音楽ははつらつたるものにし、民俗的生活を反映した舞踊作品の音楽は民族的な情緒の濃いものにすべきである。

 振り付け師は、音楽構成案で作品の性格に合った音楽のスタイルを明示して、作曲家が踊りの出る旋律とリズムの音楽を創作できるようにしなければならない。

 音楽構成案には、舞踊音楽の長さとテンポも明示すべきである。

 舞踊音楽の長さとテンポは、踊りの部分と場面の長さと踊りのテンポに合わせて、しかも舞踊手が音楽に乗ってスムーズにおどれるように定めなければならない。

 舞台美術の構成案をしっかり立てるべきである。振り付け師が舞台美術の構成案をしっかり立ててこそ、舞台美術家が振り付け師の創作意図に合わせて舞台美術を創作することができる。舞台美術の構成案には、作品の性格に合わせて衣装と小道具、背景をつくる方向をはっきりと示さなければならない。

 振り付け構成案は、振り付け師によって構想され、立てられる。振り付け構成案を立てる主人は振り付け師であり、振り付け構成案は振り付け師の創作品と言える。

 しかし、振り付け師は、振り付け構成案を独りで完成しようとしてはならない。振り付け構成案は振り付け師によって構想され立てられるが、創作スタッフの集団的な知恵と努力によって舞踊作品として完成される。したがって、振り付け師は作品をつくる創作スタッフの衆知を集めて振り付け構成案を完成すべきである。そうすれば、創作スタッフが作品にたいする確信をもち、創作で速度戦を展開して短時日のうちに舞踊作品をつくりあげることができる。

 振り付け師は、作曲家と美術家、舞踊指導員、舞踊手に自分の創作意図を具体的に伝え、かれらのよい意見を取り入れて振り付け構成案を完成すべきである。





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