「舞踊芸術論」−1 生活と舞踊
 
6 舞踊小品を基本にして発展させるべきである


 舞踊小品は、スケールによって区分した舞踊作品の一形式である。芸術作品は、描写方式と規模によって種々の形式に区分される。舞踊作品にはスケールの大きい形式のものもあれば小さい形式のものもある。舞踊小品はスケールの小さい形式の舞踊作品である。舞踊小品は、断片的な生活を簡潔な踊りの構成によって集中的に描きだすものである。

 舞踊の小品は、人間生活を描くのに適した形式である。それは、芸術的リズムを基本的表現手段とする舞踊芸術の特性と関連している。あらゆる様式の芸術はそれに固有な表現手段と手法をもっており、それによって描写する対象と範囲をもつことになる。言語を基本的表現手段とする小説やスクリーンを基本的表現手段とする映画では、表現手段が他の芸術様式に比べて制限されないので、複雑な人間関係とさまざまな事件によって織りなされた幅広い生活をいくらでも描きだすことができる。しかし、芸術的リズムを基本的表現手段とする舞踊では表現手段が限られているので、小説や映画でのように複雑な生活を幅広く描きだすのは容易でない。限られた表現手段で複雑な生活を描くと、舞踊芸術の固有な味を出すのがむずかしい。表現手段が限られている舞踊では、断片的な生活を小品にするのが最も望ましい。断片的な生活を小品で描けば、人々の思想・感情と生活を特色のある踊りのリズムによって生き生きと、繊細に見せることができる。そうした面で、舞踊小品は芸術的リズムによって人間生活を描くのに適した形式だと言える。

 舞踊小品は人民性をおびている。舞踊小品は、簡単な踊りの構成と特色のあるリズムによって生活を具体的に、明白に描きだすので、人民に容易に理解され受けとめられる。

 舞踊の小品は、普遍性をもつ。舞踊小品は長い期間にわたって発展してきた舞踊形式である。かつて、祖先が創造した舞踊作品の大部分は小品である。舞踊小品は、いまでも広く創作され、普及されている。

 舞踊小品は、芸術的リズムによって人間生活を描くのに適した舞踊形式であり、人民性と普遍性をもっているので、舞踊の基本形式となる。

 舞踊芸術を小品を基本にして発展させれば、舞踊芸術に固有な特性を十分に生かすことができる。

 あらゆる様式の芸術がそれぞれの特性を生かすには、基本的表現手段を十分に生かさなければならない。芸術は基本的表現手段を生かしてこそ、自己の固有な特性に即して人間の思想・感情と生活を立派に描きだし、人民に愛されることができる。

 舞踊芸術は芸術的リズムを十分に生かしてこそ、舞踊芸術の特性に即して人民の思想・感情と生活をリアルに描きだし、人々に愛されることができる。我が国の舞踊の芸術的リズムは、踊りのリズムに集中的にあらわれる。我が国の舞踊は踊りのリズムを十分に生かしてこそ、人物の思想・感情と生活を、朝鮮人民の民族的情緒と美感にあわせて立派に描きだすことができる。舞踊小品は、簡単な内容を豊かな踊りのリズムによって立派に描きだし、朝鮮舞踊のすぐれた固有な特徴を十分に生かさなければならない。

 舞踊芸術を小品を基本にして発展させれば、多様な生活を描くことができる。多様な生活を描くことは、舞踊芸術の社会的機能を高めるうえで重要な意義をもつ。舞踊芸術は多様な生活を描いてこそ、人民を思想的、情操的に教育し、文化・情操生活を豊かにするのによりよく寄与することができる。舞踊芸術が人民の多様な生活を描くには、適切な形式をとらなければならない。人民の多様な生活を描きうる舞踊形式は小品である。舞踊小品は、人民の志向と願望のこもった美しく気高い生活の一断面を簡潔に描きだすことによって、多様な生活のあれこれを立派に見せることができる。

 舞踊芸術を小品を基本にして発展させれば、舞踊芸術に党政策の要求をそのつど反映することができる。社会主義的舞踊芸術は、各時期に提起される党の路線と政策を反映し、それを実現する人民のたたかいをリアルに描きだして、人民大衆を党の路線と政策で武装させ、それを実現するたたかいに立ち上がらせなければならない。舞踊小品は少ない人員でいちはやくつくって公演することができるので、随時提起される党の路線と政策を適時に反映し、人民の教育に寄与することができる。

 舞踊小品を数多く創作すれば、それにもとづいて舞踊組曲のような大きい形式の舞踊作品をつくるのにも有利である。

 舞踊小品を発展させれば、新しい舞台総合芸術の形式を創造するのにも好都合である。こんにち、朝鮮人民の生活はたえず新しい内容で補われており、それをもりこむ新しい芸術形式を求めている。我が国では、人民の新たな生活上の要求を反映して、舞踊をともなう新しい芸術形式が創造されている。舞踊小品を多数創作すれば、それを利用して、舞踊をともなう新しい形式の舞台総合芸術作品をいっそう容易に創作することができる。

 我が党はこれまで、舞踊小品を基本にして舞踊芸術を発展させる方針をうちだし、それを多数創作することに力を傾けるようにした。

 舞踊芸術部門では、小品を基本にして発展させる党の方針にのっとり、4大名作をはじめすぐれた舞踊小品を多数創作し、舞踊と結合した新しい舞台総合芸術形式の発展にも大いに寄与した。舞踊小品は、『血の海』式歌劇に利用されて歌劇の思想性・芸術性の向上に寄与するとともに、音楽舞踊叙事詩や大公演形式をはじめ、新しい舞台総合芸術形式の重要な表現手段として利用され、作品の思想性・芸術性の向上に寄与した。今後も舞踊芸術は、小品を基本にして発展させなければならない。

 舞踊芸術部門では、何よりも小品を多く創作すべきである。小品を多く創作するのは、舞踊芸術発展の基本的要求である。小品を多数創作すれば、舞踊芸術を豊かに発展させ、小品を基本にして舞踊芸術を発展させる党の方針を成功裏に貫徹することができる。社会主義の完全な勝利と祖国の自主的平和統一をめざして力強くたたかっている我が国の現実は、すぐれた舞踊小品を創作できる多様な素材を提供している。舞踊芸術部門の創作家は、現実に深く入り、社会主義建設と祖国統一のために奮闘している人民の多様な生活を探求して、多くの舞踊小品を創作すべきである。こうして我が国の舞踊芸術が、特色のある踊りのリズムに朝鮮人民の気高く多様な生活をもりこんだ小品でみたされるようにしなければならない。

 舞踊芸術を小品を基本にして発展させるうえで重要なのはまた、小品の特性を十分に生かすことである。

 舞踊小品の特性は、内容が簡単で構成が簡潔であり、踊りのリズムに特色があることである。舞踊小品はその特性を十分に生かしてこそ、認識的・教育的機能を高めることができ、舞踊芸術を小品を基本にして発展させる意義もある。舞踊の小品は、多様な生活のなかから有意義で典型的な生活の一断面を、一つの生活のモメントを通じて集中的に、生き生きと描きだすべきである。

 舞踊小品は、踊りの構成を緻密なものにしなければならない。舞踊小品は断片的な生活を短時間のうちに見せるので、踊りの構成を緻密なものにしなければ、生活の本質をはっきりと示すことができない。舞踊小品の踊りの構成は、リズムの表現において空間をなくし、観衆に訴えようとする内容が明確に示されるようにしなければならない。

 舞踊小品は、踊りのリズムの特色を十分に生かさなければならない。踊りのリズムの特色を生かすのは、舞踊小品の特性を生かすうえで基本であると言える。舞踊芸術を小品を基本にして発展させるのも、踊りのリズムの特色を生かすことに主な目的がある。舞踊創作家は舞踊小品の創作にあたって、踊りのリズムの特色を生かすことに主力を注ぐべきである。

 舞踊芸術を小品を基本にして発展させるうえで重要なのはまた、さまざまな形式の小品をすべて発展させることである。小品には、出演人数によって独舞、双舞、三人舞、四人舞、五人舞、群舞などの形式がある。舞踊小品の各形式にはそれぞれの特徴があるので、それらすべてを発展させることは、小品の特性を生かし、舞踊芸術を多様に発展させるうえで大きな意義をもつ。舞踊芸術部門では、さまざまな形式の舞踊小品を発展させて舞踊芸術をいっそう豊かにし、小品を基本にして発展させる我が国の舞踊芸術の優越性を遺憾なく発揮させなければならない。

 舞踊芸術を発展させるには、小品を基本としながらスケールの大きい形式の作品も発展させなければならない。

 小品を基本にしながらスケールの大きい形式の作品を発展させてこそ、我々の社会主義的舞踊芸術を多様で豊かなものに発展させ、舞踊芸術にたいする人民の要求もより十分に充足させることができる。スケールの大きい形式の作品を発展させることは、我が国の舞踊芸術をいちだんと高い水準に発展させるうえでも重要な意義をもつ。

 舞踊組曲は、スケールの大きい形式の舞踊作品である。舞踊組曲はいくつかの独立した舞踊種目を一つの主題・思想によって有機的に組みあわせた形式であり、さまざまな生活を芸術的リズムでリアルに描きだすことができる。舞踊組曲は、新しい舞踊種目を制作してつくることもできるし、創作ずみの舞踊小品を組みあわせてつくることもできる。舞踊組曲は小品を多く創作して、それを元にしてつくるのが望ましい。

 舞踊劇もつくるべきである。

 舞踊劇は、劇的な事件を展開して生活を見せるスケールの大きい形式の舞踊作品である。舞踊芸術を多様に発展させるには、人々の思想・感情と生活を劇的に幅広く、掘りさげて描きだす舞踊劇をつくらなければならない。

 舞踊劇の創作において重要なのは、朝鮮人民の美感にあわせてつくることである。舞踊劇を朝鮮人民の美感にあったものにしてこそ人民に愛され、舞踊芸術の発展に寄与することができる。以前、我が国でも舞踊劇がつくられたことがある。当時の舞踊劇は、朝鮮人民の民族的情緒にあった朝鮮式のものではなく、西洋の舞踊劇を模倣してつくられたものであった。そのため、舞踊劇は朝鮮人民に愛されなかった。朝鮮人民は、自分の趣味にあわない西洋の舞踊劇を好まない。舞踊芸術部門では、西洋の舞踊劇を絶対化する誤った観点と古い枠を打ちこわし、『血の海』式歌劇や『城隍堂』式演劇のように、朝鮮人民の思想・感情と情緒にあった朝鮮式の新しい舞踊劇をつくらなければならない。

 舞踊組曲と舞踊劇の舞踊種目を小品化すべきである。

 舞踊を小品化するというのは、舞踊小品に限らず、スケールの大きい形式の舞踊作品に出てくる舞踊種目も小品のようにつくるということである。すなわち、踊りのリズムに特色があり、スケールが適当で、形象上完結した舞踊をつくることを意味する。

 舞踊組曲では、個々の舞踊種目が組曲の流れに乗りながらも独自性をもつように小品化されるべきであり、舞踊劇では、主人公の行動の線に従ってくりひろげられる独舞や双舞など場面の時代相と生活を見せる舞踊が小品化されるべきである。そうしてこそ、舞踊組曲と舞踊劇における各場面の生活内容と人物の思想・感情と生活を、特色のある踊りのリズムと完結した舞踊形象によつて立派に描きだすことができる。

 舞台総合芸術形式に用いられる舞踊作品も小品化すべきである。

 こんにち、新しい形式の舞台総合芸術の発展にともない、舞踊は独自の芸術様式として発展しているばかりか、舞台総合芸術形式の重要な表現手段として広く利用されている。我が国では、舞踊が映画にも利用され、歌劇や演劇、音楽舞踊叙事詩などにも利用されている。舞台総合芸術形式において舞踊は、基本的表現手段としても利用され、補助的な表現手段としても利用される。前者の場合はもとより、後者の場合にも、舞踊をおざなりなものにせずに、リズム芸術の特性が生かされるようにしなければならない。

 舞台総合芸術形式に利用される舞踊をリズム芸術の特性を生かしたものにするためには、小品化しなければならない。舞台総合芸術形式に用いられる舞踊を小品化すれば、舞踊の表現機能と舞台総合芸術作品の芸術性をともに高めることができる。舞踊芸術部門では、舞台総合芸術形式に利用される舞踊をすべて小品化し、舞台総合芸術作品の芸術性の向上とともに、全般的な舞踊芸術の発展に大いに寄与すべきである





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