金 日 成

『ワシントン・タイムズ』記者団の質問にたいする回答
−1992年4月12日− 


 あなたがたの我が国訪問を歓迎します。

 私の誕生日を祝ってくださったことに謝意を表します。あなたがたの質問に簡単にお答えしましょう。


  最近、北朝鮮とアメリカとの関係改善をはかる一連の努力が見られます。
 主席は、現在の両国間の関係をどう評価なさり、共和国とアメリカとの関係改善のために何を望んでおられるのでしょうか。

  最近、朝米両国間の関係改善をはかる動きがはじまっており、これは世界の注目を引いています。これまで、朝米両国間に不正常な関係が持続してきたのは、一言でいって東西間の冷戦と関係していたといえます。冷戦の終結とともに、朝米間の不正常な関係を改善する問題が日程にのぼったのは当然なことです。

 一部の人は、冷戦が終結した事実にたいし、一方が勝ち、他方が負けたかのようにいっていますが、これは、変化した歴史的事実にたいする皮相な見方であるといえます。そもそも冷戦は、力の優位を占めようとする誤った競争であったのですから、冷戦そのものが破産したこんにちにいたって、一方が勝ち、他方が負けたという論議は成立しません。

 世界史発展の見地からすれば、冷戦の終結はとりもなおさず力の政策の破産を意味し、それは世界の自主化を実現する重要な前提条件になると評価することができます。もしも、一方が他方に勝って世界的に力を独り占めにしたかのように自任し、力の政策に頼って支配と従属の旧秩序を維持、拡大する道に進むならば、世界の平和愛好人民の抵抗に直面するのみか、これまで従ってきた同僚からも見捨てられ、結局は破滅をまねくことになるでしょう。そうではなく、唯一の超大国となったアメリカが冷戦の終結を契機にみずから力の政策から脱却し、国際的正義と平等の原則を尊重し具現していくなら、諸国人民の支持を受け、国際社会の民主化、世界の自主化がそれだけ早く推進されるでしょう。

 アメリカの運命にたいし責任を負う政治家たちが遠い将来を見通して、自主性を志向する現代の流れにそって対朝鮮政策を改めていくならば、朝米関係改善の問題もスムーズに解決されるでしょう。我々は、アメリカが思い切って対朝鮮政策を改め、朝鮮の平和的統一の実現に相応の寄与をするよう期待し、ひいては、世界を自主化する歴史的潮流に積極的に合流することを望んでいます。


  いま世界中が北朝鮮の核開発について神経をとがらせています。
 アメリカ政府は、北朝鮮の核開発についての確実な情報があるかのようにいっています。
 貴国政府は、核問題にかんする立場を再三明らかにしています。また、今回の最高人民会議は、貴国政府が国際原子力機関と締結した核兵器不拡散条約にともなう保障措置協定の批准問題を承認しました。
 主席はこんにち、アメリカと全世界に、北朝鮮の指導者として世界が信頼しうる査察がなされるという責任ある保障を与えることができるでしょうか。

  今回おこなわれた朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第9期第3回会議では、核兵器不拡散条約にともなう保障措置協定を承認しました。したがって、核査察と関連した法的な手続きはすべて終わったといえます。核査察問題は今後スムーズに解決されるはずなので、これ以上論議する必要がないと思います。


  ここ2年のあいだに、朝鮮戦争時期の戦没者と信じられる2体の遺骨が板門店を通してアメリカに送還されました。これは、極めて好ましい人道主義的な印象をアメリカに与えました。
 まだ、送還されるアメリカ人戦没者の遺骨があるのかを知りたいと思います。アメリカ人戦没者の遺骨送還は、朝米関係の改善に非常に好ましい信号弾となるでしょう。
 この問題にたいする主席のご高見をうかがいたいと思います。

  我が共和国政府は、朝米問の朝鮮停戦協定による遺骨送還が終了した後も、人道主義的立場から遺骨の発掘を中断せず、近年、アメリカに数体の遺骨を引き渡しました。今後、朝米関係の改善にともなって、遺骨送還問題もいっそう円滑に解決されるものと思います。


  いま世界では、朝鮮民主主義人民共和国が、しだいに外部世界と経済関係を結び、経済的開放へと指向しているという観測が多くなされています。
 主席が見通している北朝鮮の経済的開放の展望と外国からの投資、対外貿易についてのご高見をうかがいたいと思います。

  我々の自立的民族経済建設路線は、外国による経済的従属に反対するものであって、外国との経済交流と協力に反対するものではありません。自主、平等、互恵の原則で外国との経済協力関係を発展させるのは、我が共和国政府が終始一貫、堅持している方針です。

 我々は近年、外国との経済協力と交流をより積極的に発展させています。これは、冷戦の終結とともに諸国間の経済・技術交流と協力が拡大発展している世界的趨勢にてらして、ごく自然なことです。外国との経済的連係を拡大発展させるのは、経済的自立を擁護する我々の原則的立場の変化を意味するものではありません。我々は、これからも自主的立場で、我が国に友好的なすべての国と経済・技術交流と協力を積極的に発展させていくでしょう。


  概して中国を社会主義経済発展のモデルとみなす傾向があります。
 そして、共和国の指導者たちが、中国の経済特区も視察されたものと存じております。
 主席は、中国の経済開放のモデルをどう評価し、また、それが北朝鮮の経済開発、開放政策とどのような関係にあるかについておうかがいしたいと思います。

  中国は我々の親しい隣邦であり、古い戦友の国です。朝鮮人民と兄弟の中国人民は、かつて、帝国主義に抗する共同の戦いでともに血を流し、こんにち社会主義を建設するたたかいにおいても緊密に支持、協力しています。

 我々は、中国で万事が順調に運ぶことを心から願っています。近年、中国共産党の指導のもとに兄弟の中国人民が社会主義建設で大きな成果をおさめていることにたいし、我々は非常にうれしく思っています。

 社会主義建設の具体的方途についていうならば、国の大きさと発展水準に違いがあり、また国によって実情が異なるので、ある一国の方法を固定不変のモデルにすることはできません。個々の国は、自国の実情に合う社会主義建設の方途を見つけなければなりません。我々は、中国で実施されている経済建設政策が中国の実情に合うものであるとみなし、積極的に支持します。


  北南合意書調印後の北南対話の展望、朝鮮半島の統一の展望と可能性、そして米大使館の平壌開設の可能性について、主席のご高見をうかがいたいと思います。

  北南合意書の採択は、祖国統一をめざす我が民族のたたかいにおいて大きな前進となります。いま北南間で合意書を履行するための部門別の対話が進められています。北南合意書を忠実に履行し、それが祖国統一につながるよう望む全同胞の念願どおり対話を発展させていくことが必要です。

 朝鮮の統一問題は、歴史的に外部的要因と少なからずからみあっていますが、祖国統一の主体はあくまでも我が民族です。北と南、海外の全同胞が民族大団結の原則にもとづきかたく団結してたたかうならば、外部勢力の干渉と統一途上のあらゆる障害を克服し、祖国統一偉業を必ず実現することができるでしょう。

 平壌に米大使館を開設する可能性についていうならば、それは今後、朝米関係がいかに改善されるかによって決定される問題です。


  多くの人は、アメリカが経済上の理由でアジアから、そして「韓国」から撤収すべきだと主張しています。そうなれば、日本は自国の国防にたいする責任をみずから担わなければならないので、再武装の道へ進む結果をまねくようになるでしょう。
 これにたいする主席のご高見をうかがいたいと思います。

  アメリカ軍がアジアからいつ撤収するかは、静観すべき問題ですが、アメリカ軍がアジアから撤収するからといって、日本が再武装し、軍事大国になる必要はありません。

 こんにち、経済大国になった日本と経済協力を発展させていくことを望む国はあっても、日本に軍事的脅威を与える国はなく、日本が軍事大国になることを歓迎する国もありません。

 日本が、過去の深刻な歴史的教訓を忘れ、軍事大国の道へ進むとすれば、それは現代の趨勢に反するのみか、みずから自滅の道を選ぶのも同然です。したがって、日本の人民と進歩的な政治家は、日本軍国主義の復活を許してはならないでしょう。


  21世紀は太平洋時代だとよくいわれています。そして、未来の世界経済の主力はアジアにあるといわれています。
 主席は、共和国が太平洋時代の経済先進国の一つとして台頭するものと見ておられるのでしょうか。さもなければ、アジア経済の主導権は、中国か日本にゆずるほかないと見ておられるのでしょうか。太平洋時代の朝鮮半島の位相についておうかがいしたいと思います。

  迫りくる21世紀が太平洋時代になるとし、未来の世界経済の主力がアジアにあるというのは、この地域の経済発展の潜在力が大きく、この地域の人民が新たな発展段階に入っている現実を念頭においてのことだと思います。

 アジア諸国が、アジアの発展潜在力を十分に発揮して、アジアを世界経済の主力に発展させていくためには、自主、平等、互恵の原則で互いに私心のない協力をしなければなりません。政治的、軍事的に他国を支配しようとすることにたいして容認できないのはもちろん、経済的主導権を握って、他国を経済的に従属させようとするのも許されないことです。アジア諸国が共同の繁栄をめざして互いに私心のない協力をしていくなら、国家間の発展水準における差を克服し、アジアのすべての国が新たな発展と進歩の道へ進むことができるでしょう。

 朝鮮人民は、自国の繁栄のために努力するだけでなく、アジアの共同の繁栄のため、すべてのアジア諸国人民と肩を組んでたたかっていくでしょう。

 将来、朝鮮民族の悲願である祖国の統一が実現すれば、朝鮮はアジアの栄誉ある一員として、自己の発達した文化と経済力をもってアジアの共同の繁栄により大きく寄与できるようになるでしょう。


  多くの人は、ソ連と東欧諸国の崩壊が社会主義の失敗を意味するのではないかとみています。ところが、最近の主席の演説では、ソ連と東欧の崩壊は社会主義失敗の宣告ではないと指摘されています。
 ソ連と東欧共産主義の崩壊にたいする主席の分析や高見はどのようなものでしょうか。そして、朝鮮式社会主義の性格と特徴について説明していただければありがたく思います。

  社会主義の発展過程には一時的な紆余曲折がありえますが、人間による人間の搾取と抑圧をなくし、すべての人が自主的に、幸せに暮らそうとする人間の社会的本性を具現した社会主義の理念は変わるものではありません。社会が発展するにつれ、社会主義を求める人間の社会的本性はさらに発展するものであり、したがって、人々が社会主義へ進むのは動かしがたい法則です。

 一部の国で社会主義が挫折した原因はいろいろありましょうが、その根本的原因は、それらの国が社会主義の基本原則を守らなかったことにあります。社会主義社会は、人民大衆が国家と社会の主人となった社会であり、人民大衆の創造的役割によって発展する社会です。人民大衆が国家と社会の主人の地位を占め、主人としての役割を果たすようにさせるのが、まさに社会主義建設で堅持すべき基本原則です。この原則を具現するには、人民大衆を社会主義思想で教育し、社会主義的集団として統一団結させなければならず、党の指導のもとに大衆路線を貫徹し、国家管理において社会主義的民主主義を全面的に発展させなければなりません。こうしなければ、反社会主義的思潮の浸透を防ぐことができなくなり、官僚主義が増長して人民大衆が国家と社会の主人としての役割を果たすことができず、社会主義がその優越性を発揮できなくなります。一部の国では、社会主義建設において第一義的に解決すべきこのような根本問題にしかるべき関心を払わなかったため、社会主義が生命力を失い、社会主義偉業の挫折をまねくようになったのです。

 世界の主人、歴史の主体は、人民大衆です。我々は、社会主義建設において常に主体を強化し、その役割を高めることに第一義的な力を入れ、自然と社会を改造するすべての事業をチュチェの要求どおり進めてきました。

 我々が建設した社会主義は、党と人民大衆が一つの社会的・政治的生命体としてかたく結合し、あらゆるものが人民大衆に奉仕する人民大衆中心の社会主義です。こんにち我が国では、政治、経済、文化の各分野が人民大衆の自主的要求に即応してバランスよく発展しており、社会の全構成員が安定した物質生活と豊かな文化生活、尊い政治生活をともに営んでいます。まさにここに、いかなる波風にも動揺せず、活気にあふれて発展していく我が国の社会主義の基本的特徴と優越性があります。


  これから8年たてば世紀が変わります。21世紀を展望しての主席のご高見をうかがいたいと思います。
 そして歴史的に、または現世において、主席が尊敬なさっている指導者は誰であり、その理由は何でしょうか。

  こんにち、自主、平和、親善は、世界の進歩的諸人民の共通の理念となっています。冷戦の終結によって国際社会の民主化、自主化の過程はいっそう急テンポで進捗し、きたる21世紀はすべての国の人民がともに自由で平和な新しい世界で、幸せと繁栄を享受する新たな歴史的世紀となるでしょう。

 歴史的にみれば、人民の自由と解放のために一生をささげた著名な指導者は少なくありません。これらの指導者は、その活動の時期と社会的・歴史的条件に差があるばかりでなく、個性のうえでも固有の特徴を有しています。ですから、ある一人の指導者のみを特に尊敬するというのは難しいことです。

 私は、人民大衆の自主偉業のために献身的にたたかった指導者をすべて尊敬します。


  主席の誕生80周年をお祝いいたします。
 主席は80歳でも50代の健康を保っておられると多くの人がいいますが、その秘訣はなんでしょうか。そして、誕生80周年を迎える感慨はいかがなものでしょうか。主席は生存している世界の執権者のなかで最長の執権者ですが、その感慨はいかがなものでしょうか。
 そして、主席の趣味はなんであり、たしなんでいる娯楽やスポーツなどがあれば、おうかがいしたいと思います。

  人から私の健康の秘訣はどこにあるかと聞かれるたびに、私は、楽天的に生活することだと答えています。

 私は、革命の道を踏みだした当初から人民を信頼し、人民と苦楽をともにすることに生きがいと幸福を感じてきました。人民の底知れない力に依拠すればなしえないことはなく、人民のためにすべてをつくすこと以上に大きな生きがいはないという信念が、私の楽天性の根源となっているといえます。

 私は、80年の生涯を人民の愛情と信頼のなかで生きてきたことをこのうえない幸せと思っており、これからも人民の期待と信頼にこたえるため、あらゆる努力をつくしていくつもりです。

 私には、とりたてていうほどの趣味や娯楽というものはありません。読書を好み、人民のなかに入り、かれらとともにすごすのが私の趣味だといえます。

 私は、あなたがたの今後の活動の成果を期待します。

出典:『金日成著作集』43巻


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