金 日 成

共同通信社社長の質問にたいする回答
−1991年6月1日− 


 わたしは、社長先生を団長とする共同通信社代表団のわが国訪問を熱烈に歓迎します。

 あなたがたと会って知り合いになったことをうれしく思います。日本の友人がわが国をたくさん訪問するのは好ましいことです。両国の友人たちの往来が多くなれば、それは、朝・日関係の改善と両国人民間の友好の強化に寄与することになるでしょう。

 金丸信先生がわたしにあたたかいあいさつを送ってくださったことに感謝いたします。金丸信先生がご健康だとのことでなによりです。わたしは昨年、訪朝した金丸信先生と会って、朝・日関係の改善問題について協議し、よい印象をいだいて別れました。わたしは、かれとの出会いをいまでもなつかしく回想しています。帰国しましたら、金丸信先生にわたしの心からのあいさつをお伝えください。

 これから、あなたの質問にお答えすることにしましょう。


 問 貴国の政治・経済分野における課題とその見通しについておうかがいしたいと思います。

 答 朝鮮労働党と共和国政府は、政治における自主、経済における自立を実現する原則を一貫して堅持しています。

 自主性は、社会的人間の生命であり、国家と民族の生命であります。我々の社会主義政治の根本目的は、対内的には人民大衆が国家と社会の主人としての地位をしめ、主人としての役割を果たすようにすることにあり、対外的にはわが国と民族の自主権を確固と保障することにあります。それゆえ、我々は政治において社会主義的民主主義を立派に具現して、全人民が国家と社会の管理運営に主人らしく参加し、すべての社会的富と創造的労働の結果をみながひとしく享受するようにしています。同時に、帝国主義と支配主義に反対し、国の自主権を擁護し、自主、平和、親善の理念にもとづいて世界各国との友好・協力関係を発展させています。

 我々の政治は人民大衆自身の政治であり、それは、人間中心の政治哲学であるチュチェ思想に根ざしています。わが党と国家の路線と政策はすべて、チュチェ思想を具現したものであり、チュチェ思想で武装した人民大衆は、それを自己の生活上の要求としてうけとめ、創造的熱意と献身性を発揮して立派に実行しています。

 自主的な政治は、自立的な経済によって物質的に保障されなければなりません。我々は、経済建設において自立の原則をつらぬき、他国に従属したり依存することなく、独り立ちする経済、人民に奉仕する社会主義の自立的民族経済を建設しました。朝鮮人民がもっとも困難な条件と環境のもとで、自力更生、刻苦奮闘して建設した自立的民族経済は、祖国の自主的発展と人民の幸せな社会主義生活のための強固な基盤となっています。現在遂行中の第3次7か年計画が完遂されれば、わが国の自立約民族経済の威力はいっそう強まり、人民の物質・文化生活水準はさらに向上し、わが国は先進諸国の水準に到達するようになるでしょう。

 我々は、これからも政治における自主、経済における自立の原則にもとづいて社会主義的民主主義を全面的に発展させ、自立的民族経済の威力をいっそう強めていくでしょう。自己の偉業の正当さと勝利の確信をいだき、党と政府のまわりに一つにかたく結集して、チュチェ思想の指し示す道を前進する朝鮮人民は社会主義偉業を最後までなし遂げるでしょう。

 あなたは、18年ぶりに訪朝してみると平壌がだいぶ変わっているとのことですが、ごもっともです。朝鮮のことわざに、十年たてば山河も変わるというのがあります。建設を大々的に進めているわが国で、18年間に多くの変化が起こったのは当然のことだと思います。

 いま朝鮮人民は、大建設行軍をおこなっています。平壌市では5万所帯の住宅建設でわき立っている最中です。いまでも家のないという人はいませんが、5万所帯の住宅をさらに建設すれば、平壌市民はより近代的な住宅で幸せな生活を営めるようになるでしょう。我々は、第3次7か年計画期間に120〜150万所帯の住宅を建設するという目標をかかげています。この目標を達成するためには、毎年、約20万所帯の住宅を建設しなければなりません。いま全国いたるところで、住宅をたくさん建てており、工場も大々的に建設しています。

 いま朝鮮人民は、「党が決心すれば我々は実行する!」いというスローガンをかかげ、一心団結して党の指導に従っています。これは非常に好ましいことだと思います。


 問 日朝両国間の関係改善のために解決すべき問題についておうかがいしたいと思います。

 答 朝鮮と日本との関係改善の問題は本質上、両国間の誤った過去を清算し、両国人民の利益と時代の要請に即応して新たな善隣関係を発展させる問題です。

 両国間の誤った過去を清算するためには、なによりも過去を正しく反省することが大切です。かつて日本はわが国を侵略した国であり、わが国は日本の侵略をうけた国であります。日本が誤った過去を心から反省するのは、他人のためよりも自分自身のために必要なことです。日本は、過去を反省し、わが国との関係を改善するのが有益か、さもなければ現在のような不正常な関係を維持するのが有益かということを熟考すべきです。先見の明のある日本の政治家は、朝・日両国間の関係を改善することが日本人民の利益と時代の要請にかなうものであることを十分理解しているので、朝・日関係の改善に積極的にのりだし、その結果、朝鮮労働党と日本の自由民主党、日本社会党の共同宣言が発表されたのです。

 朝・日両国間の関係改善の問題が、ある外部の干渉や誤った政治的動機によって影響をうけるならば、円滑に解決されません。朝・日両国がともに自主的立場に確固と立ち、問題を誠実に協議していくならば、朝・日関係正常化の問題は3党共同宣言の精神にのっとってスムーズに解決されるものと思います。

 朝・日関係正常化のための会談にはまだ大きな進展がみられませんが、いうまでもなく、面識のない人たち同士が会談をするのですから、論争問題もありうるだろうと思います。しかし、朝・日関係を正常化する問題は両国人民の共通の念願であり、両国が仲よくすることが目的なのですから、会談ではこうした念願と目的にかなうように双方が互いに好ましい発言からはじめるべきです。会談で相手側に耳障りなことをいったり、基本問題と関係のない問題をもちだすならば、会談を遅延させる結果しかもたらしません。これから会談双方の面識が深まれば、互いに理解し合い、好ましい発言が多く行き交うようになるだろうと思います。双方が努力してまず、国交正常化の問題を早急に解決し、そのあとで他の問題を一つずつ協議していくならば、すべての問題をスムーズに解決することができるはずです。

 わたしは、金丸信先生と田辺誠先生が、朝・日関係の改善のために多大の努力を傾けていることを満足に思っています。帰国しましたら、金丸信先生と田辺誠先生にわたしの心からのあいさつをお伝えください。

 朝・日国交正常化の実現後にわたしに日本を訪問する意向があるかとのことですが、もちろんあります。日本人民に会うことが悪いはずはありません。わたしは、日本帝国主義に反対したのであって、日本人民に反対したことはありません。わたしはつねに、朝鮮人民と日本人民が手をとり合って進むべきであると考えています。

 朝鮮在住の日本女性の里帰りの問題についていうならば、そうした問題は朝・日国交正常化が実現すればおのずと解決されるでしょう。


 問 北南対話を積極的に推進する方途についておうかがいしたいと思います。

 答 祖国の統一を自主的に、平和的に実現するためのわが党と共和国政府の根本的立場と原則的方途は広く知られています。北南対話を進めるのは祖国を統一しようとすることに目的があるのですから、対話の双方がともに祖国を統一しようという立場と姿勢をとり、共同で努力してこそ対話で成果をおさめることができます。いま世界中が目撃しているように、南朝鮮当局者は、祖国の統一をめざしてたたかう南朝鮮の進歩的人士と青年学生、広範な人民を苛酷に弾圧しており、故意に情勢を緊張させ、軍事的に我々を脅かすことによって、北南対話に人為的な障害をつくりだしています。こうした状態では、民族にたいし対話の名分が立たず、そのような対話は好ましい結実をもたらすことができません。

 北南対話の進展のために我々が南側に要求したことは、第1に、訪北人士を釈放し、第2に、北南高位級会談がおこなわれる期間だけでもチーム・スピリット合同軍事演習を中止し、第3に、国連に単一議席で加盟する問題を北と南が協議して解決しようということでした。しかし、南側はこの3つの問題をすべて拒絶じました。南側は北南高位級会談で、北南間に不可侵宣言を採択する問題にあくまで反対し、和解と協力にかんする基本関係合意書の採択のみに固執しました。我々はかれらの要求も受け入れて、不可侵にかんする宣言と基本関係合意書を一つの文書として採択することを主張したのですが、南側はそれにも反対しました。懐にしのばせた刃物を投げ捨てずに和解と協力にかんする基本関係合意書を採択したのでは、なんの役にも立ちません。

 我々には、北南会談を破綻させる考えはありません。我々は、会談をつづけようというのです。問題は、南側にかかっています。南朝鮮当局者が、祖国の統一を妨げる行動をやめ、南朝鮮の広範な統一勢力と歩調を合わせて対話にのぞむなら、北南対話は活発に進められて成果が得られるだろうと思います。


 問 朝鮮の統一問題と東西ドイツの統一問題には、どのような共通点と相違点があるとお考えでしょうか。

 答 わたしは、この問題について深く考えてみたことがありません。我々は、東西ドイツの統一が実現したことに反対しません。

 米大統領ブッシュはベルリンの壁の崩壊には歓声をあげましたが、朝鮮の北と南を二分しているコンクリート障壁については、その存在についてさえ口にしていません。南朝鮮当局者もコンクリート障壁をカムフラージュして、人びとに公開していません。これはいずれも、朝鮮の分断をそのまま持続させようということです。

 軍事境界線の南側にコンクリート障壁がある事実は隠そうにも隠しようがありません。昨年、朝鮮の統一と平和のための国際連絡委員会の発起によって、世界各国の著名な人士からなるコンクリート障壁国際調査団が訪朝し、コンクリート障壁を撮影して世界に公開しました。ところが、日本とヨーロッパ諸国では、アメリカの圧力を恐れて、これについて広く報道しませんでした。いまアメリカ人のいうことであれば、おびえてふるえる人が少なくありません。わたしは、アジアの国である日本が自主的に進むことを望みます。日本が自主的に進むなら、アジアの繁栄と平和の保障に寄与することができるものと思います。


 問 今年の秋に開かれる国連総会での国連加盟問題についておうかがいしたいと思います。

 答 我々は平和と正義を守る使命をおびている国連の権威を尊重しており、自主独立国家であるわが国の国連加盟を当然なこととみなしています。しかし、わが国の国連加盟問題は朝鮮民族の至上の課題である祖国の統一を実現する問題と直接関連しているので、我々はこれについて慎重に考慮し、朝鮮の国連加盟問題を北南協商をつうじて、祖国統一の実現に有利に解決することを主張してきました。我々のこうした原則的な立場と正当な努力にもかかわらず、南朝鮮当局者は終始一貫、これに反する分裂主義的な立場を固執してきました。そのため、北と南が単一議席で国連に加盟する問題が実現できなくなった状況のもとで、我々はこれに対応する措置として国連に加盟することにしました。北と南が一つの民族として国際舞台に共同で進出し、全民族を代表する一つの国家として国連の議席を占めることを志向する我々の原則的な立場は変わらないでしょう。


 問 政府クラスの朝米関係改善の見通しと平和協定締結の問題、核問題、アジアの平和問題についておうかがいしたいと思います。

 答 朝鮮とアメリカ両国間の不正常な関係は、全的にアメリカの不当な対朝鮮政策に起因しています。こんにちの全般的情勢変化の過程を考察するとき、アメリカが対朝鮮政策を再検討すべきときは来たと思います。アメリカが、心からわが国の統一を支持し、朝鮮半島の平和を保障する道に進もうとするなら、停戦協定を平和協定にかえるという当方の提案を受け入れられない理由はなく、朝米両国間の関係を改善するうえで解決できない問題もないでしょう。

 アメリカが南朝鮮に数多くの核兵器を配備し、わが共和国を威嚇する核戦争演習を頻繁にくりひろげながら、誰それにたいする核査察問題をもちだすのは道理に合わないことであり、これは、アメリカがいまだに力の立場に立って自分の意思を他国に強要する旧弊をすてていないことを示しています。

 こんにちにいたり、力の立場から自分の意思を他国に強要しようとするのは、時代遅れの思考方式です。わたしが列国議会同盟第85回総会の演説で述べたように、世界には大きい国と小さい国はあっても、地位の高い国と低い国はありえず、発達した民族と未発達の民族はあっても、支配する民族と支配される民族の区別はあってはなりません。

 我々には、核兵器がなく、核兵器を製造してもいません。したがって、我々は核査察に反対しません。いま南朝鮮には1千余の核兵器が配備されています。核査察をするなら、核兵器のない我々にたいしてのみするのでなく、核兵器のある南朝鮮にたいしても同時にしなければなりません。

 朝鮮半島を非核地帯・平和地帯にしようというのは、わが党と共和国政府の一貫した立場です。我々は久しい前に、朝鮮半島を含む東北アジア地域を非核地帯・平和地帯にすることについて日本社会党と合意し、共同宣言を発表しました。

 いま世界のマスコミは、わが国にたいする核査察の問題についてのみ騒ぎ、南朝鮮にある核兵器については沈黙していますが、これは公正さを欠いています。あなたがたを含めてマスコミがこの問題について公正な世論を喚起すべきだと思います。

 現在、アメリカ国内でも、南朝鮮の核兵器を撤去すべきだと主張する声が高まっています。

 金丸信先生が、アメリカを訪問して朝米関係改善の橋渡しをするといわれたことは非常に好ましいことです。わたしは、朝米関係の難問を優先的に解決してこそ朝・日関係の問題もスムーズに解決できるという意図から、我々にたいする同情心をもってかれがそのような着想をしたものと思います。金丸信先生は立派な政治家です。

 アジアの平和と安全を守るのは、アジア諸国人民の共通の課題です。アジア諸国人民は、かたく団結し緊密に協力して、この地域から外国の侵略的軍事基地と侵略軍隊を撤収させ、帝国主義者の侵略と戦争策動を阻止、破綻させるためにたたかうことによって、アジアの平和と安全を守らなければなりません。

 わが共和国政府はこれまでと同様、今後ともアジア諸国との友好・協力関係を積極的に発展させ、アジアの平和と安全を守るためあらゆる努力をつくすでしょう。

 わたしはこの機会に、共同通信社が朝・日両国人民間の友好の発展に寄与する活動を大いに展開することを希望し、あなたの今後の活動の成果を願うものです。

 出典:『金日成著作集』43巻


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