金 日 成

化学工業部門の課題について
―化学工業部門の責任幹部協議会でおこなった演説― 
1982年2月9日 

 私はきょう、化学工業省をふたたび設置したことと関連して、化学工業部門に提起される若干の課題について述べようと思います。

 このたび、軽工業委員会から化学工業部門を分離して化学工業省をふたたび発足させた主要な目的は、第2次7カ年計画に予定されている化学生産目標の達成を早め、軽工業と農業に必要な原料と資材を十分に供給し、人民生活をいちだんと向上させることにあります。化学工業部門が軽工業部門に原料と資材を十分に供給すれば、軽工業革命を成功裏に遂行することができます。軽工業革命を遂行して人民生活を向上させるかどうかは、化学生産目標の達成いかんに大きくかかっています。我々がこれまで重工業を優先的に発展させながら、同時に軽工業と農業を発展させる社会主義経済建設の基本路線を貫徹して、軽工業発展の土台をしっかり築いたのですから、これからは軽工業を発展させ、立派な衣服や靴、日用品を大量に生産して人民に供給しなければなりません。

 化学工業部門の幹部は、化学工業省を別個に設置した目的を明確に理解し、第2次7カ年計画に予定されている化学生産目標の早期達成をめざして奮闘しなければなりません。

 何よりもまず、化学繊維の生産を増やすために積極的に努力しなければなりません。

 我々が社会主義経済建設の10大展望目標に予見されている15億メートルの織物生産目標を達成するためには、繊維問題を決定的に解決しなければなりません。織物の生産に必要な繊維は、化学繊維の生産を増やす方法で解決すべきであって、綿の栽培によっては解決することができません。

 以前、綿を栽培してみましたが、収穫高はきわめて低調でした。綿を栽培して年に1万トンくらいの綿がとれればよいのですが、耕地面積がかぎられているわが国では、収穫高の低い綿を栽培しては繊維問題を解決することができません。綿の栽培によって繊維問題を解決しようとしては、食糧問題で難関に直面します。

 今後、干拓地を30万ヘクタールほど造成し、新しい土地もさらに開墾して耕地面積が増えれば、黄海北道と黄海南道で綿を少々栽培してみようと思っていますが、そのときまでに立派な化学繊維の生産方法が考案されて綿を栽培する必要がなくなれば、それにこしたことはありません。

 化学繊維の生産では、ビナロンとモビロンの増産に力を入れるべきです。ビナロンやモビロンは、わが国に無尽蔵な石灰石と無煙炭が原料なのでいくらでも生産できますが、スフやレーヨン、ナイロン、テトロン、オーロンなどは、原料が問題なので大量には生産できません。

 わが国でスフやレーヨンなどを生産する人造繊維工業はある程度発展させることができますが、それ以上発展させるのは困難でしょう。わが国には木材が少ないので、人造繊維工業を発展させるには外国から木材を輸入しなければなりません。

 わが国ではまだ石油が産出されないので、石油でナイロン、オーロン、テトロンなどの合成繊維を生産する化学繊維工業を発達させることも困難です。現在、少なからぬ国が石油化学繊維工場を建設しておきながら、石油不足で満足な操業をしていません。わが国も他の国のように石油化学繊維工場を建設していたなら、石油不足で困難に直面していたことでしょう。わが国の石油事情は、他の国にくらべいっそう緊迫しています。

 我々がわが国にたくさん埋蔵されている石灰石と無煙炭でビナロンやモビロンを生産する工場を建設したことは、全く適切な措置でした。私がビナロンを開発した博士をいつも称賛するのも、わが国に無尽蔵な原料で化学繊維を生産できるようにしたからです。わが国で繊維問題を解決する唯一の方途は、ビナロンとモビロンを大量に生産することです。

 現在、ビナロンの生産能力は5万トンですが、繊維問題をスムーズに解決するには、これから5万トン級のビナロン工場をもう一つ建設しなければなりません。今年か来年にそれをすぐ建設することはできないとしても、いずれは建設しなければなりません。

 ビナロン綿からはまだ細番手の糸がとれず、またその糸にやわらかさがないのが欠点ですが、この点だけ解決すればそれにまさる繊維はありません。化学工業省では、科学院咸興分院の科学者と共同でビナロンに対する研究を強め、ビナロン綿からも細番手の糸がとれるようにし、ビナロン糸をすこしやわらかくしなければなりません。

 カーバイドの増産対策を立てなければなりません。カーバイドの生産を増大させれば、合成繊維や合成樹脂、合成ゴムを大量に生産して一般消費物資や建材、包装材の生産で革命を起こすことができます。

 カーバイドの生産を増やすには、酸素熱法を導入する必要があります。

 現在は、カーバイドの生産に多くの電力を消費しているので、その増産が不可能になっています。カーバイド生産に酸素熱法を導入して電力消費基準を下げれば、現在の電力使用量でもカーバイドをもっと多く生産することができます。

 カーバイド生産に酸素熱法を導入する課題は第4回党大会で提示しましたが、化学工業部門ではいまだに実行していません。これは、幹部が党の政策を実行するために懸命に努力せず、研究もしていないことを示しています。

 我々はどうあっても、第7回党大会までには酸素熱法によるカーバイド生産法を完成しなければなりません。そのためには、青水化学工場でカーバイド生産に酸素熱法を導入するテストを積極的に進めなければなりません。

 酸素熱法によってカーバイドを生産するためには、機械工業部門で酸素分離機をたくさんつくってやらなければなりません。

 現在、楽元機械工場に酸素分離機職場を建設しているので、これからは酸素分離機を国産化することができるでしょう。酸素分離機の国産化がむずかしければ、外国から輸入してでも、カーバイド生産に酸素熱法を導入すべきです。今後、カーバイド生産に酸素熱法を導入し、電力の消費基準を下げれば、ビナロン工場を一つ増設してもカーバイドを十分に供給することができます。

 化学工業部門では、カーバイド生産に酸素熱法を導入すると同時に、科学者、技術者と生産者大衆の創意性を積極的に発揮させて、カーバイド生産における電力消費基準を極力引き下げるようにすべきです。

 カーバイドの生産を高めるにはまた、カーバイド工場に良質の石灰石を供給する必要があります。現在開発中の豊南鉱山に石灰石の選別場を設け、石灰石を適切に選別して2.8ビナロン連合企業所に送るべきです。

 化学工業部門では、開放式カーバイド炉の密閉式カーバイド炉への改造も積極的におし進めるべきです。

 一部の人はこの仕事をおろそかにしていますが、そういうことではいけません。公害をなくし、労働者が安全に作業できるようにするためには、開放式カーバイド炉を密閉式カーバイド炉に改造しなければなりません。

 2.8ビナロン連合企業所が開放式カーバイド炉を密閉式カーバイド炉に改造してカーバイド生産を正常化するためには、現在進行中の豆炭職場の建設を早急に終えなければなりません。

 2.8ビナロン連合企業所が力を集中して豆炭職場の建設を早く終えるよう、資材を円滑に供給すべきです。

 化学肥料の生産に力を入れるべきです。

 今後、干拓地を30万ヘクタール造成し、新しい土地を20万ヘクタール開墾すれば、果樹園まで含めて耕地面積がおよそ250万ヘクタールになるので、化学肥料の生産を増やさなければなりません。

 私は社会主義経済建設の10大展望目標を提示するとき、干拓地の造成と新しい土地の開墾によって耕地面積が拡大することを予見して、1980年代の末期には化学肥料の年間生産量を700万トンにする課題を示しました。

 耕地面積を250万ヘクタールとみて、窒素肥料をヘクタール当たり700キログラムほどこすには、175万トンが必要です。これは、既存の生産能力だけでも十分生産することができます。窒素肥料は、7月7日化学工場でも数万トン生産することができます。

 今後、カーバイド生産における電力消費基準を下げれば、石灰窒素肥料も大量に生産して農村へ送ることができます。私は農業の指導にあたってみてわかったのですが、石灰窒素肥料を生産して農村に供給することが非常に重要です。石灰窒素肥料は土地を消毒するので、トウモロコシ畑にほどこしてもよく、野菜畑にほどこしてもよいものです。水田にも石灰窒素肥料を使えば、稲がいっそうよく育つでしょう。石灰窒素肥料を年に30万〜50万トン生産して農業部門に送れば、営農実績を上げることができるでしょう。

 カーバイド生産の電力消費基準を引き下げ、石灰窒素肥料の生産を現代化すれば、石灰窒素肥料を大量に生産して農村に送ることができるので、私は順川石灰窒素肥料工場をフルに操業させています。ところが幹部は、順川石灰窒素肥料工場の電力消費量が多いといって、電力事情が緊張するたびにこの工場への電力供給を中断しています。これはたいへんな誤りです。

 国家の経済活動に責任をもつ幹部であるなら、電力事情が緊張するたびに石灰窒素肥料工場への電力供給を中断するのではなく、石灰窒素肥料の生産を現代化して、電力消費量を減らし、労働者がらくに働けるようにするのが当然でしょう。

 以前、順川石灰窒素肥料工場が直立炉で石灰窒素肥料を生産していたときに行ってみると、労働者が炉から肥料をかき出す作業をほこりの中でしていました。石灰窒素肥料を生産する直立炉は、解放直後に爆破させた城津製鋼所の原鉄炉と同類のものでした。それで、私は順川石灰窒素肥料工場の直立炉を回転炉に改造させました。こうして、多少改善されたとはいうものの、いまだにその工場は立ち後れています。

 化学工業部門では、石灰窒素肥料生産についての研究を強化し、らくに働きながらもより多くの肥料を生産し、肥料の窒素含有量もいっそう高めなければなりません。現在の石灰窒素肥料の窒素含有量は16〜17%にすぎません。

 化学肥料の生産を増やすためには、フミン酸の問題を解決しなければなりません。これを解決してこそ豆炭の生産に必要な粘結剤を供給することができます。

 合成ゴム工場を建設すべきです。いま合成ゴム工場の設計は終わっていても投資ができず建設に着手できない状態にありますが、来年には計画に組み入れて建設する考えです。

 中小化学工業をさらに発展させるべきです。

 これまで化学工業部門では、大規模の化学工場の建設にのみ関心を払い、中小化学工場を建設しなかったので、人民経済の各部門で求められているいろいろな化学製品を円滑に生産、供給できずにいます。現在、軽工業部門の工場はもちろん、重工業部門の工場、企業所でも、使用量は少なくても欠かせない染料、接着剤、試薬など、こまごました化学製品を切らして生産を正常化できないありさまです。

 工場、企業所で必要とする各種のこまごました化学製品を円滑に生産、供給するためには、中小化学工場をたくさん建設しなければなりません。各種のこまごました化学製品まで、すべて大きな化学工場で生産、供給することはできません。私の考えでは、清津市と咸興市、新義州市、松林市など大規模な工場、企業所や軽工業部門の工場が集中しており、化学工業基地のあるいくつかの地区に中小化学工場を設置して、すこしずつ要求される各種のこまごました化学製品を生産するようにさせればよいと思います。

 中小化学工場を設けるのは、それほどむずかしいことでもありません。中小化学工場には機械設備にしても大型のものは必要でなく、ただパイプなどを多少のばせばよいのです。1958年の外国訪問のさい、化学工場に行ってみたのですが、その工場でも太くもないパイプのほかは見えるものがありませんでした。

 以前、外国のある製鉄所を見学してきた人が、その製鉄所では中小化学工場をいくつも設け、製鉄所から出る副産物を利用していろいろな化学製品をたくさん生産していたといっていました。

 解放直後、私は金策同志に、あちこちに散らばっている技術者をみな集めるようにといったことがあります。金策同志は私の指示をうけ、全国に散らばっていた技術者を全部集めたのですが、平壌にいた1人の化学技術者だけは小さな化学工場を設けて個人企業を運営することにするといって、彼のいうことを聞かないというのでした。それで、私は金策同志に、その人はまだ思想改造がなされていないのだから、個人企業をやりたいというなら、そうするよう奨励すべきだ、彼が製品を生産しても国内で売るはずであって外国に持ち出して売ろうとはしないだろう、もし外国に持ち出して売ろうとするときは税関で統制すればよいではないかといったものです。その人はその後、しばらく小さな化学工場を設けて染料をはじめ、各種のこまごました化学製品を生産しながら、我々のために結構よく働きました。先の祖国解放戦争のとき、その化学技術者がどうなったのかは確認できませんでしたが、戦後にも消息のないのをみると戦時中に死亡したようです。

 黄海製鉄所のようなところに中小化学工場を設ければ、製鉄所から出る副産物を利用していろいろな化学製品を生産することができるでしょう。南興青年化学総合工場や7月7日化学工場などにも中小化学工場を設ければ、いろいろな化学製品をたくさん生産できるでしょう。

 ある化学工場では電球の生産に必要な窒化バリウムの生産工程を設けるといっているそうですが、結構なことです。他の工場、企業所でも副産物を利用して、緊要に使える化学製品を生産する中小化学工場をたくさん設けるべきです。こまごました化学製品は単独の工場を設けて生産することもできるし、大きな工場、企業所に分工場か職場を設けて生産することもできます。

 中小化学工場は、建物が足りなければ小さな家を1軒空けて設けてもよいし、アパートの下の部屋を一つ空けて設けてもよいでしょう。中小化学工場をいたるところに設ければ、化学製品の種類をいちだんと増やすことができます。

 中小化学工場は、国営としても設け、生産協同組合としても組織すべきです。生産協同組合形態の中小化学工場は、年をとって大規模な化学工場で働けなくなった化学技術者や、化学技術を身につけている帰国同胞を中心にして組織すべきです。

 中小化学工場に対する指導を強めるため、化学工業省に中小化学工業指導局を設けるべきです。中小化学工場に対する管理運営は道経済指導委員会がおこなうので、化学工業省に中小化学工業管理局を設ける必要はありません。化学工業省は中小化学工場に対する指導だけ担当すればよいのです。中小化学工業指導局の定員も多くする必要はありません。人が多いからといって仕事がうまくいくわけではありません。

 中小化学工業を発展させるために、化学工業省に輸出入商社を別個に設置すべきです。そうすれば、生産したものは輸出し、必要なものはそのつど輸入して利用することができます。化学工業省の輸出入商社にひとまず外貨をすこし割り当て、ステンレス鋼板やステンレス鋼管などを買い入れて中小化学工場に提供し、輸入に依存している化学製品を自力で製造できるようにし、それに使われていた外貨では必要な設備を買い入れて工場を充実させる方法で中小化学工場を拡張していくべきです。

 化学工業部門では、南興青年化学総合工場や黄海製鉄所、金策製鉄所など大規模な工場、企業所の副産物を利用すればどのような化学製品を生産することができるかを科学者と協議してみるべきです。

 さしあたり、現在の化学工場をフルに操業させる対策を立てるべきです。

 化学工業部門では、新しい工場の建設をすこし繰りのべ、1984年までは現存の工場の肉づけをしてフル操業させるために努力すべきです。化学工場をフルに操業させるためには苛性ソーダや硫酸の問題を解決しなければならず、そうするには、いま開発中の石灰芒硝工業を発展させることに力を入れなければなりません。石灰芒硝工業を発展させれば、塩を使用しなくても苛性ソーダや硫酸の問題を解決することができます。現在、製紙工場をはじめ、少なからぬ工場、企業所では、苛性ソーダと硫酸が不足して生産を正常化できないありさまです。

 化学工業部門では科学者による研究チームをつくり、石灰芒硝工業を発展させる研究を積極的に進めるべきです。そうすれば、来年から石灰芒硝の加工を大いにはじめることができます。

 化学工業部門では、採掘工業委員会が採掘してくれる石灰芒硝を加工しようとするのでなく、自力で鉱山を開発し、採掘した石灰芒硝を加工すべきです。

 石灰と硝を加工するときに出る石膏はセメント生産に利用すべきです。現在はセメント工場が必要とする石膏を輸入していますが、それだけ自力でまかなえるようになっても大きな問題が解決されたことになります。

 化学工業省の公務員を早急にかためるべきです。以前、化学工業省に在籍していて道経済指導委員会に移った人や工場、企業所の有能な人たちを選抜して化学工業省をかためるべきです。

 連携生産を細部にわたってかみあわせる活動を正確におこなわなければなりません。

 社会主義社会では、連携生産を細部にわたってかみあわせる活動に狂いがあると、経済を正しく運営することができません。

 連携生産を細部にわたって正確にかみあわせておけば、計画を遂行することは十分可能です。

 国家計画委員会は、これから毎年、計画を立てるにあたって、連携生産を細部にわたってかみあわせる活動を正確におこなうべきです。連携生産を細部にわたってかみあわせるようにといわれたからといって、国家計画委員会の定員を増やそうとしてはいけません。以前、国家計画委員会に機構定員が1500名もいたことがありますが、人員をそんなに多くおく必要はありません。

 計画を正確に立てるためには、国家計画委員会の機構定員を増やすのではなく、工場、企業所に計画担当者をおかなければなりません。現在、政務院の委員会、省の各計画局にいる人員では連携生産を細部にわたってかみあわせることがむずかしければ、多少増員すべきです。
 出典:サイト「わが民族同士」 参照:『金日成著作集』37巻

ページのトップ


inserted by FC2 system