金 日 成

幼児の保育・教育事業をいっそう発展させるために
朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第5期第6回会議でおこなった演説
−1976年4月29日−


 私はきょう、最高人民会議が、幼児保育・教育事業について討議する機会に、この問題と関連して、いくつか述べたいと思います。

 我々は、昨年おこなわれた最高人民会議で全般的11年制義務教育にかんする法令執行状況を総括して、1975年9月1日から全般的11年制義務教育を完全に実施する決定を採択しました。このたびの最高人民会議では、我が国で実施されている先進的な幼児保育・教育制度をいっそう発展させる問題を討議し、幼児保育・教育法を採択することになります。

 我が党が幼児を保育、教育する事業に深い関心を払い、大きな力を入れているのは、我が国が外国よりも特によい暮らしをしているからでも、富裕であるからでもありません。また、なにかの宣伝のためでもありません。

 我々は社会主義・共産主義を成功裏に建設するために、幼児を保育、教育することに深い関心を払っており、この事業に大きな力をそそいでいるのです。

 社会主義制度が樹立されたのち、旧社会の遺物を徹底的になくし、社会主義の完全な勝利を達成して共産主義を実現するうえでなによりも重要なのは、人びとの思想を共産主義的に改造することです。特に、我が国のように、かつて植民地であった国、立ち後れていた国では、人びとを教育改造する問題が非常に重要です。

 私が既に過渡期とプロレタリアート独裁問題にかんする演説で述べたように、かつて立ち後れていた国では、資本主義から社会主義へ移行する過渡期がたいへん長くなります。過渡期が長いほど、人びとを教育することはいっそう重要な問題として提起されます。過渡期に人びとの思想・意識を改造しなければ、社会主義の完全な勝利を達成することができず、共産主義社会を成功裏に建設することもできません。

 我が党は、社会主義・共産主義を成功裏に建設するために、2つの要塞、すなわち思想的要塞と物質的要塞を占領するという方針をうちだしています。

 共産主義建設の2つの要塞を占領するうえで、思想的要塞を占領することがなによりも重要です。人びとの思想・意識を共産主義的に教育改造する事業、共産主義の思想的要塞を占領する事業は非常に困難な事業であり、長期的な事業です。また、思想的要塞を占領しなければ、物質的要塞も成功裏に占領することはできません。もちろん、経済を発展させ、物質的富を蓄える事業はある程度早めることができます。しかし、人びとの思想・意識水準が経済発展水準についていけないならば、既にきずきあげた経済的土台を破壊し、経済建設を後退させることになりかねません。したがって、人びとを共産主義的に教育改造し、思想的要塞を占領することを第一義としなければならないのです。

 人びとを共産主義者に育てあげるためには、子供のときから立派に育てなければなりません。

 我が国のことわざに、三つ子の癖は80まで、というのがあります。子供のときによく教育せず、悪い癖がつくと、大きくなってそれを直すのはむずかしいものです。樹木をまっすぐに育てるにも、苗木のときからよく世話をしなければなりません。苗木のときには放置しておいて、まがって育ったあとでまっすぐにしようとすれば、多くの労力を費やさなければなりません。これと同じように、人びとを共産主義者に育てるためには、子供のときから正しい教育をして、立派に育てなければなりません。子供のときに悪い癖がつくと、大きくなっていくらよい教育をしてもなかなか直りません。我々の社会で秩序を乱したり非行に走るような人がまだ時おりいますが、そのような人をみると、例外なく子供のときに正しい教育をうけられなかった人たちです。

 我々は、育ちゆくすべての新しい世代を立派な共産主義者に育てるため、すでに全般的11年制義務教育を実施し、今度はまた幼児保育・教育法を採択します。新しい世代を子供のときから集団的に育て、11年制義務教育をほどこすならば、かれらはみな、健全な思想・意識をもった共産主義者に育つようになるでしょう。

 さきほども話しましたが、我が国は富裕でこのような事業をするのではけっしてありません。ここ数年のあいだ11年制義務教育を実施して、子供たちをすべて託児所、幼稚園であずかって育ててみましたが、国家の負担はたいへんなものです。

 いま我が国の託児所、幼稚園で保育されている子供は350万名です。そして、人民学校から大学にいたる各級学校で学ぶ学生・生徒は509万名になります。結局、我が国で国家の負担で育っている幼児と学生・生徒は約860万名にものぼります。これは我が国の人口の半数をしめています。人口の半数をしめる子供と学生・生徒を国家が引き受けて育てるということは、大きな負担にならざるをえません。

 我が国には、このほかにも国家で負担する事業がたくさんあります。我が国では、軍事費の負担が少なくありません。社会主義国のなかでは、我が国の軍事費負担が最も多いと思います。アメリカ帝国主義者が国土の半分を占領しており、かれらとその手先が我が共和国にたいする侵略策動を露骨化している状況にあって、我々は国防力を強化することに力をそそがないわけにはいきません。人民の生活を保障するためにも国家が多くの負担をしています。我々は労働者、事務員に食糧をほとんど無料で供給し、石炭をはじめとして生活に必要なすべてのものを低い価格で保障しています。

 我々は、たとえ負担が大きくても、国の未来の発展のために、過渡期の任務を遂行するために、子供たちを保育、教育する事業に大きな力をそそいでいます。まんいち、我々が負担のみを考えて、当然するべき幼児保育・教育事業を正しくおこなわないならば、過渡期の任務を完遂することも、思想的要塞を占領することもできず、結局は共産主義社会を建設することができなくなります。

 我々はこの数年間、国家と社会の負担によって子供たちを集団的に保育、教育する事業をおこなう過程で多くの成果をおさめました。これなら幼児保育・教育事業でおさめた成果を法的に固定化しても大丈夫であるという確信をもって、今回の最高人民会議で幼児保育・教育法を採択することにしたのです。

 我々が今回の最高人民会議で幼児保育・教育法を採択する基本的目的は、一言でいって、子供たちを集団的に共産主義的方法で保育、教育して、かれらをみな真の共産主義的人間に育てあげることにあります。

 子供たちを国家と社会の負担によって集団的に育てることは、女性を家事の重い負担から解放し、彼女らを革命化、労働者階級化するうえでも重要な意義をもっています。

 いま我が国では、女性が革命の片方の車輪の役割をになっています。我が国の人民経済の労働力構成で女性のしめる比重は48%になります。女性は教育、保健医療、商業、軽工業の各部門で重要な役割を果たしているのです。特に農業部門では、女性が労働力の絶対多数をしめ、決定的な役割を果たしています。いま農村では、トラクターは男性が運転し、他の仕事はすべて女性がおこなっているといってもいいすぎではありません。

 女性が社会主義建設に参加する状況のもとで、彼女たちの家庭の負担を軽減しなければなりません。そうしてこそ、女性が社会に進出し、自己の能力をフルに発揮して働き、より多くの女性が社会主義建設に参加することができるのです。

 我が党が女性を社会主義建設に大いに参加させるのは、彼女たちを革命化、労働者階級化するという重要な目的があるからです。女性は人口の半分をしめるのですから、全社会を革命化、労働者階級化するうえで、女性を革命化、労働者階級化するのはたいへん重要なことです。

 女性を革命化、労働者階級化する重要な方途は、社会主義建設に彼女たちを積極的に参加させることです。女性が労働生活も組織生活もしないで家庭にとじこもっていては、革命化されません。家庭で夫が妻を教育し、革命化するというのはたいへんむずかしいことだと思います。革命化は、言葉や文章だけでできるものではありません。人びとを革命化、労働者階級化する事業は、社会主義労働生活と組織生活をつうじてのみ成功裏に進めることができます。女性が社会に進出し、精神労働や肉体労働にすすんで参加し、組織的な集団生活をつうじて鍛えられてこそ革命化、労働者階級化されるのです。

 女性を社会主義建設に積極的に参加させるためには、子供を託児所と幼稚園で集団的に育てて、女性の負担を軽くしなければなりません。

 このように、子供を国家と社会の負担で集団的に保育、教育することは、かれらを真の共産主義的人間に育てるために必要であるだけでなく、女性を革命化、労働者階級化するためにも切実に必要なことなのです。したがって我々は、子供を共産主義的に保育、教育する事業を負担の多い少ないにかかわりなく、必ずおこなわなければなりません。

 我が国で国家と社会の負担で子供を集団的に保育、教育することは慈善事業でもなく、資本主義社会で金持ちの子供をあずかって育てることとも根本的に違います。我々は、勤労女性の子供を保育、教育することに重点をおいており、新しい世代を共産主義的人間に育成し、女性を革命化、労働者階級化することに目的をおいてこの事業をおこなっています。私は、我が党のおこなっている幼児保育・教育事業は極めて正当であると思います。

 我々は、これまで子供を共産主義的に保育、教育する事業で達成した成果と経験を総括し、法的に固着させ、それにもとづいて幼児保育・教育事業をより立派におこなわなければなりません。法は、固定不変のものではありません。このたび幼児保育・教育法を採択して実施しますが、不合理な点があれば是正すればよいでしょう。

 幼児保育・教育事業の発展で提起される最も重要な問題は、保育員、教養員の養成事業を立派におこなうことです。

 現在、各道に保育員、教養員を養成する大学と養成所がありますが、将来これをより立派に運営し、子供の保育、教育に必要な政治的・実務的資質を十分にそなえた保育員、教養員をたくさん養成しなければなりません。そうしてこそ、子供を革命的に教育し、知・徳・体を兼備した共産主義的人間に育てあげることができます。

 次に、託児所、幼稚園の管理運営事業を改善すべきです。そうして、子供たちを託児所、幼稚園で集団的に育てることが、家庭で両親が育てるよりもすぐれていることを示さなければなりません。

 現在、我が国に6万余の託児所と幼稚園がありますが、すべてが充実したものです。すべての託児所、幼稚園の施設と設備が十分にそなわっており、その管理運営事業も正しくなされています。協同農場や工場にある託児所は、いずれも清潔に整備されており、子供たちも健康に育てています。協同農場や工場で託児所、幼稚園を立派に整備し、正しく管理運営しているので、女性が非常に喜んでいます。いま全般的に託児所、幼稚園の状態はよいといえます。

 しかし、我々はこれに満足してはならず、今回の最高人民会議で幼児保育・教育法を採択したのち、託児所、幼稚園をさらに充実させ、よりよく管理運営しなければなりません。

 いまは、託児所、幼稚園を衛生的により立派に整備し、子供たちに栄養剤を十分に供給することが重要な問題として提起されています。すべての託児所、幼稚園に文化衛生施設を完備し、それを立派に管理運営するようにしなければなりません。これとともに託児所、幼稚園への栄養剤供給事業を改善し、子供たちに十分に食べさせなければなりません。我々がたとえ他のことはできなくとも、子供たちにはよく食べさせなければならず、成人には少し足りないものがあっても、子供たちにはすべてを十分に保障しなければなりません。

 幼児保育・教育法の施行後、幼児保育・教育事業を発展させるからといって、おばあさんや両親が家で育てたいという子供まで無理に託児所に入れる必要はありません。幼児保育・教育法は、両親が家で子供を育てる自由をおさえつける法ではありません。自分の家で子供を育てたい人は、家で育ててもよいのです。

 多くの保育員、教養員が今度の最高人民会議で討論する準備をしてきたと思います。しかし、いまは農繁期であり、会議を長びかせることはできません。保育員、教養員のみなさんが準備した討論は、別の機会に開くことにして、会議をこれで終えようと思います。多くの討論ができなくなったことについて理解してほしいと思います。

出典:「金日成著作集」31巻

 参照:金日成主席が、1967年5月25日に朝鮮労働党の思想活動部門の活動家におこなった演説「資本主義から社会主義への過度期とプロレタリアート独裁の問題について」


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