金 日 成

農村テーゼの完全な実現のために提起される
いくつかの問題
朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第5期第4回会議でおこなった演説
−1974年11月29日−


 同志のみなさん!

 私は、今回の最高人民会議では演説を予定していませんでした。ところが代議員の発言で、協同農場を全人民的所有に移す問題が提起されたので、これについて簡単に述べようと思います。

 きのう発言した江西(カンソ)郡青山(チョンサン)協同農場の管理委員長も、協同農場を全人民的所有に移す問題を提起しており、きょう発言した文徳(ムンドク)郡立石(リプソク)協同農場の管理委員長も同じことを提起しました。

 青山協同農場や立石協同農場ばかりでなく、ほかの協同農場でも協同的所有の全人民的所有への移行を提起する人がかなりいます。最近いくつかの協同農場に行ってみたところ、多くの協同農場員がいまでは穀物や現金の分配をたくさんもらっても使い道がない、収入をみな国家におさめるから労働者のように賃金がもらえるようにしてほしいと言っています。

朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第5期第4回会議で演説する金日成主席
1974年11月29日

 こんにち、我が国の協同農場員は、みなよい暮らしをしています。我々は停戦直後に、農民の生活水準を中農の水準に引き上げることを重要な目標としましたが、この目標は既に達成されました。

 かつて我が国の中農のなかには、春の端境期まで食糧を切らさなかった人はいくらもいませんでした。いまの若い人は春の端境期に食糧を切らすという言葉の意味がよくわからないと思いますが、前年の収穫だけでは新穀の出まわるまで食糧がつづかないということです。こんにち、我が国の農民の生活水準はかつての中農水準はもちろん、富裕な中農水準よりも高いといえます。

 昨年、農村の支援に行ってきた総合大学の学生の話によると、協同農場のある婦人農場員は中学校にかよっている息子が平壌(ピョンヤン)見学に発つとき、小遣いに百ウォン札2枚を持たせてやったとのことでした。これは重労働部門で働く労働者の1か月分の賃金に相当する額です。いま農民の生活は、生徒の小遣いに百ウォン札を何枚も持たせる水準なのです。

 今年、多くの協同農場で共同フォンドと食糧を除いても、農場員一人当たり月平均2百ウォンの現金が配当される見こみです。これは、協同農場員の現金収入が労働者の賃金よりもはるかに多いことを示しています。

 農民の生活水準が非常に高くなり、多くの農民が協同農場を全人民的所有に移すことを要望している実情からすれば、我が国において協同農場を全人民的所有に移すことはある程度機の熟した問題だとみることができます。しかし、これは慎重を期する問題だと言わなければなりません。

 農村において協同的所有の全人民的所有への移行は非常に重大な問題です、協同的所有の全人民的所有への移行は、かつて我が国でおこなわれた土地改革や農村の農業協同化に匹敵する大きな出来事であります。

 協同的所有の全人民的所有への移行は、我が国のすべての協同農民が願っている最高の目標です。しかし、願望だけで問題は解決されません。

 協同的所有を全人民的所有に移行させるためには、必ず2つの重要な問題が解決されなければなりません。

 第1に、協同農民が利己主義思想を一掃し、集団主義思想で武装しなければなりません。言いかえれば、すべての農民が個人の利益よりも集団と社会の利益を重んじ、集団と社会の利益のなかに自分自身のそれも含まれているということを明確に認識し、集団と社会のために献身できるように準備されなければなりません。

 今回の最高人民会議では多くの人が、いまては農民の思想・意識が全人民的所有に移行できるほど改造されたと発言しました。農民の思想・意識水準が高まったというのはたいへんよいことです。我が党は農民の革命化、労働者階級化のためにたたかっており、すべての農民が一日も早く共産主義思想で武装することを求めています。党中央委員会は農民の思想・意識水準が高まったことをうれしく思います。

 我が国の農民の思想・意識水準が高いということは、外国と我が国の化学肥料の成分量1キログラム当たりの穀物生産量をくらべた統計資料を分析してみてもよくわかります。現在オランダ、フランス、西ドイツなどヨーロッパの資本主義諸国では、化学肥料の成分量1キログラム当たりの穀物生産量が25キログラムにしかなりません。ところが、我が国ではそれが35〜40キログラムに達しています。これは我が国の農民の思想・意識水準が資本主義国の農民よりもはるかに高く、我が国の農民が共同労働に誠実に参加していることの物資的な証拠です。

 我が国の農民の思想・意識水準が高まったことは事実ですが、まだ全人民的所有制を実施できる程度にいたっているとみなすわけにはいきません。いまでも、一部の農民は共同経営にたいする主人としての態度に欠けており、社会のため一生懸命に働こうという心構えが十分でありません。我々は農民の思想・意識水準を共産主義の尺度ではかり、あれこれの角度からよく検討してみなければなりません。

 農民は長いあいだ私的所有の枠のなかで暮らしてきたため、かれらの頭に残っている個人主義思想は非常に根強いものかあります。

 労働者階級には、もともと私的所有がありません。労働者は素手で工場に入ってきた無産者です。労働者に個人所有があったとすれば、それは服やとるに足らない家具だけで、少しましな場合、まれに家を持っている人がいましたが、それもわずかにすぎません。

 しかし、農民は労働者階級と事情が違います。我が国の農民のなかには、かつて自分の土地を持っていた人もおり、土地がなかった人も大部分自分の家と簡単な農機具は持っており、解放後にはみな土地を持つようになりました。ごく一部の現象ではありますが、社会主義的農業協同化のとき、解放後土地の分与をうけた農民のなかには農業協同組合への加入をためらう人がいました。このこと一つをみても農民の小所有者的根性、利己主義思想がいかに根強いものであるかがよくわかります。農民の頭に根強く残っている利己主義思想を完全になくすというのは非常に困難なことであり、短期間には解決できないことであります。

 農業生産は、工業と区別される特徴をもっています。

 工業では毎日、毎月生産品が出るので労働の結果をそのつど正しく評価できますが、農業では生産物が年に1度しか出ないため、年間の農作がすんでからでなければ、労働の結果を正しく評価することができません。それに工業ではある日の計画が遂行できなくても翌月に挽回できますか、農業ではひとたび時期をのがせは挽回がきかず、1年の農作が台無しになります。農業生産のこのような特徴は、農民が労働者よりもいっそう高度の自覚をもって働くことを必要とします。特に、まだ農業生産には手労働が多く、季節的制約も大きいため、農民が自覚的熱意をもって働き、手間を多くかければ、収穫高はそれだけ上がり、そうしなければ収確高はそれだけ落ちます。

 このように農民の思想・意識は、農業生産と共同経営の発展に決定的な影響を及ぼします。したがって、協同経営を全人民的所有に移行させるためには、なによりもまず農民の思想を共産主義的に改造する問題が解決されなければなりません。

 農民が共産主義思想で武装する前に、協同的所有を全人民的所有に移せば、かえって好ましくない結果をもたらすおそれがあります。

 今年、国営安岳(アンアク)農場では、稲のヘクタール当たり収穫高が6トン800キログラムにしかなりませんでした。これは江西郡青山協同農場や文徳郡と粛川(スクチョン)郡の協同農場よりもはるかに低い数字です。国営安岳農場は土地も肥えており、国家からトラクターも大量に割り当てられ、農作業の機械化も高い水準に達しています。昨年そこへ行ってみましたが、農作業の総合的機械化は既に実現され、農場労働者の生活水準も高いものでした。国営安岳農場がほかの協同農場よりも収穫の落ちる理由はなにもありません。この農場のへクタール当たり収穫高が低い原因は、農場の労働者が協同農場員ほど熱心に働かなかったという以外にありません。全人民的所有制の場合、農場の労働者が熱心に働こうと働くまいと賃金が支払われ、生活にも心配がないので、思想教育を正しくおこなわないと協同農場員のように熱心に働こうとしません。

 以前、大同(テドン)郡可庄(カジャン)協同農場は、経済的土台が弱くて農場員の暮らしが困難だというので、かれらの生活を早くもりあげるために、この協同農場を国営農場に切りかえ、国家から資金や機械もたくさん供給するようにしました。ところがこの協同農場が国営農場に切りかえられると、農場で働いていた女性たちが農場から一人ひとり離れていきました。それは託児所の施設が悪いからでもなく、ほかの理由があってのことでもありません。託児所の設備も立派にととのっており、ほかの条件も以前よりよくなったにもかかわらず働きに出ようとしませんでした。これは、彼女たちか働かなくても夫が賃金をもらい、夫の扶養家族として食糧の供給もうけ、生活の心配がなくなったからです。3年かあとにこの国営農場を再び協同農場に切りかえたところ、仕事をしなかった女性たちが働きに出ました。これは、いまだに農民の思想・意識が後れており、農民のなかに働かずにに遊んで暮らそうとする思想が残っていることを一つの実例です。

 既に10年以上、雄基(ウンギ)郡、龍淵(リョンヨン)郡、コワイル郡などで、郡単位の全人民的所有制をテストケースとして実施していますが、長所もあれば短所もあります。

 雄基郡では農業、牧畜業、水産業、地方産業をはじめ、郡内のすべての地方経済を総合的に管理運営しているので、労働力を集中的に利用できるという長所があります。漁獲期には農業部門の労働者もすべて海に行って魚を捕り、農繁期には水産部門の労働者までみな野良仕事を手伝うので、農業も水産業もうまくいきます。

 しかし、国営農場の労働者は、国家財産の愛護と管理の面でまだ協同農場員よりは劣ります。協同農場ではトラクターなどを使えば使っただけ使用料を国家に払い、不注意から共同財産を破損したときには、農場員の稼ぎのなかから差し引きます。そうなれば協同農場員の分配がそれだけ少なくなるわけです。それで協同農場員は、国家の財産や協同農場の財産を雑に扱ったりしません。しかし、国営農場の場合、国家が営農機材をすべて供給しており、もし国家財産を破損して農場が補償するとしても、労働者の賃金には大して影響がないため、労働者の国家財産にたいする愛護精神が強くありません。協同農場では管理幹部が私用でトラックを遠くまで走らせることはあまりありませんが、国営農場では農場の働き手がちょっとしたことにもトラックを乗用車のように乗りまわしています。

 これらの事実は、農民の思想・意識水準がまだ全人民的所有制に移行する程度にまでいたっていないことを示しています。それゆえ協同的所有を全人民的所有に移行させるためには、農民のあいだで思想革命を強化し、かれらの思想・意識水準をたえず高めなければなりません。

 協同農場を全人民的所有に移すためには、農民の思想・意識水準を高めるとともに、農業生産を高度に機械化しなければなりません。

 人間の思想・意識の改造は物質的基礎と関連しており、社会の生産関係は生産力の発展水準と関連しています。したがって、農業生産力の発展は、協同的所有の全人民的所有への移行のための重要な条件となります。農業生産を高度に機械化、電化、化学化して農業における手労働を著しく減らし、基本的な農業労働をすべて機械や化学や電気の力でおこなうようになれば、協同農場を全人民的所有に移す物質的土台がととのったといえます。

 青山協同農場をはじめ、農業の機械化が高い水準に達した協同農場が少なくありません。しかし、機械化の水準では我が国で高いほうに属する青山協同農場にしても、機械化を完成するのはまだまだです。

 いま青山協同農場では水田1ヘクタールの耕作に70〜80工数かかるといいます。これは一人の農場員が4へタタールの水田を耕作することになります。しかし、一部の協同農場では農場員一人当たり1ヘクタールしか耕作していません。言いかえれば、水田1ヘクタール当たり300工数の労働力を費やしています。協同農場を全人民的所有に移すためには、少なくとも農場員一人当たり水田は5〜6へタタール、畑は10へタタール耕作できる程度に農業の機械化水準を高めなければなりません。

 農業の機械化水準が非常に高いところもあります。今年の農業大会で、農場員一人当たり10へタタールの畑を耕作させると発言した殷栗(ウンリュル)郡長連(チャンリョン)協同農場の女性作業班長は、その決意を立派に実行しました。今年、殷栗郡長連協同農場の第10作業班では、農場員一人当たり10へタタールの畑を耕作し、トウモロコシをヘクタール当たり10トン300キログラム生産したとのことです。

 いま国営第5号総合農場でも、一人当たり10へタタールの畑を耕作しています。国営第5号総合農場のヘクタール当たりの収穫高は、平野部よりは少し落ちますが、高原地帯のうちではいちばん高いほうです。

 長連協同農場第10作業班や国営第5号総合農場の経験からすれば、農場員一人で10へタタールの畑を耕作するのは十分可能です。これは、我々が長いあいだの実験にもとづいて得た確固たる結論です。

 我が国の農業生産を高度に機械化するためには、農村にトラクターをはじめ、農業機械をもっとたくさん提供しなければなりません。私の考えでは、耕地100へタタール当たり少なくとも千里馬(チョンリマ)号トラクター7〜8台、小型トラクター3〜4台、合わせて10〜12台は必要です。トラクターとともに、連結農業機械をはじめ、各種の農業機械もたくさんなければなりません。荷物の積み下ろしに使う機械や肥料散布機、畦作りの機械もなければなりません。毎年田植えどきになると、トラクターが田をすきかえすときに壊した畦を補修するため多くの手間をかけていますが、これを機械化しなければなりません。また手間の多くかかる苗取り作業も機械化しなければなりません。

 農業の機械化を円滑に実現するためには、農村にトラクターをはじめ、農業機械類を多く送るだけでなく、耕地整理を正しくおこなわなければなりません。耕地整理をおこなって小区画の畑をなくさなければ、機械を田畑に入れることができません。

 しかし、耕地整理を短期間におこなうのは困難なことです。耕作をせずに畑を遊ばせながら耕地整理をおこなうわけにはいかず、耕作しながら耕地整理をおこなうのですから、期間がいくらもありません。秋の取り入れ後2か月、春のすきおこし前の1か月、このように年間耕地整理の可能な期間はせいぜい3か月しかありません。耕地整理の期間が短いだけでなく、耕地整理に必要な豊年(プンニョン)号トラクターも多くありません。したがって、農業の完全な機械化ができるように耕地整理をすべて終えるには相当の期間がかかります。

 耕地面積100へタタール当たりのトラクター台数を増やし、必要な連結農業機械を供給するのは比較的短期間にできます。しかし、トラクターや農業機械を供給しても、耕地整理をおこなって農業機械を効果的に利用できるようにするまでには、まだ相当の期間がかかります。

 我々は既に以前から、社会主義・共産主義を建設するためには、思想的要塞を占領するたたかいと物質的要塞を占領するたたかいをともにおし進めなければならないと強調してきました。これは革命と建設での歴史的経験にたいする深い分析にもとづいて提起した科学的な理論です。

 協同的所有を全人民的所有に移行させるためには、農民の思想・意識を高める問題と、農業生産を高度に機械化する問題がともに解決されなければならないので、我が国においてすべての協同農場を全人民的所有に移すのはまだ時期尚早だといえます。

 だからといって、このたびの最高人民会議で発言した代議員の意見を黙殺する必要はありません。私の意見は、農民の思想・意識水準と機械化水準の高い協同農場からまずテストケースとして全人民的所有に切りかえ、思想的準備と物質的準備がそなわるにつれて徐々に協同的所有を全人民的所有に移そうというのです。

 我々は農業を社会主義的に改造するときにも、まず実験的段階をへて漸進的な方法でおこなったので、なんの偏向もおかすことなく農業協同化を順調に完遂することができました。協同的所有の全人民的所有への移行も、農民の思想・意識水準と機械化水準の高い協同農場をいくつか選んでテストケースとしておこなったのち、徐々におこなうようにしなければなりません。どこの協同農場を全人民的所有に移すかは党中央委員会と政務院で慎重に検討して決定すべきです。

 実験的段階ではまず、全人民的所有に移行する協同農場で社会主義的分配の原則を厳守することが極めて重要です。労働の質と量に応じて分配する社会主義的分配の原則が厳格に守られなければ、農村に怠け者が生まれます。協同的所有の全人民的所有への移行を偏向をおかさずにおし進めるためには、実験的段階で社会主義的分配の原則を厳守しなければなりません。実験的段階では、いま協同農場でおこなっている分組管理制と作業班優遇制をひきつづき実施するのがよいでしょう。

 協同的所有を徐々に全人民的所有に移すための一つの措置として、協同農場で共同フォンドを現在よりさらに増やす必要があると思います。いま協同農場の共同フォンドの比率は少し低いようです。協同農場で共同フォンドを増やして国家の負担を減らすようにしなければなりません。そうすれば今後、国家から農村にトラクターやトラックもさらに多く送れるし、連結農業機械もより多く送れるようになります。

 協同経営を全人民的所有に移すには、農場の規模を現在より少し大きくする必要があります。

 将来、全人民的所有制になれば、いま協同農場で使っているトラクターは完全に農場の管理下に移るようになりますが、農場の力だけでトラクターの技術管理が十分におこなえるかが問題です。いまは郡が技術者や修理工場を管下におき、トラクターを統一的に管理しているので、技術管理が立派におこなわれていますが、トラクターを各農場に分けると、修理基地もなく技術陣も弱いので、技術管理がうまくいかず、トラクターを休ませるおそれがあります。だからといって各農場に修理基地をつくるわけにもいかず、多くの技術者をすぐに準備することもできません。

 農場自体でトラクターの整備や修理がおこなえるようにするには、郡を単位として一つの農場をつくるか、そうでなければ一つの郡を3つぐらいに分けて、農場を少し大きくする必要があります。テストケースとして、平壌市三石(サムソク)区域全体の協同農場を3つにして運営していますが、このように農場を大きくすれば農場自体でトラクターの技術管理を立派におこなうことができます。

 協同的所有を全人民的所有に移すためには、農村テーゼが提起した方針どおり文化革命を力強くおし進めて、農村で農業技術者、機械技術者、電気技術者などの技術陣を拡大しなければならず、農民の全般的技術・文化水準を高めなければなりません。学校でも技術教育を強化し、高等中学校を卒業すれば誰でもトラクターや自動車の運転ができるようにしなければなりません。

 つぎに、協同的所有の全人民的所有への移行を成功裏に実現するために提起される重要な問題の一つは、郡づくりを立派におこない、その役割を高めることです。

 協同農場の全人民的所有への移行は、郡を単位として進めなければなりません。郡は我が国において農業の指導に最も適した単位です。

 もちろん、協同的所有を全人民的所有に移すうえであらわれうる偏向を事前に防ぐため、テストケースとして、まずいくつかの農場を全人民的所有に移すことは必要です。しかし、協同農場の全人民的所有への移行は、あくまでも郡を単位として進めなければなりません。郡内の協同農場のうち、ある農場は全人民的所有に移し、ある農場は協同的所有としてそのまま残しておくなら、いろいろ不合理な点が生じるでしょう。

 たとえば、江西郡内の10か所の協同農場のうち、青山里や岑進(チャムジン)里など進んだ5つの農場は全人民的所有に移し、残りの5つの農場は協同的所有としてそのまま残しておくとすれば、同じ郡内に農業にたいする2つの物質的保障体系と2つの指導体系がなければならず、そうなれば非常に複雑になり、また農業の統一的な指導管理にも困難が生じるでしょう。

 したがって、立ち後れた農場を早くもりたてて郡内のすべての協同農場を均衡的に発展させ、郡を単位として全人民的所有に移すのを基本にすべきです。

 郡を単位として全人民的所有に移すには、郡をいっそう立派にととのえ、郡の役割を高めることが極めて重要です。

 いまなお郡の物質的・技術的土台は全般的に弱い状態にあります。このことは、今年急増した穀物の処理を適時におこなえないことにはっきりあらわれています。

 今年、我が国の穀物生産は昨年にくらべて飛躍的に増え、多くの協同農場で穀物生産が2倍、またはそれ以上に増大しました。これは非常に驚くべきことです。しかし、農業生産のこのような急速な増大に、国家の物質的条件の保障が追いつけないでいるありさまです。協同農場には穀物をそのつど運ぶ運搬手段も足りず、穀物倉庫も不足し精米所の能力も十分でありません。特に、協同農場の脱穀能力が非常に緊張しています。

 現在、協同農場の各作業班にある脱穀機では、日に籾米を10トンしか脱穀できません。一つの作業班に水田が平均120ヘクタールあるとみて、ヘクタール当たり籾米が10トンとれたとすれば、一つの作業班で脱穀する籾米が1200トンになります。日に10トン能力の脱穀機で1200トンの脱穀を終えるには120日で、4か月かかることになります。脱穀の日にちが長びけば多くの穀物が失われるようになります。初歩的な計算によっても、適時に脱穀できないため、ネズミやスズメに食われたり、稲束を何回も移しかえるうちに落ちたりしてなくなった籾米だけでも、毎年15万〜20万トンにのぼるとのことです。

 協同農場の乾燥場の能力もたいへん不足しています。それで穀物の乾燥が間に合わず、湿気のあるものをそのまま倉庫におさめなければならないありさまです。以前は穀物が足りなくて困りましたが、いまは穀物が多すぎて困っています。

 これらの事実は、農業の物質的・技術的土台をきずくうえでまだ未解決の問題が多いことを物語っています。

 農業生産を保障するための郡の物質的・技術的土台がしっかりきずかれていないだけでなく、郡党や郡協同農場経営委員会の指導水準もまだ農民の熱意にくらべて立ち後れています。言いかえれば、郡の政治的・思想的指導と技術的指導がまだ農民の要求をみたしていないのです。

 郡党および郡協同農場経営委員会が指導を立派におこなって、郡がその役割を正しく果たしているところではすべての仕事が順調に運び、そうでないところでは仕事がうまくいっていません。

 平安(ピョンアン)南道の今年の農作がほかの道よりも好成績だったのは、郡党と郡協同農場経営委員会の幹部が仕事を立派におこなったからです。今年、平安南道内の郡の活動家はみな作業服を着て現地に行き、ほとんど泊りこみで協同農場を指導しました。平安南道内の農業勤労者は、郡の活動家の指導のもとにトラクターをはじめ、農業機械を効果的に利用し、党の政策を貫くために献身的にたたかった結果、今年高い収穫をおさめたのです。

 今年、平安南道ではいちばん山奥の新陽(シンヤン)郡、陽徳(ヤンドク)郡、孟山(メンサン)郡、大興(テフン)郡のようなところでも豊作をおさめました。今年これらの郡では、党の指示どおりトウモロコシの栄養ポットを100%導入しました。これはけっして簡単なことではありません。ほかの道などではトウモロコシの栄養ポットを多く導入せず、ほんのわずかしか導入しなかったところもありました。平安南道の山奥の郡でトウモロコシの栄養ポットを全部導入した事実だけをみても、これらの郡の幹部や農場員が党の政策を実行するため、いかにねばり強く取り組んだかを知ることができます。

 常々言っていることですが、我が国で昌城(チャンソン)郡より土地の悪いところはありません。昌城郡にあったよい土地は水豊(スプン)湖をせき止めたときに水底に沈み、いまある畑はほとんど勾配のきつい傾斜畑だけです。しかし、今年、昌城郡でも豊作をおさめました。これもやはり昌城郡の幹部が協同農場に行って対人活動を立派におこない、農業生産にたいする技術指導を正しくおこなったからです。

 農業を発展させるための党の路線と方針は、既に明白に示されています。我が党は既に十年前に『我が国における社会主義農村問題にかんするテーゼ』をうちだしており、同年3月に開かれた最高人民会議第3期第3回会議では、テーゼの課題を実行するための法令も採択されました。農村テーゼの正しさは、過去十年間の誇らしい総括をつうじてはっきりと証明されました。

 我が党によって新たな農業指導体系も確立きれました。郡協同農場経営委員会を基本とする新たな農業指導体系と企業的指導方法の優位性も実践をつうじて立証されました。

 我が党は正しい路線と方針をうちだしただけでなく、それを正しく貫くよう下部の活動家をたえず援助し導きました。我が党は郡の幹部を毎年中央に集めて教育を与えたり、直接郡に行って援助したりしました。どの道、どの郡をとわず、我が党の直接の指導が及んでいないところはありません。

 かつて、党ではすべての郡にひとしく路線と方針を示し、すぐれた経験もひとしく教えて、直接指導もひとしくおこないましたが、ある郡では農作で成果をおさめ、ある郡では不成績でした。問題は郡党組織が党活動を正しくおこなうかどうか、対人活動、すなわち幹部との活動、農民との活動を正しくおこなうかどうかにかかっており、郡協同農場経営委員会が農村にたいする物質的保障と技術指導を正しくおこなうかどうかにかかっています。いくら立派な党の文献や国家の法令が出ても、それを実行するための組織活動と政治活動をおこなわなければ、それはただの紙切れにすぎず、いくら立派な農業指導体系を確立しても、幹部が熱心に働かなければその優位性は発揮されません。

 我々は、既に以前から郡づくりを立派におこない、その役割を高めるよう強調してきました。協同的所有を全人民的所有に移す問題が日程にのぼったこんにち、郡づくりを立派におこない、その役割を高めることはいつにもまして切迫した問題として提起されます。

 我々は、郡党と郡協同農場経営委員会の活動をさらに強化しなければなりません。そうして郡が農業にたいする政治的・思想的指導と技術的指導をいっそう立派におこなうようにしなければなりません。

 これとともに、郡の物質的・技術的土台をいっそう強固にきすかなければなりません。

 まず郡の輸送能力を強化すべきです。

 最近、山間部の協同農場を見てまわりましたが、輸送手段が足りなくて、トウモロコシがまだ畑にそのまま積んでありました。平野部の水田にも稲束がたくさん積まれています。今年はヘクタール当たり10トンの収穫をあげた作業班が多いのですが、一つの作業班に120へタタールの水田があるとみて籾米とわらだけ運ぶにしても物流量が2400トンにのぼります。この多くの物流量をいま協同農場にあるトラクターではとうていさばくことができません。現有のトラクターで運搬作業ばかりするわけにもいきません。トラクターは土が凍る前にすきかえしもしなければなりません。

 それゆえ郡の輸送能力を高める決定的な対策が必要です。農村で急速に増大する運搬量を適時にさばくことができるよう、国家でトラックをさらに多く生産して供給し、郡のトラック輸送能力をいっそう高めるべきです。

 郡にトラクター修理基地もしっかりときずかなければなりません。

 我が国の協同農場にトラクターが少なく配置されているわけではありません。協同農場にトラクターは多いのですが、部品の供給が十分におこなわれていないため利用率が高くありません。いま協同農場にある多くのトラクターはタイヤや部品がなくて稼働できない状態です。

 現有のトラクターを適時に修理して利用する対策をたてようとせず、いたずらにトラクターの台数を増やすだけでは役に立ちません。各郡に郡内のトラクターを修理できる修理基地を立派にきずかなければなりません。

 農村への商品供給を円滑におこなえるように、郡の地方産業もいっそう発展させなければなりません。

 生活水準の向上につれて、農民は良質の服や靴だけでなく、洗濯機、冷蔵庫、ミシン、テレビ、自転車のような高級家具類や良質の日用品を多く求めています。このような農民の需要を中央直轄工業で生産されるものだけで円滑にみたすことはできません。それゆえ各道に穀物加工工場を立派につくるとともに、自転車工場もつくり、ミシン、洗濯機、冷蔵庫の生産対策を立て、各郡に食料品加工工場をはじめ、各種の地方産業工場をより多く建てるべきです。

 郡の物質的・技術的土台をしっかりきずくためには、国家投資を増やし、国家的支援を強化しなければなりません。国家では郡の修理基地の設置に必要な工作機械を適時に供給しなければなりません。

 現在、農村にたいする支援活動は党の要求どおり活発におこなわれていませんが、これは活動家の頭にまだ農村軽視の古い思想の残りかすがあるからです。農業は人民経済の二大部門の一つであり、農業生産を発展させることは、工業を発展させることよりも困難です。農業は工業の物質的・技術的支援なしには発展することができません。したがって、行政・経済部門の幹部は、農村を軽視するブルジョア思想の残りかすを一掃し、農村にたいする支援活動をいっそう強めなければなりません。

 郡をきずくうえで国家の支援を強化すると同時に、地方の創意を積極的に発揮することが重要です。郡の活動家は自力更生の原則にもとづいて、それぞれの郡を自力できずくために積極的に努力しなければなりません。

 我が国には各郡にみな大きな工場や企業所があります。もし郡内の大きな工場や企業所の労働者が農村をより積極的に支援する決意をかためて取り組むならば、郡の物資的土台をきずくのはさほどむずかしいことではありません。いま平安南道江西郡だけでも、解放直後に全国にあった工作機械の何十倍もの工作機械を持っていますが、郡の活動家が仕事の手配を手ぎわよくおこなって「工作機械の子生み運動」をくりひろげるならば、郡に必要な農業機械の修理基地ぐらいは十分立派につくることができるでしょう。

 すべての郡の幹部は、今回の最高人民会議で討議された精神にもとづき、協同的所有の全人民的所有への移行を願う農民の要求を実現するため、いかにして郡を立派にきずくかを深く研究し、高度の責任感をもって一日も早く農民のこの願いを実現するために努力しなければなりません。

 重ねて強調しますが、我々は協同農場を全人民的所有に移す問題をつとめて慎重に扱わなければなりません。このたびの会議で協同農場を全人民的所有に移すことを提起した代議員の意見は、早く前進しようとする我が国の農業勤労者の熱望を正しく反映した正当な意見です。しかし、農民のこの熱望と、その実現とは時間的に一致するものではありません。まだ協同的所有を全人民的所有に移すために必要な思想的・物質的準備が十分にそなわったとみなすことはできません。したがって、協同農場を全人民的所有に移す仕事を絶対に急ぐべきではなく、長所と起こりうる偏向とを両側面から十分検討し、慎重に進めなければなりません。

 当面の重要なことは、いくつかの協同農場を全人民的所有に移して運営しながら経験をつむ一方、農村の思想革命、技術革命、文化革命を力強くおし進めて、すべての協同農場を全人民的所有に移すための思想的・物質的準備を十分にととのえることです。いかにすれば協同的所有の全人民的所有への移行を順調に進めることができるかという問題について、この会議に参加したみなさんがさらに研究し、協同農場員とも広く協議しなければなりません。

 終わりに、穀物1000万トンの生産目標を達成する問題について簡単に述べたいと思います。

 我が党は1000万トンの穀物生産目標をうちだしましたが、これを達成するのはそれほどむずかしいことではありません。十大経済建設展望目標をうちだしたときには、つぎの展望計画未にならなくては1000万トンの穀物生産目標を達成できないと考えましたが、いまになってみると、それほど長い期間はかからないと思われます。1000万トンの穀物生産目標の達成をむずかしく考えることはありません。

 穀物増産の潜在力はまだいくらでもあります。とりわけ中間部に多くの潜在力があります。中間部で先進的な営農方法を積極的に取り入れて農業を科学的、技術的に営めば、穀物の収穫を現在よりも著しく高めることができます。山間部でも種子の問題さえ解決すれば、穀物生産の余地が少なくないでしょう。

 腐植土肥料工場を早く建設してトウモロコシの栄養ポットを100%導入し、畑にも腐植土を施せば穀物の収穫をいちだ人と高めることができます。

 耕地整理に力を入れるだけでも全国的に10万ヘクタールの土地を得ることかできますが、これは海面干拓よりももっと簡単に土地が得られる大きな潜在力です。潜在力は探せばいくらでもあります。

 このたびの会議で、多くの人が1000万トンの穀物生産目標を短期間に達成できるという確信にみちた発言をしました。穀物1000万トンの生産目標をここ数年のあいだに達成できるというみなさんの発言は正しく、またそれは十分に可能です。

 私は、みなさんが決意どおり1000万トンの穀物生産目標を2〜3年内に必ず達成するものと確信します。

出典:「金日成著作集」29巻


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