金 日 成

朝鮮民主主義人民共和国の
当面の政治・経済政策といくつかの国際問題について
『読売新聞』記者の質問にたいする回答
-1972年1月10日-


 あなたがたの我が国訪問を熱烈に歓迎します。

 あなたがたは、これまで我が国にたいし好意的であったし、日本に在住する朝鮮公民の民主主義的民族権利を擁護する事業と帰国事業を大いに援助してくれました。

 あなたがたはまた、朝鮮と日本両国の関係を改善するため大いに努力しました。

 我々は、これにたいして感謝しています。

 あなたがたは、我々の現地指導について多く話しましたが、我々は指導というよりは学ぶために大衆のなかに入っていくのです。

 かつて革命闘争をおこなってきた我々が、いざ建設事業をおこなおうとすると、多くの問題にぶつかるようになりました。我々は、このような問題を解決するには大衆、特に、直接生産にたずさわる労働者、農民のなかに入って、かれらから学ばなければならないと考えました。それで我々は、しばしば工場や農村に出かけていって労働者、農民をはじめとする勤労者大衆と相談するのです。

 労働者階級と勤労者大衆の利益を代表するマルクス・レーニン主義党も、政権党になると主観主義に陥り、官僚主義に走る可能性が大きくなります。こうならないためには、大衆のなかに入らなければなりません。困難なときであればあるほど、大衆のなかに深く入ってかれらとすべてのことについて相談し、かれらから学ばなければなりません。

 教師は人民大衆であります。我々は、常にかれらから学びます。

 解放後の平和的建設の時期や祖国解放戦争の時期、また戦後の社会主義革命と社会主義建設の時期にも、我々は、常に大衆のなかに入って、かれらとともにつきあたる難関をのりきる方途を見つけだし、かれらから自信と勇気を得ました。これについては多くの実例をあげることができます。

 革命闘争であれ、建設事業であれ、その成果の基本的な環が党と大衆の統一にあるということは、我々の一貫した信条であります。

 いま、我が国の工場や農村には無名の英雄がたくさんいます。かれらが、党を支持して革命と建設をおし進めていくのです。我が党は、人民大衆に党の意図を知らせ、かれらの創造的な意見をまとめ、それに基づいてみずからの路線と政策をたてます。それゆえ、我が党の路線と政策は人民大衆の絶対的な支持をうけており、党と大衆の一体となった力によって、すべての路線と政策が成功裏に貫徹されています。

 我が党は、常に人民大衆とともに呼吸します。我が党がこれまで主観主義に陥らず、過ちをおかさなかった秘訣はここにあるといえます。これからも我々は、主観主義的な誤りをおかすことなく、既にかちとった成果をいっそう拡大し発展させるために、ひきつづき人民大衆との血縁的なつながりを強めるでありましょう。

 朝鮮記者同盟中央委員会をつうじてあなたがたの質問を拝見しました。

 あなたがたの質問は、非常に広範囲にわたり、多くの問題を包括しています。

 あなたがたの質問した問題にたいし、便宜上、内容別にいくつかにまとめて答えようと思います。


1 チュチェ思想について

 あなたがたは、チュチェ思想についての具体的な説明を要望しました。

 この問題について簡単に答えようと思います。

 あなたがたは、チュチェ思想について書いたわたしの一連の書物を読めば、もっとよく理解できるものと思います。

 チュチェ思想は、我が党の唯一の指導思想であり、朝鮮民主主義人民共和国のすべての活動の指導指針であります。我々は、革命と建設においてチュチェ思想を確固とした指導指針とし、すべての分野で主体性を確立しています。

 主体性を確立するというのは、自国の革命と建設にたいして主人としての態度をとるということです。言いかえれば、それは、革命闘争と建設事業において提起されるすべての問題を自主的な立場と創造的な立場で、主として自分自身の力で自国の実情に即して解決していく自主性と創造性を具現することを意味します。

 革命は輸出することも、輸入することもできません。他国の人が革命を代行するわけにはいきません。それぞれの国の革命の主人はその国の人民自身であり、革命勝利の決定的な要因もその国自体の力であります。

 特に、労働者階級と人民大衆の革命運動が発展するにともない、以前には提起されなかった、困難で複雑な問題が新たに数多く提起されるようになりました。

 したがって、それぞれの国の革命では、何よりも主人であるその国の人民自身が努力し、たたかわなければならず、革命と建設において提起されるすべての問題を自分の頭で考え、判断し、自分自身の力で、自国の実情に即して解決していかなければなりません。こうしてこそ、革命と建設を成功裏に遂行することができます。

 このようにチュチェ思想は、すべての人の思考と革命実践において自国の革命を中心にすえることを要求します。革命と建設は人間がおこなうものです。それだけに、革命で勝利をおさめるためには、人々が正しい革命的世界観をもたなければならず、ここにおいて重要なのは、自国の革命と建設を主人としての立場で責任をもって遂行する思想と観点をもつことです。

 チュチェ思想は、革命のこのような要求に基づいています。

 主体性を確立することは、我々にとって特に重要な問題として提起されました。我が国では、久しい前から一部の人の頭のなかに、自分の力を信じようとせず、頭から他人を崇拝し大国に仕える卑屈な事大主義思想が生まれました。こうした思想に毒された人は、国の危急にさいしてもしっかりと自国の人民をよりどころにして、自分自身の力で危機をのりこえようとはせず、他人ばかり頼りにしてそれぞれ自分の主人を後ろ盾にして党派争いに明け暮れました。こうして結局、我が国は他人のえじきとなりました。

 事大主義はその後にも克服されず、それにまた教条主義まで重なって、我が国の革命発展に大きな弊害を及ぼしました。我が国で民族主義運動が挫折し、初期の共産主義運動が失敗したのも、その主な原因は事大主義と、それに源を発する分派主義にありました。

 我が国だけでなく、他の国でもこのような実例を多く見うけることができます。他国の民族解放運動や共産主義運動においても、主体的な立場を堅持することができず、外国の思想潮流を後ろ盾にした派閥が生まれ、革命の発展に多くの支障を与えたことがあります。

 我々は、ここから、人が事大主義に陥れば愚か者になり、民族が事大主義に陥れば国が滅び、党が事大主義に陥れば革命を台なしにするという深刻な教訓を引きだしました。

 事大主義に陥って人に盲従盲動するならば、過ちをおかしてもどうして過ちをおかしたのか、その原因がわからず、是正の方途を見つけだすこともできません。だが、すべての問題を自分の頭で判断し、自国の実情に即して解決していくならば、革命と建設を立派におこなうことができるだけでなく、たとえ過ちをおかすとしても、その原因をすぐに見つけだし、是正することができます。

 朝鮮の革命家たちは、この歴史的経験を生かして、革命闘争では絶対に事大主義に陥ってはならず、今後、新しい祖国を建設するさいには、必ずチュチェ思想に基づいて文字通り自主独立の国家を建設しなければならないという決心をかためました。これは、かつての朝鮮の革命家たちの一致した志向でありました。

 我々にとって主体性を確立することは、8.15解放以後、アメリカ帝国主義の南朝鮮占領によって我が国の革命が複雑さと困難さをおびるようになり、南朝鮮で崇米事大主義と恐米屈従思想が根をはり、日本軍国主義にたいする幻想までひろまっている状況のもとで、なおいっそう重要な問題にならざるをえませんでした。

 我々は主体性の確立いかんを、革命と建設の運命を左右する要の問題とみなし、今日にいたる全期間にわたって事大主義と教条主義に反対し、主体性を確立するため、頑強な闘争を展開してきました。この歴史的な闘争をつうじて、我々は長いあいだ民族自主意識と創造的知恵をむしばんでいた事大主義思想のくびきから、朝鮮人民の完全な精神的解放をかちとり、我が国では革命と建設のすべての分野でチュチェ思想が徹底的に具現されるようになりました。

 我が党員と幹部はもちろんのこと、人民もチュチェ思想で徹底的に武装しており、他国でどのような風が吹こうといささかも動揺することなく、そこから何らの影響もうけていません。朝鮮人民の思想は非常に健全であります。

 あなたがたは、チュチェ思想に基づく我々の政策の問題点はどこにあるかを質問しました。

 我が党のすべての対内対外政策は、チュチェ思想に基づいており、そこから出発しています。政治、経済、文化・軍事など各部門の路線と政策はもちろんのこと、具体的な方針も、その根底にはチュチェ思想がおかれています。

 チュチェ思想はまず、政治における自主、経済における自立、国防における自衛の路線に具現されています。

 政治的自主性は、自主独立国家の第一の表徴であります。いかなる民族であっても、政治的自決の権利をまともに行使してこそ、国の完全な独立を保障することができます。

 我々は、チュチェ思想に基づいてすべての路線と政策を独自にたててきたし、また、たてています。我々は、だれかの命令や指示に従って動くものではなく、他国のものをそのまま引き写したり模倣したりもしません。解放後今日にいたるまで、我が党が規定し貫徹してきた政策はすべて、どこかよそから写しとってきたものではなく、我々が主体的立場にたって、我が国の革命発展の要求にそって創造的につくりだしたものであります。

 我々は、他国の革命運動と、その経験を全然参考にしないのではありません。他人のものを参考にはしても、それを正しく参考にしたのであり、またマルクス・レーニン主義の一般的原則を主体的な立場で、我が国の実情に即して創造的に適用してきました。まさにそうしたがために、誤りをおかすことなく、革命と建設を正しく導くことができたのです。

 我々は、あくまでも主体的な立場から出発して、すべての問題を我が国の実情に即して解決してきました。

 例えば、戦争によってすべてがひどく破壊された状況のもとで、自立的民族経済の土台を築き上げ、零落した人民生活をすみやかに向上させる課題をともに解決していくことを目的に、我々は重工業を優先的に発展させながら、同時に軽工業と農業を発展させるという社会主義経済建設の基本路線をうちだしました。この路線は、我が国の経済発展の要求を正しく反映し、マルクス・レーニン主義理論を創造的に発展させて作成した独創的な路線であります。

 我々はまた、我が国の具体的な条件を正しく考慮に入れて、技術改造に先立って経営形態を改造する農業協同化の方針をうちだし、資本主義的商工業を社会主義的に改造する方針をうちだしました。これらの方針は、どの国でも実施してみたことのない創造的な方針です。我が党がこの路線と方針をうちだしたとき、事大主義と教条主義に毒された人たちは、「どの本にも書いていない」「だれもやってみたことがない」といって非難しました。しかし、この路線と方針が正しいということは、短時日のうちに発展した農業をもつ社会主義工業国に変わった、我が国の現実が証明しています。

 インテリ政策についても、我々は他の国とは違った方法をとりました。

 我が国の古くからのインテリは、かつて豊かな暮らしをしたとはいえ、日本帝国主義の植民地支配のもとで民族的抑圧と差別待遇をうけたので、民族的革命性をもっています。

 我々は、かつて古い教育をうけ、ブルジョア社会や封建社会で働いた古くからのインテリであっても、かれらが人民のため、民族の発展のために奉仕するならば、みなともに革命をおこなっていく政策をたて、革命実践の過程でかれらを教育改造しました。こうして、かれらは労働者階級の革命偉業に奉仕する革命的インテリに改造され、これまで多くのことをなし遂げました。かれらは現在も仕事を立派におこなっています。

 帝国主義者の侵略と戦争挑発策動に対処して、国の経済力と国防力をともにしっかりと築き上げるための経済建設と国防建設並進の路線、それに、南朝鮮からアメリカ帝国主義侵略者を追い出し、いかなる外部勢力の干渉もうけることなく朝鮮人民みずからの力で祖国を平和的に統一する路線と方針も、すべてチュチェ思想を具現した独創的な路線と方針であります。

 したがって、我が党のすべての政策は、我が国の実情と朝鮮人民の志向にかなうものであり、また我々は、いかなる風波に出あっても、動揺することなく自己の政治的自主性を堅持していくことができるのです。

 経済的自立は、政治的独立の物質的基礎であります。経済的に他国に縛られている国は政治的にも他国に縛られざるをえません。

 それゆえ、我々は、既に解放直後、自立的民族経済を建設する路線をうちだし、あらゆる難関にもひるまず、それを貫きとおしてきました。

 みずからの力で自立的民族経済を建設するというのは、けっして門戸を閉ざすことを意味するものではありません。我々は、自力更生の旗のもとに自立的民族経済を建設しながら、同時に完全な平等と互恵の原則にのっとって他の国と有無相通じ、互いに協力する経済関係を発展させてきました。

 みずからの闘争が立派に実をむすんだ結果、我々は現代技術で装備し、総合的に発展した自立的民族経済をもつようになり、それに基づいて国の政治的独立が確固と裏づけられています。

 国防における自衛は、国の政治的独立と経済的自立の軍事的裏づけであります。世界が民族国家にわかれており、まして地球上に帝国主義が存在しているかぎり、外国の侵略から自国と自民族を守りうる自衛的な国防力なしには、自主、自立について論ずることはできません。

 我々は自衛の軍事路線を徹底的に貫くことによって、侵略者のいかなる挑発策動をも粉砕し、祖国の安全と革命の獲得物を頼もしく守りうる強力な国防力を築き上げました。

 我々は、政治における自主、経済における自立、国防における自衛の原則を具現し、かつての我々の念願どおり、堂々とした、強力で頼もしい社会主義の新しい祖国を建設しました。もしも、我々が、主体性をうちたてることができず、風の吹くがままにまかせ、他人の笛に踊らされていたならば、今日のような成果は期待することもできなかったことでしょう。

 一部の資本主義国の新聞は、自主性をもつ社会主義国家を「民族共産主義」と称しています。我々のチュチェ思想は、反動層のいう「民族共産主義」とは緑もゆかりもありません。

 チュチェ思想は、マルクスの提示した「万国の労働者、団結せよ!」という原則に基づいており、プロレタリア国際主義に完全に合致するものです。

 我々は、チュチェ思想に基づいて自主性を堅持し擁護しつつ、同時に国際主義的団結と協力を強化することを原則としています。我々の主張する自主性は、けっしてプロレタリア国際主義からかけはなれたものではありません。自主性をはなれた国際主義がありえないように、国際主義をはなれた自主性もありえません。自主性を堅持するという口実のもとに、プロレタリア国際主義に背を向けるのは、共産主義者のとるべき態度ではなく、それはとりもなおさず民族利己主義に転落することを意味します。

 現在我々は、完全な平等と自主性に基づいて外国との相互関係を結んでいます。

 我々は他民族の利益を侵害しようとするものではなく、また、だれであろうと我が民族の権利と尊厳をふみにじるようなことも許しません。我々は、我が国に友好的な国々とは、国の大小をとわず、完全な平等と相互尊重の原則にたって、政治的・経済的関係を発展させています。

 自主性は、社会主義諸国間においても団結と協力の前提であり、真の団結をかちとるためには、互いに自主性の原則を厳格に守らなければなりません。いま我々は、社会主義諸国間の統一と団結をかちとるための活動においても、我々の原則を堅持しています。

 それは第1に帝国主義に反対すること、第2に植民地民族解放運動と各国の労働運動を支持すること、第3に社会主義・共産主義にひきつづき進むこと、第4に内政不干渉、相互尊重、平等、互恵の原則を守ることなどです。他の意見の相違はあるとしても、それはこの4つの原則に服従させ、団結をはかっていこうというのです。

 他国の革命闘争と民主運動にたいする我々の立場についていうならば、ここでも我々は自主性と内政不干渉の原則を徹底的に守っています。

 それぞれの国の問題は、その国の党と人民がだれよりもよく知っています。したがって、それぞれの国の革命運動をどのように展開するかは、当然、その国の党と人民が決めなければなりません。我々は、民族的および社会的解放をめざす他国人民の正義の闘争を力の及ぶかぎり支持し、声援するだけであって、それに干渉したり、我々の思想をおしつけたりしようとはしません。我々はよそのものを機械的にうけいれないだけでなく、他人に我々のものをうのみにするよう要求するものでもありません。

 今日、各国でくりひろげられている革命運動と民主運動は、その国の党と人民が自主的立場で自国の実情にかなった正しい指導理論と科学的な闘争方法をうちたて、それを実践していってはじめて成功裏に発展することができ、勝利をかちとることができます。


(注)金日成主席の回答は、「チュチェ思想について」と、「我が国における社会主義建設と6か年計画の中心的課題について」「我が国の統一問題について」「いくつかの国際問題について」に4体系化されている。

出典:金日成著作集 27巻

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