金 日 成

全般的無料治療制実施の準備を正しくおこなうために
保健省の責任幹部に与えた指示
-1952年1月20日-


 我々は来年から全般的無料治療制を実施しなければなりません。

 これは単なる行政事務ではなく、朝鮮人民の長いあいだの念願をかなえる極めて重要な政治的事業であります。

 過去朝鮮人民は、衣食にこと欠く悲惨な植民地的奴隷生活を強いられてきました。病気になっても治療を受けることはできませんでした。病院にも通えず薬ものめずに息をひきとった人が少なくありませんでした。我々の父母もこのような生活にさいなまれ長生きできませんでした。

 抗日武装闘争当時、遊撃隊員に文字を教えた後は作文をさせたり手紙を書かせたりしたのですが、きまって日本帝国主義侵略者や地主、資本家にたいする憎しみをもって、かれらから受けた虐待や、病に苦しむ父母に薬一服買って与えられなかった涙ぐましい話を書いたものです。これは抗日遊撃隊員にかぎった恨みではなく、朝鮮民族の恨みでもありました。

 かつて、朝鮮人民は日本帝国主義植民地支配下の苦役のなかで、無病息災と幸福な生活を願いました。長いあいだのこうした人民の願いをかなえるのは、革命家の崇高な義務であります。

 我々は日本帝国主義侵略者を打倒し、祖国の解放をなし遂げた後、直ちに人民的な保健医療施策の実施にとり組みました。保健医療部門で日本帝国主義植民地支配の後遺症を一掃して保健医療事業を民主化し、1947年からは診療を必要とする労働者、事務員とその扶養家族に、社会保険法にもとづく無料治療制を適用しました。一方、医科大学、医科専門学校、看護婦学校など医療従事者の養成機関を新設し、勤労人民出身の医療従事者を多数養成しました。また、全国各地に病院や診療所を設け1950年上半期には、無医面を完全になくしました。医薬品や医療器具も少なからず自力で生産供給しました。

 戦争の困難な状況のもとでも、我々は人民の健康に終始深い関心を払っています。保健医療事業を戦時体制に切り替え、人民軍将兵と後方人民の健康を保護しており、特に、敵の爆撃と砲撃によって負傷した人民の救急手当と、戦災民の治療は無料でおこなっています。

 しかし、これにとどまってはなりません。国家負担による全般的無料治療制を実施すべきであります。これは最も人民的な施策です。

 一部には、戦争で国の事情が困難なときに、国家負担による無料治療制を実施することができるのかと疑問をはさむ人がいないともかぎりません。もちろん、いまの状態でそれを実施するのは容易なことではありません。全般的無料治療制を実施するには、国家が保健医療事業に多額の資金を振り向けなければならず、それに必要ないっさいの条件をととのえなければなりません。しかし、国家の負担が大きく困難であっても人民と苦楽をともにする我々は、誠意を尽くしてこれを実施すべきです。

 我々にとって人命以上に大切なものはありません。朝鮮人民はいま、前線と後方で戦争の最後の勝利のためにすべてをささげて戦っています。崇高な愛国主義と集団的英雄主義を発揮して献身的に戦っている人民になにを惜しむことがあるでしょうか。人民のためにはなにも惜しんではなりません。

 全般的無料治療制実施の条件と可能性はあります。これまでにかなりの医療従事者が養成されており、戦争で破壊された医療機関も復旧されました。

 社会保険法による無料治療制実施の経験もあります。このような条件と可能性を十分に利用するならば、戦時下にあっても全般的無料治療制の実施は十分に可能です。

 全般的無料治療制の実施は、人民の健康の保護と増進をはかるうえで画期的な前進となるでしょう。全般的無料治療制を実施すれば、人民の健康は立派に保障されます。朝鮮人民は、だれもが病気にかかれば無料で治療を受けられるようになり、病気治療の心配から永久に解放されるでしょう。全般的無料治療制が実施されれば、人民は共和国の人民民主主義制度をさらに信頼し、この制度を守るためにすべてをささげてたたかうようになるでしょう。

 全般的無料治療制をスムーズに実施するためには、十分な準備をととのえなければなりません。いまから約1年の計画で、その準備をよくおこなうべきです。

 まず、医療従事者を大々的に養成し、現職の医療従事者の水準を決定的に高めるべきです。

 全般的無料治療制を実施するためには、医師、薬剤師、看護婦など多くの医療従事者が必要になります。医療従事者を多数養成しなければ、全般的無料治療制を実施しても効果がありません。保健省では既存の医科大学と医科専門学校、看護婦学校で医師、薬剤師、看護婦を多数養成する一方、短期講習所を設けて医療従事者を大々的に養成すべきであります。特に、婦人の医療従事者を多数養成すべきです。全般的無料治療制の実施に必要な医療従事者の人数ばかりそろえようとせず、質的に養成しなければなりません。内閣では医師、薬剤師の資格がありながら他の部門に従事している人を調査し、すべて医療部門に戻すべきです。

 現職医療従事者の水準を決定的に高めなければなりません。医療従事者は人間の生命をあずかっています。医学が金もうけの手段である資本主義社会では、医師の実力は切実な問題となりませんが、医学が人民の健康の保護と増進のために奉仕している共和国の制度のもとでは、それは極めて緊切な問題として提起されます。医師の実力がなければ、医学は人民の生命を保護するために積極的に奉仕することができません。保健省では速やかに無資格医をなくす一方、医師のあいだで学習気風を確立し、近代的な医療技術を不断に修得させるべきです。

 医療従事者の教育に特別な関心を払うべきです。

 かれらは、戦時医療事業の円滑な保障のために努力していますが、まだ古い思想の残りかすを少なからずもっています。これらの古い思想の残りかすは、患者の苦痛を自分の苦痛と考えず、患者への真心が欠けているところにあらわれています。一部の医療従事者が、病院から薬局を分離させようと主張するのも、本質的には古い思想の残りかすのあらわれです。病院から薬局を切り離せば、診察は病院で受け、薬は薬局へいってもらうことになりますが、これでは患者に苦痛を与えることにしかなりません。

 医療従事者にはその任務の重要さからして、古い思想の残りかすが少しでもあってはなりません。医療従事者の思想・意識改造運動をねばりづよくおこない、気高い愛国主義思想と民主主義思想を身につけさせなければなりません。こうして、すべての医療従事者が人民の健康と人命を保護するため、知恵と情熱を惜しみなくささげるようにしなければなりません。

 病院と診療所の復旧、新設は、全般的無料治療制実施の重要な課題の一つです。

 保健省は地方人民政権機関との連係のもとに、復旧中の病院や診療所を早急に復旧整備すると同時に、病院や診療所を新設すべきです。また、医療機関の少ない地域には優先的に病院、診療所を設置すべきです。そうしてこそ住民にたいする医療奉仕を改善することができます。

 病院や診療所の復旧、新設では、戦時の状況と朝鮮人民の生活慣習、予防医学的要求を十分に考慮しなければなりません。必要以上に大きな病院や診療所を建てようとせず、安全な場所にこじんまりと建て、オンドル暖房にすべきです。いちばんよいのは穴ぐら式にすることです。そうすれば敵機による爆撃の被害を防ぐことができ、労力や資材も節約できます。それゆえ穴ぐら式の病院や診療所をたくさん建てなければなりません。病院や診療所は医療機関らしく、大衆衛生教育の学校らしく立派にととのえるべきです。

 病院や診療所の復旧、新設に必要な労力と資材は、可能なかぎり地元で解決すべきです。人民に全般的無料治療制にたいする宣伝活動を正しくおこなえば、病院や診療所の復旧、新設に積極的な支援を受けることができるはずです。

 医療器具と医薬品の生産に深い関心を払わなければなりません。

 医療器具と医薬品の生産をふやすのは、全般的無料治療制を実施するための不可欠の条件であります。これらすべてを他の国に依存しようとしてはならず、国内で生産保障すべきであります。破壊された医療器具と医薬品生産施設を早急に復旧整備し、性能のよい医療器具や効力のある医薬品を多量に生産供給しなければなりません。国内に豊富な生薬を採取して、東医薬品の生産も増大させるべきです。

 保健省は国家計画委員会との協議のもとに、資金、資材、労力を正確に見積って、全般的無料治療制実施の準備を責任をもつておこなうべきです。

 戦時衛生防疫事業を強化しなければなりません。

 保健医療事業では、衛生防疫に力を入れ、各種疾病の予防に重点をおくべきです。戦時衛生防疫事業を強化するためには、衛生防疫体系を整然とたて、衛生防疫機関の役割を高めるべきです。現在、中央から地方にいたるまで衛生防疫機関が組織されてはいますが、十分な役割を果たしていません。衛生防疫機関は住民のあいだで衛生宣伝活動を強め、保健知識を広く普及し、衛生防疫活動に広範な大衆を参加させなければなりません。また、すべての機関、企業所や家庭で環境整理と清掃、消毒を日常化するよう指導し統制すべきです。勤労者のあいだで、いっさいの非文化的、非衛生的な生活様式と慣習を打破する運動を活発に展開しなければなりません。

出典:金日成著作集 7巻

ページのトップ
inserted by FC2 system