金 日 成

一時的な戦略的後退と党組織の課題
 道党委員長協議会でおこなった演説
 −1950年9月27日−


 私はきょう、みなさんに一時的な戦略的後退と関連して、党組織の当面のいくつかの課題について述べようと思います。

 こんにち、軍事・政治情勢は急変し、朝鮮人民には重大な危機が迫っています。

 人民軍の反撃によって甚大な打撃をこうむったアメリカ帝国主義侵略者は、惨敗を挽回するとともに、全朝鮮を占領する侵略目的を実現しようと莫大な兵力と戦闘技術機材を投入し、侵略戦争の規模を拡大しています。アメリカ帝国主義侵略者は、太平洋方面の陸海空軍を総動員し、地中海艦隊の一部とイギリス、フランスなど追随諸国の軍隊まで朝鮮戦線に引き入れました。アメリカ帝国主義は、去る13日から数百隻の艦船と約1000台の飛行機、5万余の兵力を投入して大規模の仁川(インチョン)上陸作戦を強行し、現在ソウル地区で狂気じみた攻撃を試みています。敵は、仁川、ソウル、原州(ウォンジュ)一帯をおさえて、我が方の前線と後方を遮断し、前線の人民軍主力部隊を包囲掃滅して短時日内に全朝鮮を占領しようと企んでいます。

 現在、人民軍将兵は、敵の大規模の侵攻を撃退するため英雄的な戦闘をおこなっています。仁川とソウルの防御に当たっている人民軍将兵は、気高い愛国主義と集団的英雄主義を発揮し、数的および技術的に優勢な敵と果敢な戦闘をくりひろげて、敵の侵攻を数日にわたって遅延させています。特に、月尾(ウォルミ)島の海岸砲中隊の戦闘員は文字どおり肉弾となって、数十数百倍の敵と決戦を展開して甚大な打撃を与えました。

 人民も人民軍を助けて英雄的に戦っています。ソウル市民は、老若男女を問わず立ち上がり、弾雨の中をついて人民軍に弾薬を運び、食事を供給しています。

 しかし、敵がその大集団を仁川、ソウル地区に上陸させ、洛東(ラクトン)江の界線で大々的な反撃に移るに及んで、戦況は我が方に不利になりました。前線では、彼我の力関係に著しい差が生じました。我が方は、十分な予備軍の編成ができず、武力装備も不備のため力量上はるかに優勢な敵と戦っています。

 このような軍事的・政治的情勢下にあって、党中央委員会は不利な情勢を主動的に打開するため、一時的な戦略的後退をおこなう方針をうちだしました。

 現段階における我が党の戦略的方針は、敵の進攻速度を最大限に遅らせ、時間をかせいで人民軍の主力部隊を救出し、新しい後続部隊で強力な反撃集団を編成して計画的な後退を組織することであります。

 党の戦略的方針に従って、一方では、ソウル地区から後退する人民軍部隊は38度線一帯に強力な防御陣をしき、敵の攻撃を牽制しつつ我が軍主力部隊の後退を保障し、一部の主力部隊は敵の背後に残り敵中闘争によって敵の背後をたえず攪乱し、他方、我が後方ではあらゆる条件と可能性を合理的に利用して、早急に予備兵力を編成し、力量を再整備、補強するようになるでしょう。

 我々の後退は単なる後退ではなく、力量を強化して敵により甚大な打撃を与えるための戦略的後退であります。

 いま全世界の耳目は、朝鮮戦線に集中されています。世界の多くの軍事専門家と人民は、人民軍の主力がアメリカ軍の「包囲」を突破できるかどうかを憂慮しつつ人民軍の行動を注視しています。

 アメリカ帝国主義侵略者は、人民軍の主力を「包囲」したと喜び、勝利は決まったと大言壮語しています。だが、敵は失敗を免れられず、その喜びは悲しみに変わるでしょう。

 敵が鳴物入りで宣伝している人民軍主力の「包囲」は、形ばかりのものに過ぎません。この「包囲」は、範囲が広大であるため、敵としては力に余るものです。敵に「包囲」された人民軍主力部隊の将兵は、党と祖国にたいする限りない忠誠と敵撃滅の決意にみなぎっています。特に、敵に「包囲」された人民軍指揮官のなかには、抗日武装闘争で鍛練された多くの有能な指揮官がいます。かれらはかつて、苦難にみちた厳しい抗日武装闘争の時期に敵の包囲をいくたびとなく突破した経験をもっています。抗日遊撃隊の指揮官は、敵の大部隊の包囲にあっても少数兵力でそれを大胆に突破し、敵にせん減的打撃を与えたものです。

 それと同様に人民軍部隊の指揮官は、必ず部隊を巧みに指揮して敵の「包囲」を突破し、組織的な後退を成功させ、敵により決定的な敗北と死を与えるでしょう。一部の戦線では、すでに「包囲」を突破し、人民軍部隊の組織的後退を始めています。

 各級党組織は、党の戦略的後退の方針を貫徹するため、全力を尽くすべきです。

 一時的な戦略的後退は、我が党と人民にとって厳しい試練とならざるをえません。我々は、敵の攻撃を阻止する熾烈な戦闘を進める一方、主力部隊の組織的後退を保障し、連日、敵機の無差別爆撃のつづく状況下で、生産設備と各種の物資を安全地帯に撤収させなければなりません。したがって、人民軍と人民は多くの障害と難関を克服しなければなりません。我々は、どのようなことがあっても、あらゆる困難と難関を勇敢に乗り越え、党の戦略的後退の方針を貫徹しなければなりません。

 戦略的後退と関連して、党組織は、まず人民大衆のなかで宣伝活動と政治教育活動を強化すべきであります。

 これは、党組織の第1の義務であります。特に、戦略的後退の困難な試練を克服しなくてはならないこんにちの情勢は、人民にたいする宣伝活動と政治教育活動をさらに強化することを切実に求めています。人民にたいする教育活動が積極的におこなわれれば人民はいかなる逆境にあっても動揺せず、強く戦うことができます。

 政治教育活動で重要なのは、人民にゆるぎない勝利の信念をもたせることです。

 人民のなかには、人民軍が怒涛のように南に進撃したとき、戦争が早く終わるものと思った人が少なくありません。かれらは、人民軍が後退するのを見て勝利の信念を失い、我々が敗北したかのように考えないとも限りません。

 党組織は、人民の政治・思想状態を正確に把握し、それにかなった教育活動を活発におこない、かれらが狼狽したり、混乱に陥るようなことがないようにすべきです。特に人民に、我が党の戦略的後退の方針を明確に宣伝することが重要です。戦争では攻撃もあれば、後退もあります。これはサッカーをするようなものだと言えます。サッカーでも、相手側の攻撃で形勢が不利になればいったん後退し、再び力を収拾して形勢が有利なときに攻撃を加えるものです。党組織は、人民に、党の戦略的後退の方針の正しさと意義を深く認識させ、戦争の勝利を確信して後退中の難関を克服し、勇敢に戦いぬくようにしなくてはなりません。

 現在のように国内情勢が困難な時期には、アメリカ帝国主義者と我々の内部に潜んでいる敵対分子が狡猾な方法でさまざまなデマや流言飛語を流すということを、絶対に忘れてはなりません。各級党組織は、さらに警戒心を高め、敵の狡猾な策動をそのつど暴露粉砕し、人民が敵の手に乗らないようにしなければなりません。こうして、全人民がいささかもあわてることなく、戦略的後退の厳しい試練を立派に克服するようにすべきであります。

 党組織は、人民の中で、後退する人民軍を誠心誠意助けるよう、十分教育すべきです。全人民が父母や兄弟の心情で、後退する人民軍軍人の荷物も運搬し、寝床や食事も準備し、負傷兵を看護するようにすべきであります。

 次に、党組織は敵が侵攻してきた場合、かれらと戦う万端の準備をととのえるべきであります。

 こんにちの我々の重要課題は、祖国の寸土をも死守することです。敵が侵攻してくるからといって、ただ後退すべきでなく、自分の郷土を守って最後まで戦わなければなりません。これは、各級党組織と党活動家の気高い義務であります。

 党機関と党活動家、特に道党委員長は、敵が侵攻してきても所轄地域を離れず地下に入って遊撃戦を指導し、敵に抵抗してたたかうよう人民を立ち上がらせるべきです。そして、人民軍が再進撃するときには、かれらと合流して敵の占領地城を解放し、直ちにすべての活動を正常化すべきであります。

 そのためには、各級党組織は敵と戦う力量編成もおこない、武器や各種の物質的条件も整えなければなりません。特に、海に面している道では、敵の上陸が予想される海岸沿線に塹壕を掘り、各種の防御施設を築き、敵が上陸してくれば、最悪の場合、石をころがしてでも敵を海中にほうむらなければなりません。このように敵と戦って、情況が不利になり敵が侵攻してきたら、遊撃闘争に移るべきです。

 みなさんは遊撃闘争を難しく考えるかも知りませんが、その必要はありません。遊撃闘争は決して難しいものではなく、誰にでもできることです。遊撃闘争をするには武器が足りず戦闘指揮が問題になると思いますが、武器は敵のものを奪って使い、戦闘指揮の能力は戦闘過程で体得すればできるものです。

 我が国は山が多いので遊撃闘争には極めて有利です。すべての道と郡に山があります。特に黄海(ホワンヘ)道の九月(クウォル)山や馬息嶺(マシリョン)山脈、狼林(ランリ)山脈とつながっている山地帯は、遊撃闘争に非常に適しています。このような山地帯を根拠地にすれば、遊撃闘争はいくらでもできます。要は、各級党組織が党員と人民をいかに組織するかにかかっています。

 各級党組織は、党員と人民を立ち上がらせ、遊撃闘争を大胆に展開すべきであります。敵の指揮部を奇襲し、補給路を断ち、敵の通信手段を破壊し、軍需倉庫や各種の軍事施設を焼き払わなければなりません。こうして、敵の背後をたえず攪乱し、敵が瞬時も安心できず不安と恐怖におののくようにすべきです。

 各級党組織は、地下工作も綿密に組織すべきです。鍛練ずみの活動家や党員を被占領地域に派遣して人民を教育し、敵の機密を探知し、敵の内部を混乱させるようにすべきです。そうすれば、人民を闘争へと力強く立ち上がらせて敵の企図をそのつど破綻させ、さらに大きな打撃を与えることができます。

 次に、道内の党組織と国家機関の後退を秩序正しく組織し、生産設備と各種物資の疎開を円滑におこなうべきであります。

 疎開を成功裏におこなえば、国家財産の損失を防ぎ、再進撃の準備を順調におこない、戦時生産と今後の経済復興を円滑に保障することができます。疎開は、業務量が極めて膨大なうえに、最大の隠密性と迅速性を要する困難かつ複雑な仕事であります。したがって各級党組織では、疎開を綿密に組織しなければなりません。これは、敵が侵入する前に迅速に進めるべきであります。

 まず、道内の工場、企業所の重要設備を安全地帯に疎開させなければなりません。

 各道には、重要な工場、企業所があり、そこには多くの貴重な設備があります。咸鏡南道だけでも咸南地区の5大工場をはじめ、重要な工場、企業所が少なくありません。もし生産設備を放置して後退すれば、敵がそれを利用するか持ち去る恐れがあります。生産設備を決して敵に渡してはなりません。

 各級党組織は、工場、企業所の重要設備を安全地帯に疎開させるべきものは疎開させ、疎開できないものは十分な湿気防止対策を講じて理めるようにすべきです。こうして、国家の貴重な設備が敵の手に渡ったり破壊されたりしないようにすべきです。

 穀物をはじめとする戦略物資の疎開も手落ちなくおこなわなければなりません。特に、穀物倉庫と精米所にある国家の穀物を安全地帯に早急に疎開させ、1粒の穀物といえども敵の手に渡さないようにすべきです。

 党組織は、人民の後退組織と疎開に深い注意を払うべきであります。

 アメリカ帝国主義侵略者は、その汚れた足の及ぶ限り罪のない人民を手当たりしだいに検挙、投獄、虐殺し、あらゆる野獣のごとき蛮行をはたらくでしょう。それゆえ、人民の後退組織と疎開をおろそかにすれば、多くの人民が敵の手にかかって殺されるでしょう。各級党組織は、人民の後退組織と疎開を綿密に組織し、この事業でいささかの偏向もおかさないようにすべきです。

 次に、戦時生産を保障するため積極的に努力すべきであります。

 後退時期だといって戦時生産を中断したり、おろそかにしてはなりません。戦時生産をつづけなくては、再進撃の準備もできず、人民生活の安定もはかれません。したがって、後退はそれなりに保障しながら、同時に戦時増産を強化すべきです。

 各級党組織は、工場、企業所の生産設備を安全地帯に移転させ、生産をつづけるようにすべきであります。こうして、いたるところで武器や弾薬、手榴弾も生産し、生活必需品も生産すべきです。かつて、抗日武装闘争の時期、我々は小兵器廠を建て、そこで延吉爆弾をつくり、故障した武器も修理しました。現在の生産設備は、抗日武装闘争時期の兵器廠のものとは比べようもなくすぐれており、活動条件も非常に有利です。したがって、仕事の手配さえ上手におこなえば、武器や弾薬の生産は十分可能であり、戦時生産をひきつづき保障することができます。

 農村では、取り入れと脱穀を早め、1粒の穀物も敵の手に入らないようにすべきです。

 各級党組織に提起された困難な課題を遂行するか否かは、道党委員長自身がどのような態度と立場で活動するかに大きくかかっています。困難に出あえば、下部のものは指揮官の様子をまず見るものです。祖国が重大な情勢に直面し、困難かつ複雑な戦闘任務が提起されているこんにち、下部の働き手たちは、みなさんの様子からうかがい、みなさんの行動を注視するでしょう。

 みなさんは帰ったら狼狽することなく後退を計画的に組織し、緊急かつ複雑な問題を迅速、正確に処理しつつ活動をいっそう大胆に進めなければなりません。そうすれば、下部の働き手も勝利の確信を強め仕事を円滑に進め、困難な戦略的後退を順調に保障することができます。

 すべての状況から見て、後退期間はそれほど長びくことはないでしょう。1か月あるいは1か月半程度だと思います。

 いまは一時的に戦略的後退をしても、我々は遠からず敵に甚大な打撃を与えることになるでしょう。勝利は、敵の侵略から祖国の自由と独立を守るために戦う朝鮮人民のものです。朝鮮労働党の正しい指導があり、党のまわりにかたく団結した英雄的人民軍と人民があり、強固な後方がある限り、我々は必ず勝利するでありましょう。

 私は、みなさんが必勝の信念をもち、党と祖国と人民への限りない忠誠心と高度の犠牲的精神を発揮して、戦略的後退の困難な課題を立派に遂行するものと確信します。

出典:『金日成著作集』6巻


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