金 日 成 |
普通江改修工事着工式でおこなった激励のあいさつ |
−1946年5月21日− |
親愛な同胞のみなさん! |
出典:『金日成著作集』2巻 |
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<参考>「普通江改修工事着工式」について、長編小説『平壌時間』(朝鮮・平壌 外国文出版社 1986)は、次の描写をしている。 〜略〜 線路を越えて式場が近くなると、民青管楽隊のラッパの音が聞こえてきた。道幅いっぱいにあふれた人波は烽火山の麓をまわり進んで行った。さわやかな草の匂いとアカシアの甘い花の香をふくんだ風にはためく五色の旗やプラカードが見えはじめた。 着工式場は普通江に面して烽火山西北の麓に設けられ、山に向かって西方の仮設舞台に幹部席がしつらえてあつた。白布で覆った長い幹部席の中央正面には縞の背広にネクタイを結んだ金日成将軍の大きな写真がかかげられ、「普通江改修工事着工式」と筆太に書かれた白い横幕が前面に張り渡してあった。 会場は早くも群衆で埋まり、アカシアの木立の中までいっぱいだった。相哲と宗漢は人波をかきわけて、幹部席の前に進み出た。 日はかなり高く昇り、まばゆい光を投げかけていた。管楽隊のラッパが金色にきらめき、ツルハシやシャベルが白銀色に輝いた。頭上では蜜蜂がぶんぶん羽を鳴らして飛びかい、アカシアの花の甘い香がすがすがしい大気のなかに漂った。 「将軍は本当においでになるのかな」 「おまえたちも将軍にお目にかかりに来たんじゃな」 カムトウ(冠の一種、馬のたてがみでつくる)をかぶった老人が、笑いながらうなずいた。 「安心おし。きょうはきっとおいでになるそうじゃ」 「おじいさんはどうして知っているの」 「わからないでか。だからわしもこんなに前に座っているんじゃ。朝の5時から来とるわい」 「きっと! 誰が言ったの。偉い人がそう言ったの?」 2人の少年は、老人の答を聞くことができなかった。突然、ざわめきが起きて人々が片側から立ちあがり、万歳の叫びが湧きあがった。山ぎわや川原一帯に歓声がとどろき渡った。シャベル、ツルハシ、横断幕、プラカード、帽子、手拭い、そして人々の両手が空中にひるがえった。それらのものに遮られて何も見えなかった。にもかかわらず、2人は待ち焦がれたその瞬間が来たことを知って、熱狂的に万歳を叫んだ。 ついに将軍が登壇した。まざれもなく土城廊の土手で会ったその方であった。きょうはネクタイを結びワイシャツの上に灰色のチョッキを付けた背広姿であったが、ひきしまった体躯に明るい顔、英知に輝く瞳と情愛にみちた微笑、みんなあの日と同じだった。 相哲がひじで宗漢の脇腹を突っついた。同じ仕草で答が返ってくる。万歳を叫んでいたので口は利けなかったが、意思は十分通じた。 「間違いないだろう」 「うん、間違いない」 将軍は群衆の歓呼に微笑と柏手で答え、静かにするようにと手で制したが、歓声はさらに高まった。感激と興奮にわく群衆は海のおうに大きくうねった。そのうねりの中の波の飛沫(しぶき)のように2人の少年は手を振りあげ飛びあがっていた。 「おまえ、わかったかい。将軍はおれをおぼえていらっしゃったぞ」 やがて歓声が静まり人々が座を整えはじめたとき、宗漢が得意そうに言った。 「本当か」 「本当だとも」 「どうしてわかるんだい」 「さっき、おれの方を見て目で笑ってくださったんだ」 「なんだそんなことか。それならおれにもそうなさったせ」 「じゃおまえにも…」 2人の会話は再び巻き起こった柏手にかき消された。目をあげると、美しい花束をかかえた人たちが、人波をかきわけて幹部席へあがっていた。将軍の前のテーブルには色とりどりの花束が胸を埋めるほど高く積みあげられた。 「おい、『虎』、おれたちも花束を持ってくるんだったな」 「うん、どうして気がつかなかったのかな」 2人は、将軍に花束を贈った人たちが恐縮しながらも幸せそうな笑顔で、将軍の手を両手で握りしめるのをうらやましそうに見あげながら、手のひらが痛くなるほど拍手した。 開会宣言に続く奏楽のあと、将軍が演壇に立つと、再び拍手と歓声がとどろいた。 将軍は親しみのこもったまなざしで群衆を見まわし、普通江改修工事を着工するきょうは民主朝鮮建設の第一歩を踏みだす栄光の日であると前置きして演説をはじめた。 ざわめきが、ぴたりとやんだ。蜜蜂の羽音とカッコウの鳴き声が聞こえるだけだった。将軍の力のこもった太い声がマイクを通して響き渡った。 「普通江の改修工事を短時日に完成することは容易ではありません。我々には工事に必要な技術者も足りず、食糧や物資も不足しています。したがって、工事を進める過程では多くの障害と難関に遭遇することでしょう。…全人民が全力を尽くして努力するならば、工事中の難関は十分に克服することができるはずです。 …外国人が我々の祖国を建設してくれるようなことはありえません」 将軍は、解放された祖国の前途には幾多の困難が予想されるが、勇気を出して朝鮮人自身の力で前途を切り開いていこうと強調した。 「全朝鮮人民がかたく団結し、建国事業のために全力を尽くすときにのみ、あらゆる障害と難関を克服し、新しい祖国建設の大業を完遂することができます。 我々は困苦にたえ、自力で普通江改修工事のような工事を一つ一つ完成していくべきです。… 平壌は我が国の民主首都であります。… 私は平壌の全市民が民主首都平壌を模範的に建設するために万難を排して、この愛国的な自然改造事業で偉大な力を発揮するものと確信します」 演説が終わると群衆はいっせいに万歳を叫び、堰を切った流れのように演壇の方に押し寄せた。そして、横手に折れ、なだれをうったように進んだ。相哲と宗漢も群衆の波に巻きこまれながら夢中で進んだ。相哲の片方のわらじが脱げてしまったが、それを拾うどころでなかった。 「おじさん、みんなどこへ行くの」 相哲はあたふたと走って行く人に言葉を投げた。その人は見向きもせず、旗を高く持ちあげて人波にもまれている男を引っ張り出しながら「中城(チュンソン)里の人は川を越えないでください」と大声で叫んだ。 「みんなどこへ行くの」 こんどは宗漢が他の人に聞いた。すると誰かガ、もうすぐ将軍が改修工事の鍬入れをされるのだと教えてくれた。が、場所については答えた人も知らなかった。 2人はやっとの思いで川向こうの麓が鍬入れの式場であることを聞き出し、川原へ駆け下りた。五色の旗がはためいている川向こうは早くも人々でごった返し、楽隊の楽器が陽光にきらめいていた。にわかづくりの狭い橋の上も立錐の余地がなく、腕章を巻いた人が、メガホンで橋がこわれるからこれ以上前へ出ないようにと注意を与えていた。性急な青年たちは、胸までつかる水の中を向こう岸へ渡って行った。 「相哲、おれたちも渡ろうか」 「服が濡れたら将軍の側へ行けないじゃないか」 「脱いで泳ぐさ。大人に持ってもらったらいいや」 「そんなことをしているまに始まったらどうするんだ。裸のままで…」 彼らは残念そうに川と橋と川向こうの麓を眺めた。一番かんじんなときに将軍を近くで見られなくなったのだ。そのうえ将軍がどこにいるのかさえもわからなくなった。すでに楽隊が整列しはじめていた。2人の少年はいらいらして川原をほっつきまわったが、どうにもならなかった。せめて川向こうがよく見える小高い場所をと探しまわった。2人は自分たちが、世の中で最も運の悪い人間に思えて泣きっ面になった。 このとき公正な変化が起きた。川向こうの人垣が大きく両側に分かれた。こちらの川原を埋めた人々の気持ちを察して、すべての人が歴史的な場面を見られるよう、随員がはからったのであろう。2人の少年があれほど慕ってやまなかった将軍の姿がようやくあらわれた。期せずして群衆の中から「ワァー」という歓声があがった。 将軍は相哲と同じ年格好の子供の肩を抱き寄せ背をかがめて話しかけていた。そして、随員たちに笑顔を向けた。将軍の豪快な笑い声が聞こえてくるようだった。側近の人たちも微笑した。はにかんでいた少年も、白い歯を見せて笑った。将軍は少年の肩を殊勝だね、というふうに(相哲たちにはそう思えた)軽くたたき連れ立って、なにか進言する幹部と一緒に歩いた。将軍の愛情を独占でもしているように得意げなその少年がうらやましくてならなかった。ああ、川さえ渡れたら自分たちもお側へ行けたものを。将軍は自分たちをすぐ思い出して抱きよせてくださったに違いない。… 鍬入れの式場には「祝 普通江改修着工」ののぼりが中空にはためいていた。将軍の前へ数人が進み出て両側から五色のテープを交差させた。 群衆はおごそかな瞬間が迫っているのを直感し息をつめた。動いているのは楽隊の指揮者だけ。ラッパが吹き鳴らす『赤旗の歌』のメロディが風に乗ってくる。 その余韻が消えると、将軍は上着を脱ぎ、白い腕章をつけた人からシャベルをうけとった。 ドドンドン、ドン 力のこもった太鼓の音が、鍬入れ式の開始を告げ、鉦(かね)が急調子で打ち鳴らされた。再び指揮棒が澄んだ空におどり、ファンファーレが高く響きわたった。将軍がシャベルを手にして歓声がどよめき、紙テープや紙吹雪の舞うなかを進んで来た。もっこを持った2人の男がそれに続く。将軍は、盛土の山の前で立ち止まると片方の手でシャベルを突き立て後ろを振り返った。2人の男がもっこを広げた。 将軍は、慣れた身のこなしでシャベルを動かした。シャベルの柄がしなうほど土をすくつてもっこへ投げ入れたとき、群衆の歓声は絶項に達した。シャベルの先が陽光にまばゆくきらめいた。… 鍬入れ式の模様は、平壌市民はもちろん全国人民の話題の種となった。それは、この膨大な普通江改修工事がわずか2か月足らずで完成されたからであって、人々は将軍がそのシャベルで縮地法を使ったから奇跡が起きたのだと言い合った。 将軍の鍬入れに続いて活気に満ちた作業がくりひろげられた。 〜略〜 |
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