金 日 成

当面する朝鮮の政治情勢と
北朝鮮臨時人民委員会の組織にかんして
 北朝鮮の民主的政党、大衆団体、行政局、人民委員会代表者協議会でおこなった報告
 −1946年2月8日−


 尊敬するみなさん!

 きょう我々は、北朝鮮の政治、経済、文化の発展にかんする重大な諸問題を解決するためここに集まりました。

 朝鮮人民が、日本帝国主義の植民地支配から解放されて既に5か月たちました。5か月といえば短い期間ですが、この期間に北朝鮮では大きな変化が起こりました。北朝鮮は、真に民主的な発展の道をしっかりと踏みだしています。

 つい5か月まえまで、朝鮮は日本帝国主義の植民地でした。ほぼ、半世紀にわたる日本帝国主義の植民地支配は、我が民族に奇形的な工業と運輸、立ち後れた農業、そして幾百万大衆の無知と貧困をもたらしました。日本帝国主義は、故意に朝鮮の経済発展を阻みました。日本侵略者による支配の結果は、北朝鮮各道のあらゆる面に明白にあらわれています。

 何年も前から、日本帝国主義者は、大陸侵略の計画を作成し、北朝鮮に工業を建設しはじめました。日本侵略者が建設した工場、鉱山、水力発電所などは、日本帝国主義の軍需品を生産するためのものであって、我が国の経済を発展させ、朝鮮人民の生活向上をはかるためのものではありませんでした。日本帝国主義は毎年、莫大な量の工業原料と穀物を朝鮮から奪っていきました。こうして朝鮮は、日本の軍需工業に原料を供給し、日本の侵略軍に食糧を提供しました。

 朝鮮は、近代的工業の発展に有利な条件をもっていたにもかかわらず、日本帝国主義の侵略政策のために民族工業が発展できず、農業も非常に立ち後れた状態におかれていました。

 何年もつづいた戦争は、朝鮮人民、とりわけ農民を極度の貧困に陥れました。日本帝国主義の農村収奪政策によって、農民の大多数は土地を失いました。そのため朝鮮農民は、その80%が小作農、半小作農または雇農でした。日本帝国主義侵略者は、封建的小作制度をそのまま保存して農業生産力の発展を極度に抑制し、幾百万の農民を貧困と飢餓に陥れました。

 日本人は、工業と商業を独占していました。工業資本総額のうち、朝鮮人資本のしめる比率は5%にすぎず、商業資本では85%が日本人に属していました。

 いっさいの権力は、完全に日本帝国主義者の手中にありました。

 朝鮮人は、甚だしい民族的抑圧と虐待を受けました。朝鮮人には特別の法律と特別の裁判が適用され、朝鮮人は日本人より低い賃金しかもらえませんでした。

 我が国の児童の半数以上は学校にいかれませんでした。朝鮮の青年には、大学や技術専門学校へ進む道がほとんど閉ざされていました。我々の民族語は蔑視され、踏みにじられました。日本帝国主義侵略者は、我々の固有な民族文化と民族意識を抹殺し、我が民族を「皇国臣民化」しようとしました。

 日本帝国主義のこのような弾圧にもかかわらず、朝鮮人民はかれらを追いはらって民族独立を達成することを確信していました。朝鮮人民は、日本帝国主義に反対してたえず勇敢な闘争をくりひろげました。

 1919年の3.1運動、1926年の6.10万歳運動、1929年の元山(ウォンサン)労働者のゼネスト、1930年から1932年までつづいた各地の農民暴動、そして1930年代の初めから国内と国外で激しく展開された抗日武装闘争は、朝鮮人民が日本帝国主義と不屈の闘争を展開したことをはっきりと示しています。

 日本帝国主義が敗退し、朝鮮が解放されてから、我が国の状況は根本的に変わりました。自由と解放をかちとった朝鮮人民は、明るい未来を見通すようになり、民主主義的独立国家建設の道に力強く踏みだしました。

 こんにち、北朝鮮では諸政党、大衆団体が組織されて自由に活動しています。共産党と民主党、朝鮮独立同盟が活動をはじめており、労働組合、女性同盟、民主青年同盟、農民組合、朝ソ文化協会など各種の大衆的民主団体が組織されました。労働組合、農民組合などの大衆団体には200余万の同盟員が加入しています。

 北朝鮮では既に30余種の新聞が発行されており、各級学校の教科書や書籍が朝鮮語で出版され、放送も朝鮮語でおこなわれています。学校でも朝鮮語で教育をおこなっており、すべての機関や街頭、いたるところで我々の朝鮮語を聞くことができます。抑えつけられ、踏みにじられていた芸術団体が復活し、活発に活動しています。

 これらすべてのことは、大衆の高まった政治的熱意と朝鮮人民の熱烈な愛国心を示すものであり、民族文化が復興しつつあることを物語るものです。

 北朝鮮のすべての政党と大衆団体は、民主主義的民族統一戦線の結成とそれにもとづく自由な民主主義的独立国家の建設を共同の目的としてかかげています。

 祖国が解放されるや、北朝鮮人民は自主的で民主的な地方政権機関としての人民委員会の組織にとりかかりました。人民委員会は、まず社会の秩序を維持し、人民の生活を安定させる活動からはじめました。

 次に、人民経済の各部門を指導し、北朝鮮各道間の経済的連係を実現するために産業、交通、逓信、農林、商業、財務、教育、保健、司法および保安などの各局を組織しました。

 各局と地方人民委員会は、この期間に経済生活を正常化する活動で少なからぬ成果をおさめました。

 しかし、こんにちまで我々のおこなってきた活動が満足なものだとは言えません。現在、各局と地方人民委員会の活動には多くの困難と欠陥があります。

 まず、最も重要なことは、いまなお北朝鮮に中央政権機関が組織されていないことです。

 現在まで、北朝鮮には各局の活動方向を示し、それらを指導すべき一元的な北朝鮮中央政権機関がありません。これは、北朝鮮の政治・経済・文化生活を統一的に、計画的に発展させるうえに大きな支障となっています。

 各局は、経済・文化生活の当該部門だけで活動しています。ところが各局の活動は互いに密接につながっています。現実は、それぞれの局が単独では解決できない問題がますます増えていることを示しています。

 例えば、工業を復興させることは産業局の課題ですが、これは他のすべての局の活動とつながっています。交通局は、人民経済各部門の発展に協力する方向で輸送を保障しなければなりません。財務局の仕事は、工業、農業、商業、運輸、教育、保健など、人民経済各部門の事業と密接なつながりをもっています。教育局は、人民経済のすべての部門に必要な人材を養成しなければなりません。

 これらすべては、各局の上位に立って、その活動を総合し指導する中央機関が切実に必要であることを示しています。こんにち、北朝鮮に中央政権機関を組織することは、完全に機の熟した課題です。

 我々は、我が国に統一政府が樹立されるまで、北朝鮮臨時人民委員会がそういう機関になるべきであると考えます。

 中央政権機関を組織することは、人民大衆の利益にかない、朝鮮に民主主義的秩序をうち立てる課題と完全に合致する措置であります。中央政権機関、すなわち北朝鮮臨時人民委員会を組織しようという意見は、民主的な政党、大衆団体の指導者たちから提案されました。中央政権機関を組織するため、北朝鮮の民主的な政党、大衆団体の指導者たちは発起委員会を組織しました。

 北朝鮮臨時人民委員会の委員を選出し、当面の重要な課題を討議するために、きょう我々は北朝鮮6道の人民委員会と民主的政党、大衆団体の代表者会議を招集したわけであります。

 現段階における北朝鮮臨時人民委員会の課題はなんでしょうか。

 第1に、地方政権機関をしっかりとかため、政権機関から親日派や反民主的分子を一掃すべきであります。これは、北朝鮮臨時人民委員会の最も重要な当面の課題です。

 自由、独立の新しい民主朝鮮を建設するためには、なによりもまず人民の敵である親日派や反民主的分子との闘争を積極的に展開して、反動勢力を徹底的に掃討しなければなりません。我々が政権機関に裏切り者や反逆者をそのままにしておいたのでは、民主的な新しい朝鮮を建設することはできません。それゆえ、各道、市、郡の人民委員会と各民主政党、大衆団体は、必ず民族反逆者を徹底的に暴露し、我々の隊列からかれらを追い出さなくてはなりません。

 第2に、土地改革を実施し、日本帝国主義者と民族反逆者および朝鮮人地主の土地を没収して、耕作する農民に無償で分け与え、山林を国有化しなければなりません。

 我が国において、農業は人民経済の基本的部門であります。日本帝国主義支配のもとでは、大部分の土地が日本人と朝鮮人地主の手に集中され、圧倒的多数の農民は土地をもたないか、または少ししかもたない農民でした。いま、封建的小作制度は反動勢力の経済的基礎となっています。地主は、封建的小作制度をそのまま維持しようとしており、どのような民主的改革にも反対しています。

 土地改革をおこなわずには、農業を復興発展させることも、民主主義的自主独立国家を建設することもできません。土地改革を実施するのは、我が国の農民の長いあいだの念願を実現することであります。

 第3に、生産企業所を復旧、発展させなければなりません。

 生産企業所を復旧、発展させれば、失業者をなくすことができ、人民の生活水準を向上させ、人民経済を発展させることができます。

 第4に、鉄道および水上運輸を復旧しなければなりません。

 鉄道および水上運輸は国の動脈です。これなしには、国家経済の正常な発展はとうてい考えられません。北朝鮮の各道は、互いに経済的なつながりをもっており、我々はこのつながりをいっそう発展させなければなりません。各道間には、経済的連係のほかにまた政治的・文化的連係が必要です。ところがいま、運輸事業は無秩序な状態にあります。我々は、必ず破壊された運輸部門を速やかに復旧しなければなりません。これは、産業と商業の復興発展を大いに促進することでしょう。

 第5に、財政金融体系と商品流通体系を整備しなければなりません。

 人民経済の復興と発展は、財政金融体系の組織、商業の発展、都市と農村間および各道間の円滑な商品交流がなければ不可能であります。

 我々は、あらゆる収入源をあますところなく探し出し、資金支出を正確におこない、適当な通貨量を保障し、投機業者とたたかうようにすべきであります。

 第6に、企業家や商人の自由な活動を保障し、中小企業を奨励しなければなりません。こうすれば、人民生活に必要な消費物資を解決することができます。

 第7に、労働運動に援助を与え、各工場、企業所に工場委員会を広範に組織しなければなりません。

 朝鮮を民主主義的自主独立国家として発展させるには、必ず広範な人民大衆、まず労働者を政治生活に積極的に引き入れなければなりません。

 労働組合と工場委員会は、労働者の利益を代表するとともに、労働者階級を社会活動に引き入れる大衆的団体です。我々は労働組合を強化し、企業所と運輸部門に工場委員会を広く組織して、労働者の政治的熱意を著しく高め、経済建設をいっそう促進させていくでしょう。

 第8に、国の民主的発展に適応するよう教育制度を改革しなければなりません。

 日本帝国主義の植民地奴隷教育制度によって、多くの朝鮮人は無知と蒙昧のなかにさまよい、我が青少年は反動的な日本帝国主義思想の悪影響を受けるようになりました。

 教育制度の徹底的な改革をおこない、新しい人民的、民主的教育制度をうち立てて勤労者の子弟に学びの道をひらき、青少年の頭から日本帝国主義思想の残りかすをきれいにぬきさらなければなりません。

 第9に、人民大衆を民主主義の思想で教育し、かれらのあいだで文化啓蒙活動を広く展開しなければなりません。このようにしなければ、人民の政治的自覚と文化水準を高め、我が国の民族文化を発展させることができません。

 この分野で、これまでになしたことはほんの始まりにすぎず、我々には多くの仕事がひかえています。これもまた、北朝鮮臨時人民委員会が必ず遂行しなければならない重要な仕事であります。

 第10に、朝鮮にかんするモスクワ3国外相会議の決定の真意を、人民大衆に広く解説しなければなりません。

 反動分子は、モスクワ3国外相会議の決定、ことに、後見制にかんする概念をねじまげて解釈しようと試みています。かれらは、朝鮮人民にこの決定にたいする誤った認識を与え、人民の統一を破壊し、民主主義的統一戦線を切り崩すことによって、朝鮮の真の民主主義的独立国家の建設を妨げようと企んでいます。

 それゆえ、朝鮮にかんするモスクワ3国外相会議の決定の真意を人民大衆のなかに深く浸透させる活動は、各級人民委員会の当面する重要な課題であります。

 北朝鮮臨時人民委員会の当面の課題は、だいたい以上のとおりです。

 この膨大で複雑な課題は、中央政権機関なしには、言いかえれば地方人民委員会と各行政局の活動を指導する機関なしにはとうてい解決できません。したがって私は、この会議に参加した各行政局、各級人民委員会、民主的政党、大衆団体の代表たちが、北朝鮮臨時人民委員会を組織する必要性を極めて明確に理解されるものと信じます。

 私は、この会議が北朝鮮臨時人民委員会の組織にかんする問題を討議し、適切かつ具体的な決定を採択するよう提議します。

出典:『金日成著作集』2巻


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