金 日 成

進歩的民主主義について
平壌労農政治学校の学生におこなった講義
−1945年10月3日−


 世界征服の野望をいだいて第2次世界大戦を引き起こしたドイツ侵略者は、5か月前に敗北し、その同盟者であった日本帝国主義者もさる8月15日無条件降伏を受諾せざるをえませんでした。こうして、第2次世界大戦は反ファッショ民主勢力の偉大な勝利に終わり、人類は既に平和的な生活を営みはじめました。

 国際ファシストにたいする反ファッショ民主勢力の勝利は、戦後の国際情勢に大きな変化をもたらしました。世界的範囲において反民主勢力は甚だしく弱体化し、民主勢力はかつてなく強化されました。これは、人類の歴史が新しい発展段階にさしかかっていることを意味します。

 新しい世界情勢は、全人類に偉大な栄えある新たな課題を提起しています。戦後、人類に提起された第一の重要課題は、侵略的なファシストの残存勢力を一掃し、平和と民主主義のためにたたかうことであります。こんにち世界各国の人民は、この崇高な課題を遂行するために力強くたたかっています。

 朝鮮人民は、日本帝国主義侵略者を打倒し、奪われた祖国を取り戻すために長期にわたって血みどろの闘争を展開し、ついに祖国解放の歴史的大業を実現しました。こうして、朝鮮人民は、約半世紀のあいだ強いられてきた暴虐な日本帝国主義の植民地奴隷のくびきをかなぐりすて、自主独立の道を力強く前進するようになりました。これは、朝鮮民族にとって偉大な歴史的出来事であります。

 我々は、多くの革命家や愛国的人民の貴い血の代価として取り戻した祖国の地に新しい朝鮮を建設するため全力を尽くさなければなりません。


 1 新しい朝鮮の建設と民主主義

 こんにち朝鮮民族には、日本帝国主義および封建主義の残りかすを一掃し、自由で独立した富強な国家を建設すべき重大な歴史的任務が提起されています。

 この建国事業を立派に遂行するためには、なによりもまず朝鮮の進路を正しく規定しなければなりません。朝鮮の進路を正しく規定せずには、人民大衆を建国事業に正しく奮起させることができないばかりでなく、祖国の完全な自主独立を達成することもできず、さらには朝鮮人民が再び植民地的奴隷生活を免れることができなくなるでありましょう。したがって、朝鮮がどの道を進むべきかということは、祖国と民族の運命にかかわる極めて重大な問題であります。

 解放を迎えた朝鮮人民は、かぎりない喜びと大きな希望をいだき、興奮のなかで日びを送っており、燃えるような建国の熱意にわきたっています。しかし、人民大衆は、いまどの道を進むべきかを判断しかねています。我々は、一日も早く朝鮮の正しい進路を人民大衆に示さなければなりません。

 朝鮮の進むべき道は、真の民主主義である進歩的民主主義の道であります。この道こそが朝鮮人民に自由と権利を与え、幸せな生活をもたらし、祖国の完全な自主独立を保障することができます。

 反動分子は、いま朝鮮人民を反民主主義の道に引きずりこもうとやっきになって策動しています。

 封建勢力は、愚かにも朝鮮に封建的専制制度を復活させようとしています。なんのために、人民大衆を過酷に抑圧し搾取していた腐敗しきった古い封建的専制制度を解放された新しい朝鮮に復活しなければならないのでしょうか。これは、時代錯誤の愚かな妄想であります。封建勢力のこのような反動的で反人民的な策動が、こんにち人民大衆の一致した糾弾を受けているのは当然のことであります。

 また一部の階層は、「民権」「民主」を唱えながら、朝鮮でのブルジョア共和国の樹立を主張しています。かれらのかかげている「民権」「民主」は、既に久しい以前にブルジョアジーによって提唱されたものです。歴史が示しているようにブルジョアジーは、「民権」「民主」の欺瞞的スローガンのもとに人民大衆を味方に引き入れて権力を握ると直ちにブルジョア独裁を樹立して人民を裏切りました。結局、一部の人が唱えるブルジョア共和国は、文字どおり地主、資本家階級のための政権であり、かれらのいう「民権」「民主」というのは少数の特権階級がすべての国家権力を掌握し、人民大衆にたいする抑圧と搾取をおおい隠すためのかくれみのにすぎません。

 朝鮮でのブルジョア共和国の樹立を主張している連中は、ほかならぬ買弁資本家であり、かれらは日本帝国主義の植民地支配当時に祖国と民族を裏切り日本帝国主義と結託して、朝鮮人民を抑圧し搾取した親日派、民族反逆者であります。親日派、民族反逆者は、アメリカ軍が南朝鮮に上陸すると親米を唱え、帝国主義勢力を後ろ盾にして朝鮮に反動政権を樹立し、朝鮮人民を反民主の道に引きずりこもうと企んでいます。

 我々は決して親日派、民族反逆者の狡猾な策動にだまされてはならず、朝鮮に「民権」「民主」といった聞こえのよいベールでおおわれたブルジョア共和国の樹立を許してはなりません。

 だからといって、朝鮮にいますぐ社会主義制度を樹立することもできません。いま一部の人は、朝鮮に直ちに「ソビエト」政権を樹立すべきだと騒いでいます。これは、朝鮮の具体的な現実をよく知らない者のたわ言です。

 かつて、日本帝国主義者は、ほぼ半世紀のあいだ朝鮮を占領し、悪辣な植民地政策を実施して朝鮮における資本主義的発展を甚だしく抑制しました。そのため朝鮮は、いまなお半封建社会としてとり残されています。現在、朝鮮には、日本帝国主義の残りかすばかりでなく、封建的関係が多分に残っており、特に農村には封建的搾取関係が支配的であります。

 新しい朝鮮を建設するうえで、このような朝鮮の現実を必ず考慮に入れなければなりません。建国事業において歴史の発展段階に合わない立ち後れた要求をかかけてもならず、また、それを飛び越えた要求をもちだしてもなりません。あくまでも、朝鮮の実情に即した建国目標をかかげ、大衆をその実現へと正しく導いていかなければなりません。

 こんにち朝鮮人民は、名実ともに人民大衆が国家の主人となり、すべての人に自由と幸福をもたらす進歩的民主主義の道を求めています。進歩的民主主義への道は、長いあいだ封建制度と日本帝国主義の植民地支配のもとでいかなる自由と権利ももたず、過酷な虐待と搾取を受けてきた三千万朝鮮人民の念願する道であり、祖国の隆盛発展と民族の限りない繁栄を約束する道であります。この道を進んでこそ、人民大衆は建国事業に力と知恵を尽くしてたたかい、新しい祖国建設の大業も立派に遂行されるでしょう。

 我々は、進歩的民主主義にもとづく自主独立国家を建設すべきであります。そのためには、民主主義人民共和国を樹立しなければなりません。現在、全国各地では、人民大衆の創意によって人民委員会が組織されています。我々は、一日も早くすべての地方に人民委員会を組織し、それにもとづいて民主主義人民共和国を樹立すべきであります。

 民主主義人民共和国は、朝鮮人民の意思にかなうだけでなく、朝鮮の現実に最も適した政権であり、これはいうまでもなく真の民主主義を具現した人民の政権であります。このような政権であってこそ、朝鮮人民の利益を積極的に守ることができ、祖国と民族の富強発展を確固と保障することができます。

 民主主義的自主独立国家を建設するためには、各階層のすべての愛国的人民を民主主義の旗のもとにかたく結集しなければなりません。新しい朝鮮建設の大業は、一つにかたく団結した人民大衆の力をよりどころにしなければ立派に遂行されません。現在のように各党、各派がそれぞれ自己の主張を前面におしたてて、別個に行動するならば、建国の大業はとうてい完遂されません。祖国と民族を愛するすべての同胞が、政見や信仰の相違、財産や知識の有無を問わず一つにかたく団結して建国事業に奮起するならば、祖国の完全自主独立を達成することができます。

 特に朝鮮の現状は、人民大衆を結集するため力強くたたかうことを切実に求めています。親日派、民族反逆者などの反動分子は、愛国者をよそおい、あらゆる甘言を弄してめざめていない人民を自己の側に引き入れようとしており、政治的野望の実現に狂奔しています。このような状況にあってすべての愛国的勢力を結集する活動を正しく進めないならば、反動分子の策動を適時に粉砕することも、新しい民主朝鮮を建設することもできません。

 広範な人民大衆を結集するためには、各階層のすべての愛国的民主勢力を結集する民族統一戦線を結成しなければなりません。

 朝鮮における民族統一戦線運動は、日本帝国主義者の植民地支配に反対してたたかった時期だけでなく、解放された現在もなお必要であります。もちろん、こんにちにおける民族統一戦線運動の内容と形式は以前とは異なっています。かつての反日民族統一戦線は、朝鮮にたいする日本帝国主義の植民地支配に反対し、朝鮮人民が植民地奴隷の境遇から脱して自由と独立をかちとるためのものであり、その運動は非合法の地下運動の形でおこなわれました。しかし、こんにち結成しようとする民族統一戦線は、日本帝国主義および封建主義の残りかすを一掃し、祖国の完全な自主独立を実現するためのものであり、その運動は合法的かつ公然の形で進められるものであります。

 この統一戦線は、あくまでも民主主義的な統一戦線であります。我々は、一日も早く民主主義的基盤のうえにたって民族統一戦線を結成し、労働者、農民をはじめ、各階層の広範な大衆を結集し、建国事業に力強く奮起させなければなりません。こうして、全人民の団結した力で、親日派、民族反逆者などの反動分子を一掃し、新しい朝鮮を建設しなければなりません。

 このように、我々が民主主義民族統一戦線を結成し、その運動を発展させていくならば、結局は統一的で自主的な政権、すなわち真の民主国家を建設することができるでありましょう。これこそ我々の進むべき進歩的民主主義の道であります。


 2 我々の民主主義の特徴

 我々の指向する民主主義は、欧米資本主義諸国の「民主主義」とは根本的に異なり、また社会主義国家の民主主義をそのまま真似たものでもありません。36年間の日本帝国主義の植民地支配からぬけだしたばかりの朝鮮に、欧米資本主義諸国の「民主主義」や社会主義国の民主主義をそのまま適用しようとするならば、それは大きな誤りであります。

 我々の民主主義は、反帝反封建民主主義革命段階にある朝鮮の現実に最もふさわしい新しい型の民主主義であります。それゆえ、我が国の民主主義はいくつかの特徴をもっています。

 それでは、我々の民主主義の特徴はなんでしょうか。


 1 自主。我々の民主主義は、自主の特徴をもっています。

 こんにち、全民族の第一の基本的要求は、完全な民族独立を達成することであります。かつて朝鮮人民は、日本帝国主義者に祖国を奪われ、むごい奴隷生活を強いられ、亡国の悲しみを骨身にしみて体験しました。それゆえ、祖国解放の歴史的大業が実現されたこんにち、朝鮮人民は一日も早く完全な独立国家を樹立するため積極的にたたかっているのであります。

 完全な民族独立を達成するためには、自主的な独立国家を建設しなければなりません。自主は、真の民族独立の不可欠の要求であります。自主的な立場を堅持せずには、完全な民族独立をかちとり、民族の尊厳と利益を守りぬくことができず、祖国と民族の繁栄を遂げることができません。

 自主的な独立国家となるためには、必ず進歩的民主主義を具現しなければなりません。我々の民主主義は、他国への依存と従属に反対し、建国事業で提起されるすべての問題をみずから判断し、自力で解決する自主的な立場と創造的な態度をもつことを求めています。したがって、真の民主主義にもとづく国家であってこそ、強力で尊厳のある自主的な国家、完全な独立国家となることができるのであります。

 いま一部の人は、民族独立がおのずと達成されることを願い、他国の人たちが朝鮮に独立国家を建設してくれるのを望んでいますが、これは愚かな考えであります。果たして、他国の人たちが我が国を建設してくれるでしょうか。そのようなことは絶対にありえません。

 他国の力で民族独立を達成しようとするのは、他人にすがって生きようとする事大主義的な考え方であります。もし、我々が朝鮮人民の力に頼らず、誰かが新しい朝鮮を建設してくれるものと期待するならば、完全な民族独立の達成はおろか、朝鮮を再び帝国主義の植民地に転落させることになるでしょう。

 真の民主国家を建設するためには、必ず自分自身の力で建国事業を遂行しなければなりません。我々が主人としての態度を堅持して、建国事業で提起されるすべての問題を自国の実情に即して解決し、あらゆる困難を自力で乗り越えるために積極的にたたかうならば、新しい民主朝鮮を成功裏に建設することができ、また完全かつ強固な民族独立を達成することができるでしょう。

 我々は自主的立場を堅持し、新しい祖国の建設のために全力を尽くさなければなりません。こうして、日本帝国主義の植民地支配と封建主義の残りかすを一掃し、我が国を進歩的民主主義にもとづく真の自主独立国家につくりあげなければなりません。

 自主の特徴をもつ我々の民主主義の本質的要求を具現したこのような独立国家は、他国の干渉も、他国への従属も許さないでありましょう。

 我々の民主主義は、地図への従属に反対するばかりでなく、他国を従属させることにも反対します。進歩的民主主義を具現した自主独立国家は、他国の内政に干渉せず、その自主権を尊重します。

 他国を侵略し従属させるのは、帝国主義国家の本性であります。帝国主義国家は、他国の自主権を乱暴に踏みにじり、内政に干渉し、弱小国家を侵略し従属させるためにあらゆる陰謀策動をはたらきます。民主主義的自主独立国家はいかに強大になっても、決してこのような帝国主義国家のようになってはなりません。

 今後、朝鮮に樹立される民主主義国家は、朝鮮民族の自主権を尊重する国家や民族とは平等と互恵の原則に立って外交関係を結び、友好をはかるために努力すべきであります。


 2 連合。我々の民主主義は、連合の特徴をもっています。

 我々の民主主義は、特定の階級、政党、団体、宗教のためのものではなく、広範な人民大衆のための民主主義であります。したがって、この民主主義は、反帝的で愛国的なすべての階級、政党、団体が参加する民族統一戦線の結成と、各階層の広範な愛国的人民の連合を必要とします。これは、我々の民主主義が全民族の利益を中心にすえ、すべてをこれに服従させる原則を具現しているからであります。

 現在一部の人は、このような我々の民主主義の要求を正しく認識できず、誤った主張をしています。

 一部の人は、なにはともあれ団結しようというスローガンをかかげて人民の敵とも統一戦線を結ぼうとしており、また一部の人は、味方にできる人まで排斥する極左的なスローガンをもちだしています。その結果、すべての愛国的勢力の連合に支障をきたしています。我々は、進歩的民主主義の本質的要求に即して民族統一戦線を正しく結成し、広範な大衆をかたく団結させなければなりません。

 こんにち、朝鮮で反帝反封建民主主義革命を遂行し、民主主義的自主独立国家を建設することは全民族の念願であります。親日派、民族反逆者など民族の敵を除外した各階層の人民は、すべて解放された朝鮮に民主主義的自主独立国家が建設されることを渇望しています。

 朝鮮の労働者階級と農民大衆は、かつて日本帝国主義の植民地支配のもとで最小限度の自由と権利まで奪われ、最も過酷な抑圧と搾取を受け、無権利と飢えのなかで苦しんできました。それゆえかれらは、日本帝国主義および封建主義の残りかすを一掃し、新しい民主朝鮮を建設しようとする建国の熱意に燃えています。日本帝国主義の野蛮な植民地支配のもとで民族的抑圧とさげすみを受けてきた朝鮮の知識人や青年学生も、かれらの自由な活動を保障し、民主主義的民族文化と民族教育を発展させる新しい朝鮮の建設を求めています。また、小商人や手工業者はもちろん、良心的な民族資本家も日本帝国主義の植民地支配のもとで企業活動の自由を抑えられ、日本独占資本によって経済的破産の憂き目にあっただけに、日本帝国主義の残りかすを一掃し、個人企業の発展を保障する新しい朝鮮の建設を望んでいます。愛国的な宗教家も民族的独立を達成せずには信仰の自由がありえないことを痛感し、新しい国家の建設に積極的に参加することを望んでいます。

 このように、各階層の人民がすべて新しい民主朝鮮の建設に切実な利害関係をもっているため、民主主義的自主独立国家の建設は全民族的な課題として提起されます。このような利害関係の共通性から、全人民が民主主義的基盤のうえに立って統一戦線を結成してかたく連合し、また、団結することができるのであります。

 我々の民主主義は、まさに、このような全民族の利益と人民大衆の要求を反映しています。したがって、それは統一戦線的連合の特徴をもち、最も広範な人民大衆に奉仕する進歩的民主主義となるのであります。

 ところで必ず知っておくべきことは、我々の民主主義がすべての愛国的勢力の連合を要求しながらも、各階層の独自性を保障するということであります。

 我々の統一戦線は、民族の全般的利益にもとづく各階層の連合であります。しかし、この一般的連合のなかに具体的な独自性があります。すべての階級、政党、団体は、民主主義という一つの旗のもとにかたく団結しながらも、政治および思想において、組織・宣伝活動において独自性をもって活動し、発展する自由を有するのであります。

 全民族的連合を保障するからといって、各階層の独自性を無視してはなりません。各階層の連合のみを前面におしだし個別的階層の独自性を認めないならば、各階層の人は統一戦線活動に関心をもたず、建国事業に創意と積極性を発揮しなくなり、したがって、民族統一戦線の結成と全民族的課題の遂行に大きな支障をきたすことになるでしょう。それゆえ、我々民主主義者は、全民族的連合のためにたたかいながらも、各階層の独自性を尊重しなければなりません。

 しかし、個別的独自性を過度に強調してはなりません。個別的独自性は、全民族的統一の見地からの許容限度を越えてはならず、民族の全般的利益の範囲からはみだしてはなりません。もし、それぞれの階級や政党、団体の独自性を必要以上に許すならば、民族的統一をなし遂げることはできず、建国事業に全人民の力を正しく動員することもできないでしょう。こうなれば、結局、全民族の根本利益はもちろん、各階層の利益を保障することもできなくなるでしょう。

 個別的独自性を生かしつつ、一般的連合を実現するのは、我々の民主主義の重要な要求であります。各階層の独自性を十分に考慮に入れながら、全民族的連合を実現するときにのみ、真に強固な統一戦線を結成することができ、全人民が幸せに暮らせる新しい社会を速やかに建設することができます。

 我々は進歩的民主主義を徹底して具現し、一日も早く民族統一戦線を結成して全民族の統一と団結を実現し、全人民の力を新しい朝鮮の建設に積極的に動員しなければなりません。


 3 自由。我々の民主主義は、人民大衆に自由と平等を保障します。これは、進歩的民主主義の重要な特徴の一つであります。

 ブルジョア民主主義は、少数の特権階級にのみ自由と権利を保障し、広範な人民大衆には無権利と不平等をもたらします。ブルジョア民主主義が主張する「自由」「平等」は、ブルジョアジーの専横をおおい隠すための一つの手段にすぎません。

 我々の民主主義はブルジョア民主主義とは根本的に異なっています。我々の民主主義は、無権利と不平等に徹底して反対し、政治、経済、文化などすべての分野で人民に平等な権利を保障し、人民大衆が自由と平等権を実質的に行使できるようにするものです。

 それゆえ、我々の民主主義のもとでは、特権層などありえず、人びとの政治的権利はすべて平等であります。売国奴や民族反逆者をのぞく20歳以上のすべての男女公民は、階級・民族・信仰、職業、財産、知識にかかわりなく、誰もがすべて選挙権と被選挙権をもつようになります。各級の政権機関には、ある特定の人物ではなく、人民の自由意思によって選出された人びと、つまり大衆の信望の厚い人民の忠僕がはいって働き、かれらによって国家の政治がおこなわれます。そのようにして人民大衆は、政治的権利を直接行使し、国家の政治に実質的に参加するのです。

 我々の民主主義を具現した真の民主主義国家は、人民に言論、出版、集会、結社、信仰、居住の自由を保障し、人民大衆の自由と平等権を政治的、経済的に確固と裏付けています。

 しかし、民主的自由は必ず中央集権的統一性と結びつかなければなりません。

 民主主義と中央集権制は、互いに切り離すことのできない一つの全一体をなしています。民主主義が保障されずして真の中央集権制を考えることはできず、反対に中央集権制が保障されずして真の民主主義を考えることはできません。それゆえ、民主主義と中央集権制を正しく結合させることは極めて重要な問題であります。

 民主的自由と平等は、中央集権的統一性によって確固と保障されます。中央集権的指導と規律があってこそ、民主的自由と平等を侵害する現象を適時に取り除き、大衆のなかで民主主義を十分に発揮させ、真に民主的な方向で自由と平等を正しく実現することができます。もし、中央集権的指導と規律がなければ、民主的自由と平等が保障されないばかりか、無政府状態を生みだすことになるでしょう。結局、民主的自由と平等が中央集権的統一性と結びつかなければ、それは無意味なものとなるでしょう。したがって、中央集権的統一性を保障することは、人民大衆の民主的自由と平等を実現する不可欠の条件となります。

 だからといって、中央集権的統一性のみを一面的に強調してはなりません。中央集権的指導と規律のみを重視し、民主的自由を軽視するならば、中央集権的統一性そのものを弱める結果をまねくでしょう。

 中央集権的統一性は、民主的自由と平等にもとづくときにみ強固なものとなります。人民大衆の政治的自覚が高まり、かれらが民主的自由と平等の権利を正しく行使して国家の政治に積極的に参加するようになればなるほど、中央集権的規律はいっそう強化されます。それゆえ、中央集権的統一性を強化するためには、必ず人民に民主的自由と平等を保障し、大衆のなかで民主主義を十分に発揚させ、大衆を国家の政治に自覚的に、積極的に参加させなければなりません。

 このように民主的自由は、中央集権的指導に依拠しなければならず、また、中央集権的指導は民主的自由にもとづかなければなりません。中央集権的指導に依拠した民主的自由こそ真の民主主義であり、民主的自由にもとづく中央集権的指導こそ真の中央集権制であります。

 我々は民主主義と中央集権制を正しく結びつけ、真の民主的自由と平等を実現して、人民大衆が国の完全な主人公となり、建国事業にすべての力と情熱をささげるようにしなければなりません。


 4 富強。我々の民主主義は、自主独立と民族的統一と民主的自由を指向するのみでなく、富強な国家の建設をも指向します。

 我々の民主主義は、少数特権階級の栄耀栄華のためのブルジョア民主主義とは異なり、全人民の幸せと繁栄のために奉仕するものです。それゆえ、富強を国家を建設することは、我々の民主主義の不可欠の要求となるのであります。豊かで強力な国家を建設するならば、人民の物質・文化生活を向上させ、人民に実質的に幸福な生活を保障し、ひいては国家の自主権を強化し、国際舞台にも他国と同等の権利をもって進出することができます。

 富強国家を建設することは、進歩的民主主義を発展させる裏付けでもあります。祖国が富強であれば、我々の民主主義が確固とした基盤のうえに立って強化され、その生命力を十分に発揮することができます。

 富強な国家を建設するためには、人民の政権を樹立したのち民族経済を復興させ、国家の経済土台を強固にきずき、民族文化を開花させ発展させなければなりません。経済と文化を発展させずには、祖国と民族の隆盛発展は望めず、完全な独立をなし遂げることもできません。したがってなによりもまず、日本帝国主義が破壊した国の経済を復興発展させ、日本帝国主義者によって踏みにじられた民族文化を復興発展させるためにたたかわなければなりません。

 国家の経済、文化の建設は、当然、各階層の利益と密接に結びつかなければなりません。我々は、国の全般的な経済と文化の発展のために努力を傾けながらも、各階層の利益を考慮すべきであり、その地位を改善するための十分な条件をととのえなければなりません。

 労働者に職場を保障し、労働者にたいする帝国主義的・植民地的抑圧と搾取の残りかすを一掃し、その労働条件をたえず改善しなければなりません。農民のためには、高い小作料や高利貸しをなくし、ひいては土地改革をおこなって、「土地は耕作する人だけがもつ」という原則を実現しなければなりません。中小商工業者にも、国家的利益に抵触しない範囲で自由な企業活動を保障すべきです。我々は、過重な税金をなくし単一で公正な税制を実施し、合理的な所得税制を制定して、勤労大衆を重い税負担から解放しなければなりません。これとともに、知識人に科学と技術を自由に探求し、その才能を十分発揮できる道を開くべきであり、貧困家庭の子弟をすべて学校へ行かせ、学生が思う存分学べるようにしなければなりません。また、愛国的な各界の人士がすべて素質と能力に応じて働き、その才能を存分に発揮できるようにすべきであります。

 各階層人民の地位の改善は、新しい朝鮮の建設において大きな意義をもっています。各階層人民の地位が改善されれば、新しい朝鮮の建設を人民大衆自身の仕事に確固と転換させることができ、大衆の創意と積極性を発揮させて富強な国家を建設することができます。

 我々は全人民を奮起させ、新しい祖国の建設を力強くおし進めなければなりません。こうして、すべての人が衣食にこと欠くことなく働き、学べる富強な民主国家を建設すべきであります。


 5 革命。我々の民主主義の重要な特徴の一つは、革命を指向しているところにあります。
 
 人類の歴史は、とりもなおさず古い社会の遺物を一掃する革命の過程であります。革命なくしては、社会の発展もありえず、自主独立国家の建設も期待できません。

 我々の民主主義は、政治、経済、文化、思想のすべての分野で悪辣な日本帝国主義の植民地支配の残りかすを一掃し、民主主義運動に弊害を及ぼす封建主義の残りかすをも妥協することなく一掃することを要求します。これは、改良に反対し革命を指向する我々の民主主義の本質に根ざすものであります。

 民主主義的自主独立国家を建設するためには、反帝反封建民主主義革命を遂行しなければなりません。なによりもまず、日本帝国主義の残存勢力と封建勢力を一掃すべきであり、日本帝国主義のファッショ的植民地支配機構の残りかすを完全に除去して真の人民政権を樹立し、人びとの頭から日本帝国主義と封建主義の思想の残りかすを根こそぎにしなければなりません。これとともに、土地改革と重要産業の国有化を実施し、婦人に男子と同等の権利を与え、教育、司法の民主化をはじめ、各種の民主的改革を実施しなければなりません。

 反帝反封建民主主義革命が徹底的に遂行されれば、日本をはじめとする帝国主義者が二度と朝鮮に侵略の魔手をのばせないようにすることができます。また、こうすることによって、自主独立と民族的統一は達成され、民主的自由の獲得と富強な国家の建設が可能です。

 ところが現在、一部の人は、日本帝国主義および封建主義の残りかすに反対する闘争を避けています。一部の人は、「朝鮮には、もはや日本帝国主義の残りかすが全くなくなった」と言っています。甚だしくは、親日派、民族反逆者と合作しなければ、自主独立国家の建設は不可能だと説く者もいます。親日派、民族反逆者を一掃し、日本帝国主義者とその手先の財産を没収して国有化すべきだという我々の主張にたいして、一部の者は「それは過激すぎる」「みな手をとり合って建国事業を進めるべきだ」といって、民族の敵に無益な同情をよせ、かれらを庇護しています。

 革命を否定し、無原則な統一を主張するこのような不徹底な思想と政治的見解は、民族の統一と団結の実現に大きな支障をきたし、建国事業にも極めて有害なものであります。

 我々の民主主義は、反帝的な民主主義者とは手をとり合って進むが、人民の敵とは妥協することなくたたかうことを要求します。もちろん、建国事業を立派におこなうためには、広範な大衆を結集し各階層と団結しなければなりません。だからといって、誰かれなく団結しようとしてはなりません。祖国と民族を愛する愛国的な各階層とは手を握るべきですが、親日派、民族反逆者とは決して手を結ぶことはできません。かつて、祖国と民族を裏切り、小磯や阿部などのような日本帝国主義の総督とぐるになって「民族自治」を騒ぎたてた「政客」とどうして団結することができましょうか。かれらと手を握るのは、祖国と人民に背く誤った行動であることは言うまでもありません。

 こんにち親日派、民族反逆者は、かつての地位を取り戻そうと狂奔しています。かれらは、朝鮮は「委任統治を受けるべきだ」と言いながら、全民族の根本利益に反する反逆的な行動をはたらいています。まさに、このような連中こそ、かつて日本帝国主義の植民地政策を積極的に支持し、日本帝国主義者と結託して、侵略的な「大東亜戦争」を口実に朝鮮人民の生命、財産を手当たりしだいに略奪した者たちであります。こうした連中をそのままにしておいては、新しい朝鮮を建設することができません。

 朝鮮の広範を人民大衆は、愛国者の仮面をかぶった、えせ民主主義者と手を握るのではなく、反対にかれらを一掃し、反帝的で愛国的な民主的政党や各階層の人士を結束し真の団結を実現して朝鮮革命を正しく遂行することを望んでいます。親日派、民族反逆者などの反動分子にあくまで反対し、祖国と民族を愛する各階層人民の真の団結を実現し、建国事業を積極的におし進めていくならば、南北朝鮮の差をなくし、統一した富強な新しい民主朝鮮を建設することができます。

 我々は、革命を否定するすべての誤った傾向を徹底的に排撃し、広範な人民大衆を結集して朝鮮革命を正しく遂行するために力強くたたかわなければなりません。こうして、反帝反封建民主主義革命を立派に遂行し、民主主義的自主独立国家の建設を促進しなければなりません。


 6 平和。我々の民主主義は、平和を指向しています。

 ブルジョア民主主義は、人民相互間の不和をかもしだし、他国にたいする侵略と略奪のための戦争の手段として利用されますが、我々の民主主義は人民相互間の親睦と親善をはかり、平和の維持強化に奉仕します。

 我々の民主主義は、広範な人民大衆のための民主主義であり、人民が自由で幸福に暮らせる新しい社会の建設を指向しているがゆえに、人民相互間の反目と嫉視を徹底して排撃し、自国の平和と世界の平和のためにたたかうことを重要な課題としています。それゆえ、我々の民主主義を実現するために力強くたたかうならば、祖国の平和を保ち、世界の平和を達成するうえに大いに寄与するでしょう。

 我々は進歩的民主主義の要求に即して、国の平和を維持し強固にするために努力しなければなりません。国の平和を保つためには、なによりもまず各階層の人民と民主的諸政党がよい関係を結び、協力して建国事業を進めなければなりません。

 現在一部の人は、人民相互間の親睦と団結に支障をきたす良くない行動をおこなっています。一部の共産党員は、あたまから民主党に反対しています。もし、民主党員のなかに、人民に反対し、民主主義に反対し、共産党に反対する分子がいるとするならば、もちろん断固たたかうべきです。しかし、民主党のなかに幾人かの悪質分子がいるからといって、民主党そのものに反対するのは正しくありません。また、一部の民主党員は、あたまから共産党に反対していますが、これもやはり極めて危険な傾向であります。

 このように無原則に他党を排斥し、反対する傾向が助長されれば、広範な勤労大衆の利益と要求に反対し、我々の民主主義運動と人民大衆の団結に大きな支障をきたすようになります。いま一部の人のなかにあらわれている他党に反対する誤った現象は、各階層人民相互間の衝突を引き起こし、国の平和を破壊する重大な結果をもたらしかねません。

 我々は、国の平和を守る活動に支障をきたす誤った傾向を一掃するため特別の注意を払わなければなりません。我々は、国の平和を破壊しようとする反動分子の策動を徹底的に粉砕する一方、各階層人民および政党間に反目や不和を生みだす恐れのあるあらゆる現象と断固たたかわなければなりません。そして、どの党の党員であれ、どのような人であれ、愛国者はすべて民主主義の旗のもとにかたく結集し、歩調を合わせて建国事業でその責任をまっとうすべきであります。

 我々は国の平和のためにたたかうと同時に、世界平和のためにもたたかわなければなりません。

 平和はおのずと実現するものではなく、闘争を通じてたたかいとらなければなりません。世界の反動勢力は、機会さえあれば他国を侵略しようと狙っており、平和を蹂躙し、人民を戦争の惨禍に巻き込もうと狂奔しています。このような侵略勢力に反対してたたかわずしては、世界平和を維持し強固にすることができません。全世界の平和愛好人民が、力を合わせて平和を破壊しようとする世界反動勢力の陰謀策動をそのつど暴露し、かれらに反対する闘争を強化しなければ、ゆるぎない世界平和を達成することができません。

 我々は全世界の平和愛好人民との友好をはかり、かれらとかたく団結して帝国主義と戦争勢力に反対する実践闘争を積極的に展開し、世界平和の大業に大きく寄与しなければなりません。

 我々の民主主義の特徴は、およそ以上のようなものであると言えます。


 3 人民政権を樹立するための活動を促進しよう

 自由と解放の喜びをいだいて新しい朝鮮の建設に踏み出した朝鮮人民は、日本帝国主義の植民地支配機構を粉砕し、真の人民政権を樹立するためにたたかっています。我々は、人民大衆の建国熱意を正しく動員して人民政権を樹立するための活動を積極的に展開しなければなりません。

 人民政権を樹立するためには、各級の人民大会を招集しなければなりません。我々が招集しようとする人民大会は、人民大衆を翻弄してなにかの地位を得るためのものではなく、大衆の意思を反映し、人民の代表を選出するための大会であります。

 人民大会の招集は、朝鮮人民の政治生活における大きな出来事であります。朝鮮人民は、人民大会を通じて歴史上はじめて政権の建設に直接参加し、自分たちが政権の主人であることを深く認識するようになるでしょう。人民大会は、朝鮮人民のレベルを点検する重要な契機となるばかりでなく、人民大衆を政治的にめざめさせ、その建国熱意をいっそう高める偉大な政治学校となるでしょう。

 我々は各級の人民大会において、里から中央にいたるまでの各級政権機関で人民のために忠実に尽くす人びとを人民の総意によって選出しなければなりません。こうして、各級の人民委員会を構成し、中央政府を樹立しなければなりません。

 人民の総意によって樹立されたこのような政権でなければ、人民の利益のために奉仕する真の人民政権となることができません。人民大会で選出された人民の代表からなる政権のみが、全朝鮮人民を代表することができ、完全な資格をもった国家主権となり、人民大衆を立ち上がらせて統一した富強な国家を建設することができるのです。

 現在、反人民的で反民主的な分子は、人民大会の招集に反対し、自分勝手に政府をつくりあげようとしています。かれらは、いくつかの政党の党首の意思によって閣僚を任命または解任できるようにしようとしています。これは、人民のための真の政治運動ではなく、純然たる政権欲から出発した愚かな反人民的策動であります。

 我々は、反人民的・反民主的分子のあらゆる陰謀を徹底的に粉砕し、人民大会を通じて民主主義的中央政府を樹立する闘争を強力に展開しなければなりません。なによりもまず新しい祖国建設の有利な条件がととのっている北朝鮮で人民政権の樹立を促進し、民主主義的中央政府樹立の土台を確固ときずかなければなりません。

 我々は、進歩的民主主義の本質を正しく認識し、それを徹底的に実現して、真の人民政権である民主主義人民共和国を樹立し、富強な新しい民主朝鮮を建設しなければなりません。

出典:「金日成著作集」1巻

 参考:小磯国昭=第8代朝鮮総督、1942年5月就任。阿部信行=第9代朝鮮総督、1944年8月20日就任。


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