朝鮮の法律

朝鮮民主主義人民共和国
環境保全法
朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第7期第5回会議で採択
-1986年4月9日-




   次 
第1章 環境保全の基本原則

第2章 自然環境の保存と造成
第3章 環境汚染の防止
第4章 環境保全に対する指導管理
第5章 環境破壊に対する損害補償および制裁


第1章 環境保全の基本原則

 第1条 環境保全は、人民大衆に自主的で創造的な生活環境を保障する崇高な事業である。

 国家は人民に文化的で衛生的な環境と労働条件を保障するため、国の環境の保全、管理につねに深い関心を払う。


 第2条 環境保全は、社会主義・共産主義建設で恒久的に堅持していくべき重要な事業である。

 国家は朝鮮労働党の指導のもとに、環境の保全、管理における成果を強固にし、工業をはじめ、当該経済部門の近代的発展に伴い、環境をより立派に保全、管理する対策を講じ、これに対する投資を系統的にふやす。


 第3条 国家は人民の志向と要求に即応して国の環境を整えるため、環境の保全、管理を計画的に、将来を見通して行う。

 国家は、環境保全の原則に基づいて都市と村落を形成し、工場、企業所などの産業施設を合理的に配置する。


 第4条 生産に先立って環境保全対策を講ずるのは、公害予防と生産正常化の重要な要求である。

 国家は工場、企業所、協同団体が公害防止対策を講じてから生産を行うよう指導統制し、環境保全の物質的・技術的手段の絶え間ない近代化をはかる。


 第5条 環境の保全、管理は全人民の神聖な義務である。

 国家は人民に対する社会主義的愛国主義教育を強化し、かれらが祖国の山河と郷土を愛し、国の環境をより立派に保全、管理する事業に自発的に参加するようにする。


 第6条 国家は公害から環境を保全する科学研究活動の発展をはかり、環境保全科学機関をしっかり整え、それに対する指導を強化する。


 第7条 核兵器、化学兵器の開発と実験、使用を禁止し、それによる環境の破壊を防止するのは世界各国人民の一致した志向であり要求である。

 朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮半島とその周辺での核兵器、化学兵器の開発と実験、使用による団の環境の破壊、汚染に反対してたたかう。


 第8条 団家は、我が国に友好的な各国との環境保全分野における科学技術交流と協力を発展させる。


 第9条 本法は、大気と水、土壌、生物などの環境を損傷、破壊および汚染から保全する原則と秩序を規制する。

 本法に規制されていない土地と森林資源などの自然環境の造成と保全、管理秩序は『朝鮮民主主義人民共和国土地法』に準ずる。


第2章 自然環境の保存と造成

 第10条 自然環境を立派に保存し造成するのは、人民に立派な生活環境を保障し、次代により美しく文化的な環境を譲り渡すための要求である。

 各機関、企業所、団体および公民は、自然環境を保存し、それを人民の健康増進と文化的でうるおいのある生活に有利に整え、立派に保全、管理しなければならない。


 第11条 自然環境を国家的に保存するため、自然環境保護区と特別保護区を設ける。

 自然環境保護区と特別保護区の設定は政務院が担当する。


 第12条 国土管理機関と自然保護科学機関、地方政権機関は、自然環境保護区と特別保護区における動植物の変化、地形と水質の変化、気候変動など、自然環境の変化を系統的に調査、登録し、必要な保全、管理対策を講じなければならない。

 自然環境保護区、特別保護区内では、自然環境の原状保存と徹底した保全、管理に支障をきたす行為を禁止する。


 第13条 機関、企業所、団体および公民は、都市と村落、道路と鉄道沿線、湖畔、川辺の風致林を伐採し、名勝地と海辺の松林、海水浴場、奇岩怪石、優雅で奇妙な山容、風光明媚な島などの自然風致を損傷させたり破壊してはならない。


  第14条 機関、企業所、団体および公民は、名勝地、観光地、休養地に炭鉱、鉱山を開発したり、環境保全に支障を与える建物、施設物を建てる行為をしてはならず、洞窟、瀑布、城址などの天然記念物や名勝古跡を原状どおり保存しなければならない。


 第15条 機関、企業所、団体は、地下資源の開発や地下建設のさい、土地陥没による環境の破壊を防止する対策をあらかじめ講じなければならない。

 土地陥没による被害のおそれがあるところでは地下水の汲水を禁ずる。

 第16条 環境造成のために増殖している鳥獣の捕獲を禁じ、我が国にのみ棲息するか、有益な野生動物、水中生物に対しては、当該環境保全監督機関の許可なしに捕獲または採取することができない。

 すべての公民は、野生動物と水中生物の棲息環境を破壊したり、希少な植物をみだりに採取して生態系の均衡を変化させ、勤労者の文化的でうるおいのある生活に支障をきたす行為をしてはならない。


 第17条 都市管理機関と地方の行政・経済指導機関は、公園、遊園地などの憩いの場を随所に整え、道路、鉄道、建物の周辺や区画内の空地、公共の場に樹木や芝生を植え、緑地面積をふやさなければならない。

 都市内やその周辺には、環境造成に支障をきたす樹木は植えてはならない。


 第18条 機関、企業所、団体および公民は、郷土づくりに日常的に参加し、植樹月間、都市美化月間を契機にこれを集中的に行わなければならない。都市と村落での建物や施設物の建設作業のさいには、周辺の環境を汚すことのないようにしなければならない。


第3章 環境汚染の防止

 第19条 環境汚染の防止は公害をなくす先決条件である。

すべての機関、企業所、団体および公民は、国家の環境保全基準と汚染物の排出リミットおよび騒音・振動リミットを厳守しなければならない。

 上記各基準の設定は政務院が行う。


 第20条 当該機関、工場、企業所は大気の汚染を防止するガス・塵埃除去装置、建物と施設物からの臭気を除去する空気ろ過装置を設置し、炉、タンク、配管などの施設を計画的に保守整備しなければならない。

 地方の行政および経済指導機関は、管下の工場、企業所と住民区域間に衛生保護区域を定め、そこに造園しなければならない。


 第21条 ガスや煤煙を許容リミット以上に排出する運輸機材と、ばらの物資を積載して埃を立てたり、汚れた運輸機材の運行を禁止し、騒音、振動が許容リミットを超過する機械設備の稼働を禁止する。

 社会安全機関、通運監督機関、地方政権機関は、主要街路や必要な地域に近代的な排気ガス測定手段を備え、運輸機材のガス、煤煙の排出状態を検査し、大気汚染の防止対策を講じなければならない。

 第22条 当該機関、工場、企業所は排出されるガス、塵埃、煤煙が特殊な気象状況の影響によって大気を甚だしく汚染し、人間または鳥獣に害を及ぼすおそれがある場合は、その排出量を減らし、運輸機材の運行を制限または中止しなければならない。

 気象予報機関は特殊気象現象をその都度、関係機関に通報しなければならない。


 第23条 機関、企業所、団体および公民は、都市住民地域と主要道路の周辺で木の葉やごみを焼却することなく、指定された場所に集めて処理しなければならない。

 都市管理機関と当該機関は、環境保全に支障がないようにごみを適時に搬出しなければならない。


 第24条 機関、企業所、団体は用水の汚染を防ぐための沈澱池と浄化施設を整え、下水と各種廃水を浄化し、それを回収利用する対策を講じなければならない。


 第25条 都市管理機関と当該機関、企業所、団体は上水道施設を定期的に保守整備し、飲料水を十分にろ過、消毒して供給しなければならない。

 取水口と貯水池、排水口の周辺には工場、企業所や建物、施設物を建ててはならず、除草剤、殺虫剤などの有害な化学物質を散布してはならない。


 第26条 いっさいの船舶は共和国の領海、経済水域や港湾、河港、閘門、河川、湖沼、貯水池での航行および停泊時、燃料油や汚水、ごみなどを捨てたり落としたりしてはならない。

 資源開発機関や地方行政および経済指導機関、当該機関は海洋資源の開発や海岸工事のさい、海洋環境を汚染させてはならない。

 
  第27条 船舶運営機関は、船舶にトン数に相当する汚染防止設備または汚水および汚物貯蔵容器をそなえ、海事監督機関の検査をうけなければならない。

 海事監督機関は、船舶の環境保全施設の装備状態を厳密に検査しなければならない。


 第28条 港湾と打港、閘門、埠頭を管理運営する機関、企業所、協同団体は、汚水および汚物処理施設を整えて船舶の汚水と汚物を運びだし、海と川に落ちた燃料油や汚物を浄化または除去しなければならない。


 第29条 当該機関、企業所、団体は下水や各種廃水の沈澱池、浄化場と汚物および工業廃棄物の処理場を海、河川、湖沼、貯水池と飲用水源を汚染させるおそれのないところに定めなければならない。

 剥土場、ボタ処理場、貯炭場、燃え殻および鉱滓処理場は周辺の環境を汚染させないようにつくり、利用後は土をかぶせて植林地もしくは農耕地として利用しなければならない。


 第30条 大気、水、土壌を汚染させたり人体に影響を与えるおそれのある、国家的に禁止されている農薬は生産または輸入することができない。

 農薬の毒性検査は衛生防疫機関が担当する。


 第31条 農業指導機関と農薬を使用する機関、企業所、団体および公民は、農薬が空気中に飛散したり河川、湖沼、貯水池、海に流れ込まないようにし、地中に農薬が蓄積されないようにしなければならない。

 飛行機による殺虫剤などの農薬の散布は当該環境保全監督機関の承認をうけなければならない。


 第32条 放射性物質を生産したり取り扱う機関、工場、企業所は、放射性気体、塵埃、廃水、廃棄物による環境汚染がないようにろ過施設と浄化施設を整え、放射能の濃度を排出許容リミット以下に下げなければならない。

 開放状態の放射性物質を日常的に取り扱う機関、工場、企業所は、周囲環境の放射能汚染程度の調査、測定を定期的に行って、汚染による被害を未然に防止しなければならない。


 第33条 放射性物質を生産、供給、運搬、管理、使用および廃棄する機関、工場、企業所は、放射線監督機関または社会安全機関から放射性物質取扱いの許可をうけなければならない。

 放射線監督機関は、環境を汚染させるおそれのある要素を定期的に調査し、必要な対策を講じなければならない。


 第34条 汚染した魚類、果物などの食品や家畜伺科の輸入は禁止する。

 当該機関、企業所、団体および公民は、食品の生産および取り扱い過程でそれが汚染されないようにしなければならない。


 第35条 有害な物質を排出したり騒音や振動を起こして人間の健康と環境をそこなう設備と技術の輸入や生産導入を禁止する。


 第36条 機関、企業所、団体は、生産過程で生じる有害な物質の排出量と濃度、騒音と振動の大きさを日常的に測定して系統的に引き下げ、当該環境保全監督機関の許可をうけなければならない。

 環境保全監督機関の許可がなかったり許容リミットを超過する有害な物質の排出は許されない。


 第37条 地方政権機関と国土管理機関、当該機関は住民の健康をそこなう工場、企業所を都市の外に移し、貨物輸送道路と鉄道は住民区域外に迂回路を設けるか、地下に入れなければならない。汚染被害をこうむっている住宅は生活環境のよいところに移さなければならない。

 都心には公害発生のおそれがあるか、貨物輸送量の多い工場、企業所を建設してはならず、公害防止施設の整っていない建物、施設物は使用することができない。


第4章 環境保全に対する指導管理

 第38条 環境保全に対する指導管理の強化は、国家の環境保全政策を確実に実行するための重要な要求である。

 国家は環境保全システムを確立し、発展する現実の要請に即応して環境保全管理を改善するための組織指導活動と監督活動を強化する。


 第39条 環境保全に対する国家の統一的指導は政務院が担当する。

 環境保全に対する集団指導を保障し、その都度必要な対策を講ずるため、政務院に非常設環境保全委員会を設ける。


 第40条 環境保全に対する監督活動は国土管理機関と、部門別環境保全監督機関である衛生防疫機関、放射線監督機関および当該の権限を有する機関が担当する。


 第41条 当該機関、企業所、団体は環境保全のための監督および測定と関連して環境保全監督機関と環境保全測定機関が要求する資料と必要な活動条件を保障しなければならない。

 国家計画機関と資材供給機関、財政・銀行機関、労働行政機関は環境保全に必要な設備、資材、資金、労働力をその都度円滑に保障しなければならない。


 第42条 当該中央機関と国土管理機関、地方政権機関は、環境の損傷と汚染状態を全般的に調査し、年次計画を作成して、環境をより立派に保全する対策を講じなければならない。


 第43条 国土計画機関と当該設計審査機関は、環境保全の要求に即応して気象条件と地形条件、海洋条件などを検討して住民地区と産業地区を定め、保健医療機関、気象機関および当該専門機関と合意した技術課題と設計に対してのみ審査、承認しなければならない。


 第44条 竣工検査機関および竣工検査に参加する機関は、公害防止施設を具備していない基本建設対象に対して竣工検査合格承認を与えてはならない。


 第45条 政務院は国家的な公害監視システムを確立し、公害監視・測定機関の役割を高めて環境変化状態を定期的に測定し、下水と各種廃水、工業廃棄物を処理する科学的・技術的対策を講じなければならない。


 第46条 教育機関と出版報道機関は、いろいろな形式と方法で環境保全のための科学知識普及と大衆教育活動を行い、環境保全の分野でおさめた成果を広く紹介、宣伝しなければならない。


第5章 環境破壊に対する損害補償および制裁

 第47条 環境を損傷、破壊、汚染させて人間の健康と国家および社会協同団体、公民の財産に害を与えた機関、企業所、団体および公民は、その損害を補償しなければならない。


 第48条 環境保全秩序の違反によって損害をこうむった機関、企業所、団体および公民は、損害を及ぼした機関、企業所、団体および公民にその補償を請求することができる。


 第49条 環境保全秩序に違反して国土と資源に被害を及ぼした場合は、環境保全監督機関がそれに相当する損害に対して補償させる。


 第50条 港湾監督機関と当該の権限を有する機関は、外国の船舶または人間が我が国の領土と経済水域で大気と水を汚染させたときは、当該の船舶または人間を抑留し、損害に対して補償させるか罰金を支払わせる。


 第51条 環境保全監督機関は環境保全秩序に違反して行う建設、工場の運営と運輸機材の運行を中止させ、当該の建物、施設物を撤去させることができ、違法行為に使われた物資、製品は没収する。

 損傷、破壊、汚染された環境は原状どおり復旧させることができる。


 第52条 団の環境を甚だしく損傷、破壊、汚染させて重大な結果をまねいた機関、企業所、団体の幹部と責任ある公民には、情状によって行政的または刑事上の責任を負わせる。

出典:朝鮮・平壌 外国文出版社 1991
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